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電荷交換断面積の内部状態依存性

第 5 章 内部状態選択による非弾性散乱の制御 153

5.5 電荷交換断面積の内部状態依存性

基底状態42S1/2

Ca+イオンの基底状態における電荷交換散乱は我々が実現した原子密度では測定 することが出来なかったため,断面積の上限を与えたのみである.つまり基底状態 の反応性がほかの準位に比べ著しく低い.

図 62にポテンシャルエネルギー曲線のうち基底状態のみを強調表示したものを 示す(図 4に示したMaurice Raoult, Humberto Da Silva Jr., Olivier Dulieuの 計算によるポテンシャルエネルギー曲線と同一のものである).赤線で表示したの が電荷交換前のLi(2s) + Ca+(4s)の状態であり,青線で表示したのが電荷交換後の

Li++ Ca(1S)の状態のポテンシャルエネルギー曲線である(実線はスピン一重項状

態,破線は三重項である).このエントランスチャンネルは近接したエネルギー曲線 が存在せず状態間の結合も見て取れないため反応性が低いと考えられる.このよう な場合,差分のエネルギーを光とし放出する放射性電荷交換散乱によって遷移しう るが,放射性の電荷交換は非常に遷移確率が低い[130](図 61を参照)ために観測 に至らなかったと考えられる.すなわち,このチャンネルでランジュバン散乱がお きても弾性散乱のみが起きると考えられる.

62 Li(2s) + Ca+(4s)のポテンシャルエネルギー曲線.

なお,この性質は非弾性散乱を起こしたくない共同冷却にとっては有利と言える.

実際,Li-Ca+実験系共同冷却を行った文献[58] では基底状態で共同冷却を試みた.

準安定状態32D3/2,32D5/2

カルシウムイオンの準安定状態32D3/2と32D5/2 の状態はいずれも高い反応性を 示した.図 63にポテンシャルエネルギー曲線のうちエントランスチャンネルであ るLi(2s) + Ca+(3d)の三重項状態と電荷交換後の状態であるLi++ Ca(3P)の三重 項状態のみをそれぞれ赤線,青線強調表示したものを示す.この状態間には9.69a0 の結合に起因する擬交差が存在する(a0 はボーア半径である).この擬交差による 遷移確率PLZはランダウ・ツェナーモデルによる計算によりPLZ = 0.556と計算さ れる.この値はD状態の反応性の高さを説明する非常に大きい遷移確率であると言 える.なぜなら,このチャンネルでランジュバン散乱が起きたとき,古典的な粒子 が擬交差を通過するのは2回存在する.位相シフトの効果など他の影響をを完全に 無視すれば,2回の擬交差の通過によって電荷交換する確率は0.494となる.すな わち,D状態の反応性の高さはこの結合に起因していると考えられる.また遷移し た状態Li++ Ca(3P)は最終的にLi++ Ca(1S)に緩和すると考えられる.

一方で32D3/2 32D5/2 間にも反応性の違いがみられた.このポテンシャルエ ネルギー曲線はスピン軌道相互作用を考慮していないためこの反応性の違いは説明 できないが,スピン軌道相互作用が影響したポテンシャルエネルギーの変化が反応 性に影響していると考えられる.

またこの結果はBasel大学のS. WillitschらのグループによるMOT中のRb原 子とCa+ イオンの電荷交換散乱と大きく異なる結果を示している.当該論文中で はD状態の反応性は低く,それを裏付けるようにポテンシャルエネルギー曲線に結 合が存在しないことが報告された[33].

励起状態42P1/2

励起状態42P1/2 は高い反応性を見せた,しかしながら,ポテンシャルエネルギー 曲線上には状態間の結合は見受けられなかった.しかし,励起状態周辺は様々な状 態が複雑に入り混じっているため,スピン軌道相互作用等を考慮にいれた場合,状 態間の結合が見られるようになるかもしれない.今後も解析必要とされる状態であ ると言える.

63 Li(2s) + Ca+(3d)のポテンシャルエネルギー曲線.三重項状態のみ表示した.