3. 全試験を通しての結果の比較と解析
3.5 薬力学を検討した試験およびその結果
3.5.2 DPP-4阻害
DPP-4
は,Glucagon-like peptide-1(GLP-1)およびGastric Inhibitory Polypeptide(GIP)を含む
インクレチンを切断して不活化する酵素である[CTD 4.3-6,R10-0834]。食後,腸管から放出 されるこれらのホルモンにより,インスリン分泌の促進および膵臓からのグルコース依存的な グルカゴン分泌の阻害がおこる[CTD 5.4-37,R10-2432
;CTD 5.4-39, R10-2434]。したがって,
DPP-4
を阻害するとインクレチンの分解が抑制され,これによりインスリン分泌促進およびグルカゴン分泌阻害がおこり血糖値が低下すると予想される。
DPP-4
阻害剤の作用機序を図3.5.2:
1
に示す。図3.5.2: 1 リナグリプチンの作用機序
いくつかの臨床試験において,リナグリプチンの薬理作用の直接的なマーカーとしてリナグリ プチンによる
DPP-4
阻害の測定を行った。他のDPP-4
阻害剤において,80%以上の DPP-4
阻害 が24
時間以上持続すると最大のインクレチン反応および血糖低下の効果が得られることが非 臨床試験により示されている[CTD 5.4-29,R09-6021;CTD 5.4-25,R09-4256]。臨床試験でリ ナグリプチン投与後,血漿中DPP-4
は速やかに阻害され,その阻害は強力かつ長時間持続した。リナグリプチンの単回投与後の最大
DPP-4
阻害率は,2.5 mgで72%,5 mg
で88.5%,25 mg
以上で
95%を上回っており,リナグリプチンは既に単回投与後でも DPP-4
を強力に阻害していた[CTD 5.3.3.1-1,試験
1218.1]。定常状態ではリナグリプチン 5 mg
または10 mg 1
日1
回反復 投与後の血漿中DPP-4
阻害率は投与後24
時間を通して80%を上回っていた[CTD 5.3.3.2-1,
試験
1218.2;CTD 5.3.5.1-1,試験 1218.3]。日本人患者においてもリナグリプチン 5 mg
によっ てトラフ時に80%を上回る DPP-4
阻害がみられ[CTD 5.3.5.1-9,試験1218.23,表 3.5.2: 2],白
人および日本人の健康被験者も同様であった(表3.5.2: 1
参照)。第III
相試験(5 mg投与)か ら得られたトラフ時DPP-4
阻害率を外国人患者(1218.16試験)および日本人患者(1218.23試 験)で比較したところ,トラフ時のDPP-4
阻害率はいずれの民族でも80%を上回っていた(表 3.5.2: 2)。この結果から,外国人と日本人で血漿中濃度および薬力学的反応に大きな違いはな
いと考えられた。メトホルミンの併用投与,腎機能障害,また肝機能障害によって,定常状態DPP-4
阻害率に対する変化はみられなかった。種々の被験者において1 mg,2.5 mg,5 mg
および
10 mg
反復投与(投与期間4
週間以下)後のトラフ時におけるDPP-4
阻害率を以下の表3.5.2:
1
にまとめる。インスリン 分泌促進
インクレチン
DPP-4 によるイ ンクレチ ンの不活
化
リナグリプチンによるDPP-4阻害 血糖の
低下
グルカゴン 分泌阻害
表3.5.2: 1 患者および健康被験者におけるリナグリプチン(1 mg,2.5 mg,5 mgおよび10 mg)反復投与後のトラフ時のDPP-4阻 害率の中央値(範囲)
1 mg 2.5 mg 5 mg 10 mg
白人
1218.2(T2DM患者における12日間反復) 60.0 (57.0 - 71.0) 77.0 (73.0 - 82.0) 85.5 (88.0 - 78.0) 90.0 (85.0 - 92.0) 1218.3(T2DM患者における4週間反復) 81.0 (68.0 – 90.0) 88.0 (81.0 – 92.0) 90.0 (87.0 - 93.0)
1218.4(HVにおけるメトホルミンDDI)(リナグリプチン単独) 91.0 (86.0 – 93.0)
1218.4(HVにおけるメトホルミンDDI)(リナグリプチン-メトホルミン併用) 92.5 (89.0 – 94.0)
1218.67(HVにおけるリファンピシンDDI)(リナグリプチン単独) 81.1 (59.6 – 88.1)
1218.67(HVにおけるリファンピシンDDI)(リナグリプチン-リファンピシン併用) 52.7 (37.2 – 69.9)
1218.26(RI試験)(軽度RI)a) 87.2 (85.8 – 90.0)
1218.26(RI試験)(中等度RI)a) 91.1 (89.0 – 92.9)
1218.26(RI試験)(高度RIのT2DM患者) 90.6 (86.0 – 94.2)
1218.26(RI試験)(対照群HV) 84.0 (70.3 – 88.3)
1218.26(RI試験)(対照群T2DM患者) 89.4 (84.8 – 92.5)
1218.27(HI試験)(軽度HI)a) 90.4 (83.0 – 92.8)
1218.27(HI試験)(中等度HI)a) 88.7 (71.2 – 93.6)
1218.27(HI試験)(対照群HV) 90.6 (85.5 – 93.8)
1218.37(T2DM患者における4週間試験) 82.2 (77.1 – 91.7)
日本人
1218.11(健康被験者における単回および12日間反復) 78.0 (75.0 – 85.0) 86.0 (81.0 – 89.0) 90.0 (87.0 – 91.0)
1218.12(T2DM患者における4週間反復) 80.0 (67.0 – 85.0) 90.0 (86.0 – 92.0)
試験1218.2, 1218.3, 1218.5および1218.6データを用いた母集団薬物動態/薬力学解析 60.0 77.0 84.8 89.5
T2DM=2型糖尿病,RI=腎機能障害,HI=肝機能障害,HV=健康被験者
a)2型糖尿病患者ではない腎機能障害/肝機能障害患者,
hringer Ingelheim Co., Ltd.
