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第 4 章 実験装置と手法 77

4.6 原子の撮像

4.7.1 イオントラップ

4.7 カルシウムイオンの捕獲と冷却

一方で残りの向き合った二枚の電極はそれぞれ三分割されている.中央の一対 の電極をGND 電極と呼んでおり,RFのGNDに設定した.残りの二対はそれぞ

れEND1, END2電極と呼んでおり,それぞれに静電圧を加え軸方向の閉じ込めを

行った.

円柱状の一対のCOMPENSATION電極はマイクロモーションを補正するため に取り付けた電極であり,片方を接地し,もう一方に静電圧を加えてイオンのマイ クロモーションの補正を行った.詳細は4.9にて後述する.

32 ブレード型リニアパウルトラップ.(a)5 対,合計10枚の電極から構成 されている.RF電極にRFを印加し,GND電極はRFGNDに設定した.

END1END2電極対は軸方向の閉じ込めを担っており,それぞれ静電圧を印

加した.COMPENSATION電極対はマイクロモーションの補正に用いた電極

である.(具体的な使用方法については4.9

本研究では寸法の異なる二つのブレード型リニアパウルトラップを用いた.片方 はサイドバンド冷却用にラム・ディッケ領域にカルシウムイオンを閉じ込めるため に設計されたため,もう一方に比べ電極間サイズが小さいという特徴を持つ.以下 表 10に電極のサイズを記した.表中ではサイズの異なるリニアパウルトラップを タイプ1,タイプ2とそれぞれを呼称する.第5 章の実験結果のうち5.2から5.5 まではタイプ1,5.6はタイプ2のリニアパウルトラップを用いた.

10 ブレード型イオントラップの寸法 タイプ1 タイプ2 R0 1.3 mm 0.6 mm Z0 5 mm 3.4 mm l1 0.8 mm 0.8 mm l2 6 mm 6 mm l3 8 mm 8 mm l4 12.3 mm 13.3 mm l5 5 mm 3 mm l6 4.3 mm 5.3 mm l7 14 mm 14 mm l8 30 mm 30 mm

RFの発生と増幅

パウルトラップは高周波(RF)電場を用いてイオンの閉じ込めを行う.本研究で はRF発生に二つの手法を用いており一つはRF増幅回路,もう一つはヘリカル共 振器[116]である.RF増幅回路は上項4.7.1に記したイオントラップのうちタイプ 1のイオントラップに対して使用した.一方のヘリカル共振器はタイプ2のイオン トラップに対して用いた.以下に仕様について述べる.

RF増幅回路はトロイダルコアに導線を巻き付けて自作したトロイダルコアトラ ンスを使用した増幅回路であり,ファンクションジェネレータから出力した正弦波 を増幅し,イオントラップのRF電極に接続しRF電場を発生させた.この増幅回 路で増幅したRF周波数は3-5 MHz程度であり,トランスの巻数比を変えることで 共鳴周波数を調整できる.実験に用いた典型的な値として表 11にまとめた.

タイプ2のトラップは Ca+ のサイドバンド冷却を行うために準備されたトラッ プである.そのためRFの発生装置もサイドバンド冷却に必要なパラメータを満た す周波数や出力に合わせて設計した.

サイドバンド冷却を行うためにはイオンをラム-ディッケ領域まで閉じ込める必 要がある.この領域ではイオンの運動が光の波長以下の領域に局在している.ラ ム-ディッケの基準を満たすための必要条件として以下の式 (138)で表されるラム

-ディッケパラメータη1より十分小さくなる必要がある.

η=

Erecoil

ω (138)

ただし,ここで反跳エネルギーErecoil

Erecoil = ℏ2k2 2mion

(139) である.ただし,ω はイオントラップ周波数,k はイオンの任意の準位間の緩和に 伴い放射される光の波数(ここではサイドバンド冷却に用いるS1/2 D5/2 遷移)

を示す.

式(138)からわかるようにラム-ディッケパラメータが1より十分小さいとき,反跳

エネルギーよりもイオンの振動状態の準位間エネルギーの方が十分大きいことを示 す.これは,光の放出によって振動状態が変わらないことを示す.

サイドバンド冷却に用いる光の波長は40Ca+ の場合729 nmであるためトラップ 周波数を上昇させてラム-ディッケパラメータを小さくしなければならない.そこで η = 0.098になるようにω = 2π×1 MHzのトラップ周波数を実現することにした.

このトラップ周波数を実現するためには式 (100)から印加すべきRFの振幅が求ま るが,このとき留意しなければならないのは式 (101)で与えられるq パラメータも RF振幅に比例するため,qパラメータも同時に上昇してしまうことである.すなわ ち,ラム-ディッケパラメータを小さくするためにはRF電圧を上昇させる必要があ るが,同時にqパラメータを小さくするためにRF周波数も上昇させる必要がある (イオントラップの安定条件については3.1.2を参照).そこでヘリカル共振器を用 いたRFの増幅を行った.

ヘリカル共振器は文献[117]を参考に銅製のシールドの役割を果たす筒と二つの 同軸上に配置された銅製のコイルから構築した.二つのコイルのうち小さいものを アンテナコイルと呼び,ファンクションジェネレータの正弦波をRFアンプで増幅 した信号を入力した.もう一方のヘリカルコイルは増幅を行うためのコイルであり,

出力端をイオントラップのRF電極に接続した.イオンの捕獲に用いた典型的な値 は表 11に記述した.

11 RF周波数と振幅の典型値

タイプ1 タイプ2 RF周波数ΩRF×4.8 MHz 2π×24 MHz

RF振幅VRF 44 V 200 V