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第 4 章 実験装置と手法 77

4.2 実験手法概要

前節4.1では実験に用いた主要な装置や技術要素の概要を示した.本節ではこれ らを踏まえ,原子-イオン混合系での典型的な実験の流れを示す.ここでは流れを重 視して簡潔な説明を行い,具体的なセッティングやパラメータは本節より後に記述

する.

6Li原子-40Ca+ イオン混合系の実験装置の全体像を図 13に示した.この図をも とに以下に典型的な実験フローを箇条書きで示す.なお,この手順は実験のおおま かな流れを追ったものであり,厳密なタイミングを記したものではない.

1. イオントラップの各電極に適切なRF,静電圧を加え, トラップポテンシャル を発生させる.Ca原子源に電流を流して加熱し,Ca原子気体を発生させる.

光イオン化用の423 nm, 375 nmレーザーおよびドップラー冷却光397 nm,

866 nmレーザーを照射する.任意個数のイオンを捕獲した後,原子源への

電流を止め,光イオン化レーザーを遮断する.

2. 原子シャッターを開き,原子オーブンからLiの熱原子線を出射させる.ゼー マン減速器の各コイルに適切な電流を流し,磁場を発生させる.同時にゼー マン減速用のレーザーを入射し,原子線を減速する.また磁気光学トラッ プ用のレーザーを入射し,コイル対に電流を流し四重極磁場を発生させて,

MOTを用いて原子を冷却,捕獲する.

3. 原子気体の温度を下げ,密度を増加させるために MOT の磁場勾配,レー ザー周波数を変化させてCMOTを行う.

4. MOTの周りに配した光共振器ミラーに発振波長1064 nmのDPSSレーザー の出力を照射する.入射レーザーの波長に対して共振器が共鳴するように フィードバック制御し,光共振器内で光を増幅し,CMOTから光共振器ト ラップへ原子気体の移行を行う.

5. MOT に 使 用 し た コ イ ル 対 に 同 方 向 に 電 流 を 流 し ,300 G の 均 一 磁 場 を 発 生 さ せ ,光 共 振 器 ト ラ ッ プ 内 に 捕 獲 さ れ た 6Li 原 子 の 基 底 状 態 の

|F = 1/2, mF = 1/2 |F = 1/2, mF =1/2 間の散乱断面積を増加さ せる.共振器トラップ中の原子に対してシングルビームトラップ用の発振波

長1064 nmのファイバーレーザーを照射する.共振を保ったまま入射する

レーザー強度を減少させ,ポテンシャルを徐々に浅くする.こうした操作は 一種の蒸発冷却を行って,より多数の低温原子集団をシングルビームトラッ プに捕獲するためである.以上のように光共振器トラップからシングルビー ムトラップに移行する.

6. シングルビームトラップの光学系中に配置したエアベアリングステージ上の レンズを移動させ,シングルビームトラップの焦点位置をイオントラップの 中心まで動かす.焦点付近に捕獲された原子気体とイオントラップ中のイオ ンを空間的にオーバーラップする(図 13(b)を参照)

7. 原子とイオンを相互作用させた後,リチウム原子気体あるいはイオントラッ プ中のイオンの状態を観測する.

13 6Li原子-40Ca+イオン混合系の実験装置.(a)実験装置の全体像.イオン トラップに対して光イオン化レーザーおよびドップラー冷却レーザーを照射し,

Ca+イオンの生成と冷却を行った.原子オーブンから出射した熱原子線はゼーマ ン減速器を通過し,MOTで捕獲,冷却される.MOTから光トラップに移行し,

原子気体をイオンまで輸送し,混合する.(b)混合された6Li原子気体と40Ca+ イオンの模式図.葉巻状の原子集団と単一から少数個のイオンが互いに散乱する.