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第 4 章 実験装置と手法 77

4.6 原子の撮像

4.7.2 イオンの生成

11 RF周波数と振幅の典型値

タイプ1 タイプ2 RF周波数ΩRF×4.8 MHz 2π×24 MHz

RF振幅VRF 44 V 200 V

33 Ca原子の準位.

カルシウム原子源

本研究では典型的に数個から十数個のカルシウムイオンをイオントラップ中に捕 獲し,リチウム原子と相互作用させた.小数個のイオンを捕まえれば事足りるため 上記したリチウム原子オーブンのように大規模なオーブンは必要ない.むしろイオ ンは外部電場に敏感なため大量のカルシウム蒸気をイオントラップに吹き付けない ことが求められる.そこで原子源には小型のオーブンをイオントラップの近くに配 置し,カルシウムイオンをトラップする際のみ電流を流し,加熱して中性カルシウ ム原子の蒸気を得た.

実験に用いたカルシウム原子源はAlvatec社のmetal vapar sourceである.この 原子源には単体のカルシウム固体が封入されており,アルゴンガスを充填した後イ ンジウムでシールされている.カルシウムには質量数40,42,43,44,46,48の 安定同位体が存在するが,使用した原子源はこれらの同位体を含む.本研究では質 量数40の同位体の一価プラスイオンである40Ca+ を対象にした.40Caは存在比

96.9 %であり,同位体シフトにより光イオン化の周波数も異なるため実験に耐えう

るレベルで用いることができた.

図 34が設置したカルシウム原子源とイオントラップの配置である.原子源の開 口から漏れるカルシウムの蒸気がイオンチャンバー中に配置されたイオントラップ の中央を通るように据え付けた.カルシウム原子がイオントラップに蒸着されない よう原子源の出射口とイオントラップ中央の間にピンホールを設けた.これはカル シウム原子がイオントラップ電極に付着し,光イオン化レーザーでイオン化される

と電場を生じる.これはパッチポテンシャルと呼ばれ,トラップ条件をゆるやかに 変化させるためこれを防ぐために設置したものである.

カルシウム原子源はインジウムでシールされているため実際に使用するときにア クティベーションする必要がある.アクティベーションはベイキング時に原子源に 電流を流すことで行った.ベイキング後,カルシウムイオンを捕獲する際は典型的 に3 A程度を原子源に流してカルシウム原子気体を得た.オーブンに流す電流はイ オントラップ条件や捕獲したいイオンの個数などによって変化させており,初めて イオンを捕獲するときなどイオントラップの条件が最適値から遠い場合は3.5-4.0 A 程度,トラップを最適条件に合わせた後は2.5-3.0 A程度の電流をオーブンに流し,

特に単一イオンを捕獲する際は電流を流し始めてからイオンが捕獲されるまで1分 程度になるような電流値で実験を行った.オーブンの電流値は捕獲するイオン数の 制御という観点からも重要だが,イオントラップへの蒸着を極力抑えるという点に おいても重要であり,この観点からはなるべく電流を下げる方が良い.しかしなが ら実験の都合上イオンのロード時間として許容できる範囲で実験を行った.

34 イオントラップとCa 原子源の配置.中央が実験に用いたブレード型リ ニアパウルトラップ.中央下に見える筒がCa原子源であり,出射口がイオント ラップの中央を向くように取り付けた.図中に見えるオレンジ色の線はイオント ラップの電極の配線である.

423 nm光源

光イオン化の41S0 41P1 遷移励起用の423 nm 光源として半導体レーザー

NICHIA NDV4A16Eを用いてリトロー型の外部共振器型半導体レーザーを構築し

た.回折格子はミラーマウントに設置し,ミラーマウントに取り付けたピエゾ素子 で波長を微調できるようにした.半導体レーザーにはThorlabs社製「LDC202C」 半導体レーザーコントローラーを用いて約60 mAで駆動し,9.5 mW の出力を得 た.また発振周波数を安定化するため温調した.温調にはペルチェ素子を半導体 レーザーと外部共振器の下に設置しThorlabs社製「TED200C」で行った.なお温 度センサーとしてAD590を用いた.

図35に光源の光学系を記した.出射されたレーザー光はアイソレータ通過させ たうえでファブリ・ペロー共振器とHighFinesse社製の波長計にそれぞれ550µW, 100 µW 入射させた.ファブリ・ペロー共振器でシングルモード発振していること を確認し,波長計にて周波数を確認,調整した.また6.3 mWの光をマルチモード ファイバーにカップリングさせイオントラップまで導いた.なおファイバー後の光 学系は4.7.3に記した.

35 423 nm光学系.リトロー型の ECDLの出射レーザーをマルチモード ファイバーに入射してイオントラップへまで伝播させた.ファイバーの出射端か 2.1 mWの出力を得た.ファイバー後の光学系は4.7.3に示した.

カルシウム原子の41S0 41P1 の遷移の自然幅は35.4 MHz であるので正確な 遷移周波数に調整するには何らかの基準をもとに調整する必要がある.さらにカル シウム原子源から噴き出したカルシウム原子は423 nmの入射に対して斜めから対 向する配置になっている(図 34を参照)ため,ドップラーシフトによって共鳴周波 数は大きくずれていると考えられる.そこでカルシウム原子に対してレーザーを照 射した状態でレーザー周波数を掃引し,カルシウム原子からの蛍光が最も大きくな るように調整した.41S0 41P1 の蛍光を図 36に示す.図中央のイオントラップ のスリット部分の中心あたりに見える筋が41S0 41P1 の蛍光である.

前述のように使用した原子源には同位体原子が含まれているが,そのほとんど が40Caであるため最も蛍光が大きくなる波長が多数の40Ca を励起出来ていると 考えた.しかしながら時として同位体原子が励起,イオン化され捕獲されることも あった.これら同位体は今回準備した冷却光ではレーザー冷却されず,加熱をもた らす等,実験において歓迎されるものではない.こういった事態をなるべく防ぐ ため,カルシウム原子の遷移周波数の同位体シフトを用いた.カルシウム原子の 41S0 41P1 遷移は40Caが最も長波長側にあり,質量数の増加とともに短波側に

ずれる[118].また前述のように原子源とレーザー光の配置上,共鳴は全体的に短

波側にドップラーシフトすると考えられるためレーザーを最も蛍光が大きくなる波 長からわずかに長波長側にずらすことでほとんど40Caのみに共鳴させることがで きると考えられる.実際,短波側にレーザーをずらすと同位体が捕獲される(冷却 レーザーには共鳴しないため蛍光は発しないが,冷却された40Caとの散乱により 共同冷却され捕捉できる)確率があがり,長波側にずらすとほとんど見られること はなくなった.

375 nm光源

423 nm光源によって41P1 に励起されたカルシウム原子を連続状態にまで励起

する光源として 375 nm を用いた.前述のように連続状態まで励起するためには

389 nm以下の波長のレーザーを照射すればよいため外部共振器型半導体レーザー

を構築する必要はない.そこで半導体レーザーである NICHIA NDU1113E をフ リーランで使用した.電流を典型的に56 mA流し駆動し,640 µWの出力を得た.

具体的な光学系については4.7.3に記す.

36 Ca原子の41S041P1蛍光.イオントラップのスリット中央の付近に 見える筋がCa原子の蛍光である.