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第 2 章 原子とイオンの相互作用 33

2.3 原子 - イオンの散乱過程

2.3.2 古典散乱理論

ここでは中性原子-イオン散乱を古典的な観点から概観する.中性原子-イオン散 乱の理論はランジュバンによって研究された[49].古典的な領域での中性原子-イオ ン散乱はそのメカニズムから二つの領域に分けられる.一つはランジュバン散乱で あり,もう一つはグランシング散乱である.また,前述のように散乱過程は弾性散 乱と非弾性散乱に分けられるが,この観点についても記述する.

運動する質量matom の原子と質量mion のイオンの散乱を考える.この二粒子の 相互作用ポテンシャルは 式 (16)で表される.最初,二粒子は無限遠方に離れてお り,近づいてきて散乱するとする.

重心座標系をとることで二粒子の問題を一粒子の問題に帰結する.すると換算質 量µ = mmatommion

atom+mion の粒子が相対速度vrel で運動している仮想粒子が原点にある ターゲットで散乱すると考えることができる.また相対位置ベクトルはr とする.

この散乱は初期相対速度の方向に平行な重心座標系の原点を通る軸について回転 対称性を持つので以下では二次元系で考える.これを図に表すと図 5 のようにか ける.

相対位置ベクトルrは二次元極座標(r, φ)で表すと

r =rcosφˆex+rsinφˆey (22) である.

5 重心系における二粒子の散乱.vrelで入射した仮想粒子は原点にある仮想 ターゲットによって軌道を曲げられる.相互作用しないときの最近接距離がb あり,衝突径数と呼ばれる.実際の最近接距離はr0とおいた.

ˆ

exeˆyx軸,y軸方向の単位ベクトルである.また,図中のbは衝突径数と呼 ばれ,式 (16)で表される相互作用が存在しない際の最近接距離である.

この系の全エネルギーEtotを考える.運動エネルギーとポテンシャルエネルギー の和でかけるので

Etot = µ 2

{(dr dt

)2

+r2 (

dt )2}

C4

r4 (23)

二粒子が無限遠方に離れている初期状態 r → ∞ では相互作用は無視できるので 式 (7)より

Etot|r→∞ = µ

2vrel2 (24)

となる.

ところで,この重心系の仮想粒子が原点周りに持つ角運動量ベクトルLについて 考える.角運動量ベクトルL

L=r×µvrel (25)

となる.

このベクトルの方向は図 5の紙面の法線方向であるが,このベクトルの大きさLL=µr2

dt =µvrelb (26)

と書ける.

式(26)を式 (23)の右辺第一項括弧内の第二項に代入して drdt について解くと dr

dt =±vrel

√ 1 b2

r2 + 2C4

µvrel2r4 (27) となる.

仮想粒子が原点に最近接する点,図 5中のr0 について考える.この最近接点通過時 はrは時間変化しない. つまり,

dr dt

r=r0

= 0 (28)

であるから,式 (27)はr=r0 において

r20 = b2 2 ±

b4

4 2C4

µvrel (29)

となる.

r0 が実数になるためには根号内が正になる必要があるので b4

4 2C4 µvrel

(30) である.

すなわち実数になる境界の衝突係数bcbc =

( 8C4 µvrel

)1/4

= (4C4

Etot

)1/4

(31) となる.以上の議論は学位論文[51]を参考にした.

グランシング散乱

式(31)についてb > bc のとき起きる散乱をグランシング散乱[51]と呼ぶ.この 散乱では粒子はポテンシャルによって軌道を変化させられて運動方向が変化する.

粒子は比較的単純な軌道を描くが,粒子同士はさほど近接せずに散乱するため大き な運動量の変化も起こりにくいと考えられる.同様の理由により,グランシング散 乱では非弾性散乱は起こりづらいと考えられる.分子生成は当然として,電荷交換 散乱やスピン交換散乱が起きるためには原子核に束縛された電子の状態に強く作用 する必要があるからだ.

ランジュバン散乱

式(31)についてb < bc のとき起きる散乱をランジュバン散乱と呼ぶ.このとき,

粒子はポテンシャルにキックされて軌道が単純に曲げられる散乱ではなく,粒子が ポテンシャルにとらわれて,内向きのスパイラルを描きつつ近接して散乱する過程 である.このランジュバン散乱断面積はP. M. Langevinにより

σL=πb2c = 2π

C4

Ecoll (32)

と導出されている[49].

ランジュバン散乱が起きたとき二粒子は非常に近接していき,相互作用ポテン シャルの古典的転換点(turning point)まで近接した後,離れていくと考えられる.

そのため,グランシング散乱よりも大きな運動量の交換が起きると考えられる.ま た,グランシング散乱の場合二粒子が近接しないため,非弾性散乱が起こりづらい と述べたが,ランジュバン散乱の場合,粒子がボーア半径の数倍程度の距離まで近 接するので非弾性散乱が起きると考えられる.すなわち,古典的な散乱領域で,非 弾性散乱が起きたときはランジュバン散乱が起きたと考えることができる.