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シングルビームトラップ

第 4 章 実験装置と手法 77

4.5 原子の光トラップ

4.5.3 シングルビームトラップ

エアベアリングステージ

シングルビームトラップで捕獲された原子は八角柱状のチャンバーの中心に捕獲 されている.これをイオンと混合するためにイオントラップ中のカルシウムイオン まで輸送する必要がある.光トラップ中の原子はレーザーの焦点位置付近にトラッ プされているので焦点位置を移動させれば,原子気体も移動させることができる.

焦点を位置を移動させるためにはレンズの位置をシフトさせればよい.

リチウム原子の初期位置とイオントラップの中心までは40 cm離れている.加え て,光トラップの焦点の大きさは数十µmであり,イオンのサイズは数µm程度で あることを考慮するとレンズの移動には高い精度が要求される.さらに移動時に振 動があると光トラップ中の中性原子は加熱されてロスにつながるため,振動が極力 抑えられることが望ましい.また中性原子とイオンの混合実験は何回も原子を輸送 して測定を行うため再現性も重要なファクターとなる.

以 上 の よ う な 要 求 か ら AEROTECH 社 の「

ABL-15050-M-10-NC-LT50AS-SINGLE-CMS」を使用した.このステージは圧縮空気でステージを浮かせ空気膜

を潤滑膜とする非接触可動式ステージである.非接触式のステージは移動時や停止 時の振動が少なく,位置決め精度や再現性も高いため採用した.

焦点サイズが変わらない配置

原子集団を原子チャンバーの中心からイオントラップの中心まで運ぶとき,シン グルビームトラップの焦点をシフトしたが,この際に焦点サイズが変化すると中性 原子のトラップ周波数が変化してしまう.そこで焦点のサイズが変化しない光学配 置を採用した.これは図 24のようにチャンバー直前に配置したレンズペア間の距 離がそれらのレンズの焦点距離に和になるように構成した.また,このレンズペア の前においたレンズをエアベアリングステージ上に置き位置をシフトさせた.この 配置をとるとシフトさせるレンズの位置に関わらず焦点サイズは変化しない.

キャッツアイ配置

シングルビームトラップは光共振器トラップの中心を貫いて,かつ40 cm離れ たイオントラップの中心を貫かなければならない.こうした系のアライメントを簡 便する手法がキャッツアイ配置である.これはビームの焦点にミラーを置き,ビー ム位置が焦点のあるミラーの動きに対して鈍感になることを利用した.図 24(a)の ようにレンズのシフト前は手前のMirror2に焦点を結ぶようにし,シフト後は(b) のようにもう一つのMirror1に焦点を結ぶようにした.図 24(a)のように原子チャ ンバーの中心に焦点を結んでいるときはMirror1を動かすことでアライメントを行 い,レンズをシフトさせイオントラップの中心に焦点を結んでいるときはMirror2 を動かすことでアライメントした.

光学系

シングルビームトラップの光源には古河電工製ファイバーレーザー「ASF15R30」 を用いた.発振波長は1064nmである.20 W程度の出力をシングルビームトラッ プのレーザーを高速にスイッチするためAOMを通過させ,その回折光を使用した.

レンズを用いて適当なビームサイズに変更した後,エアベアリングステージ上のレ ンズを通し,上に記述した焦点サイズが変わらないように設定したレンズペアを通 過させ原子に照射した.このとき,上述のキャッツアイ配置を満たすようにミラー を置いた.

またチャンバー直前のレンズ(図24中の焦点距離f1 のレンズ)はNewport社製 のアクチュエータを取り付け上下左右に駆動できるようにした.このレンズを上下 左右させることで最終的なイオンとのオーバーラップ位置を微調できるようにした.

24 焦点距離が変わらない配置とキャッツアイ配置.(a)原子の初期捕獲位置 に焦点があるとき..(b)イオントラップ中心まで焦点をシフトさせたとき.

原子の輸送

リチウム原子を輸送する際,原子への加熱は極力抑えつつも,バックグラウンド ガスとの散乱によるロスの観点から短い時間で輸送することが望ましい.そこで実

験では約40 cm の焦点シフトを20 cmのレンズシフトで実現できるように光学系

を構築した.

また移動時の原子の加熱を抑えるために一定の加速度で速度を上昇させ,一定の 速度に到達したら等速で原子を運び,また一定の加速度で減速させた.こうして加 速時と停止時の原子の加熱を防いだ.この手法でシングルビームトラップ内の約1 割の原子をイオントラップまで輸送した.

原子の移行効率と輸送効率

中性原子気体の捕獲は上記のようにMOT,光共振器トラップ,シングルビームト ラップと順次移行し,最終的にシングルビームトラップ中の原子を初期捕獲位置か らイオントラップ中心まで輸送した.ここでは各捕獲手法による捕獲原子数につい て典型的な値を示す.また,原子集団の撮像画像も併せて示した.表 8に原子数を 図 25に撮像画像を示した.(a)は共振器トラップの1 msTOF画像である.また,

シングルビームトラップについて(b)に輸送前の原子気体の500 µsTOF画像と(c) に輸送後の原子気体のイントラップ画像を示した.なお,原子の撮像手法と原子気

体の温度見積もりについては4.6にて後述した.

8 Li原子の原子数

手法 原子数

MOT 108

光共振器トラップ 107 シングルビームトラップ(輸送前) 105-106 シングルビームトラップ(輸送後) 104

25 原 子 気 体 の 吸 収 撮 像 イ メ ー ジ .(a) 光 共 振 器 ト ラ ッ プ 中 の 原 子 気 体 1 msTOF 画像.(b) 原子チャンバーにおけるシングルビームトラップ中の原 子気体 500 µsTOF 画像.(c) イオントラップ中心におけるシングルビームト ラップ中の原子気体イントラップ画像.十字型の構造はイオントラップの電極に よる.