臨床薬理試験Page 137
表3.5.2: 2 外国人および日本人にリナグリプチン5 mgを1日1回反復投与時の定常状 態でのトラフ時のDPP-4阻害率の比較
トラフ時の DPP-4阻害率
[%]
外国人
(試験1218.16)
日本人
(試験1218.23)
N 中央値 (範囲) N 中央値 (範囲)
Week 12 297 84.2 (-35.2 - 99.2) 159 81.4 (26.6 - 95.4) Week 24 / 26 260 82.8 (-309.2 - 95.2) 159 81.0 (55.7 - 93.0) 引用元: CTD 5.3.5.1-6,試験1218.16,Table 15.7.1: 1;
CTD 5.3.5.1-9,試験1218.23,Table 15.2.4: 1 and Table 15.2.4: 4
表
3.5.2: 1
に示したように,リナグリプチン5 mg
反復投与後,80%以上のDPP-4
阻害率が24
時間持続し,より高用量でもトラフ時のDPP-4
阻害率の中央値がこれを大きく上回ることはな かった。したがってDPP-4
阻害率に基づくと,臨床用量としては5 mg
が適切であると考えら れた。さらに,12週間投与試験である試験1218.6[CTD 5.3.5.1-3]において,10 mg
投与時に5 mg
投与時のHbA1c
低下作用を上回る作用はみられなかったことから,5 mgが臨床用量として適切であることが示された。また日本人患者を対象とした試験
1218.23
において,リナグリ プチン5 mg
および10 mg
を12
週間投与時のHbA1c
の低下およびDPP-4
阻害率は同程度であ った(リナグリプチン5 mg
投与時のプラセボで補正したHbA1c
のベースラインからの変化は−0.87%であり,
10 mg
投与時は−0.88%であった。DPP-4
阻害率に関しては表3.5.2: 1
参照)[CTD5.3.5.1-9,試験 1218.23]。有効性に関する主要評価項目の詳細については,CTD 2.7.3,4
項に 記載されている。図
3.5.2: 2
において試験1218.2
を例として示したように,リナグリプチン血漿中濃度とDPP-4
阻害率との相関は良好であった。Linagliptin plasma conc. [nmol/L]
0.1 1 10 100
DPP-4 inhibit ion [%]
0 20 40 60 80 100 120
C
max,ssC
pre,ss破線の横線はDPP-4阻害率50%および80%を示し,実線の縦線は試験1218.2におけるCpre,ssおよびCmax,ss の幾何平均値を示す
引用元:CTD 5.3.3.2-1,試験1218.2,Table 15.5.1.1: 7 to 10 and Table 15.6.1: 18 - 21より作成
図3.5.2: 2 血漿中DPP-4阻害率とリナグリプチン血漿中濃度の関係(試験1218.2)
薬物相互作用試験である試験
1218.4[CTD 5.3.3.4-1,メトホルミン]および試験 1218.67
[CTD 5.3.3.4-9,リファンピシン]においても,リナグリプチンの血漿中濃度と
DPP-4
阻害率 の関係を検討した。これらの試験でもリナグリプチンの血漿中濃度とDPP-4
阻害率の相関は良 好であり,メトホルミンまたはリファンピシンの併用による影響を受けなかった。同様に,日 本人においてもリナグリプチンの血漿中濃度とDPP-4
阻害率の相関がみられた(試験1218.11
および1218.12[CTD 5.3.3.1-3
およびCTD 5.3.5.1-4])。また,試験 1218.26[CTD 5.3.3.3-1]お
よび試験1218.27[CTD 5.3.3.3-2]においてリナグリプチンの血漿中濃度と DPP-4
阻害率の関 係を検討した結果,腎機能障害または肝機能障害の影響はみられなかった。様々な試験結果を 視覚的に判断した結果,約3~5 nM
のリナグリプチン濃度によってDPP-4
活性が50%阻害され,
4~6 nM
の濃度によって80%阻害された。母集団薬物動態/薬力学解析[CTD 5.3.3.5-2,
U -1554-01]において,年齢,体重,BMI,性別,ALT,AST,FPG,飲酒,喫煙およびクレ
アチニンクリアランスを含む様々な共変量の影響の有無を検討した。統計学的に有意であった いずれの共変量も,50%または80% DPP-4
阻害を生じる濃度に対して±20%を上回る影響を与 えないことから,いずれの共変量による影響も臨床的に問題にならないと考えられた(2.24項Linagliptin plasma conc. [nM]
参照)。母集団薬物動態/薬力学解析の結果,