第 4 章 実験装置と手法 77
4.4 リチウム原子の冷却
4.4.1 原子線の生成
本実験では冷却したリチウム原子集団をカルシウムイオンと相互作用させたが,
リチウム原子集団を得る手法としてリチウム金属固体を熱し,熱原子線を生じさせ た.本節では特に実験に使用したリチウム原子と熱原子線の発生手法,制御方法に ついて述べる.
原子オーブン
本研究では絶対零度近傍まで冷却したリチウム原子気体を対象としているが,こ うした原子気体を生成するために固体のリチウム原子を原子源として用いている.
リチウム原子は質量数6と7の原子が自然界に安定に存在する.本研究ではフェル ミ同位体である6Liを用いたが,この同位体の天然存在比は7.5 %と低いため,そ の存在比を95.5 %まで濃縮したリチウムを使用した.図 14中の原子オーブンにリ チウムの固体を詰め,原子源とした.リチウム固体をつめた本体部分とそこから枝 分かれしたノズル部分を独立したヒーターで各々温調した.本体部分とノズル部分 はそれぞれ約340 ◦C,500 ◦C程度まで加熱しリチウムの蒸気を得た.なおリチウ ムの融点は181 ◦C,沸点は1347 ◦Cである.ノズル部分をより高温にしたのは原 子のつまりを防ぎ効率よくリチウム蒸気をソースチャンバーへと流出させるためで ある.ノズル部分は細く長く設計することで原子チャンバーへと向かう原子の立体 角を制限するとともに真空度の悪化を防いでいる.原子を加熱するヒーターは実験 中のみ動作させ,実験中以外ではリチウムの蒸気を抑えた.ヒーターの電源を切る 際のノズル部分は細く詰まりやすいためヒーターの電源を切るのを遅らせた.この
動作を実現するためにヒーターの温調回路にタイマー回路を追加し,一時間程度遅 らせて電源を切った.
ソースチャンバー
原子オーブンから生じたリチウム原子は次にソースチャンバーに流入する.ソー スチャンバー内に金属板を挿入し二室に分離し,金属板に穴をあけて二室をつなぐ ことでゼーマン減速器へとつながる真空装置の真空度悪化を防ぎ,ゼーマン減速器 につながる立体角を制限した.
金属板に穿った穴の直後に短冊状の金属片を設置し,回転導入器に取り付け,原子 線シャッターとした.原子線シャッターを開閉することで原子線の原子チャンバー への流入を制御した.これも真空度の悪化を防ぐ措置である.なお原子線シャッ ターの開閉を自動制御にするため,ステッピングモーターで回転させる機構を設け た.ステッピングモーターのドライブ回路はTTLで動作し,コンピュータで制御 可能にした.
ソースチャンバーの上部にはパージポートを設けた.原子を交換,補充するため に真空を破壊する際に窒素ガスを導入するためのポートである.ソースチャンバー 内を窒素ガスで充填し,陽圧にすることで外界の異物の侵入を防ぎ,再度真空を引 きやすくするためである.
図15 原子オーブンとソースチャンバーの配置.原子オーブンから出た熱原子気 体は細管を通りソースチャンバー中の開口部を通過する.開口部の直後に回転導 入器に接続された原子線シャッターを設けて原子線のゼーマン減速器への流入を 制御した.