3. 全試験を通しての結果の比較と解析
3.2 健康被験者および2型糖尿病患者におけるリナグリプチンの基本的な薬物動態
3.2.3 要約および考察
リナグリプチンの薬物動態
単回投与および反復投与後,リナグリプチンは速やかに吸収され,その最高血漿中濃度到達時 間(tmax)の中央値は約
1.5
時間(範囲:0.5~8.0時間)であることから,主な吸収部位は小腸上部であることが示唆される。臨床用量付近では,リナグリプチン血漿中濃度は
C
max到達後に 少なくとも二相性に低下する。リナグリプチンの単回投与および反復投与後の算術平均血漿中 濃度-時間推移を図3.2.3: 1
および図3.2.3: 2
に示す。0 24 48 72 96 120 144 168 192 216 240 264
Linagliptin plasma concentrations [nM]
0 2 4 6 8 10 12 14
0 24 48 72 96 120 144 168 192 216 240 264
Linagliptin plasma concentrations [nM]
0.1 1 10
0 4 8 12 16 20 24
Linagliptin plasma concentrations [nM]
0 2 4 6 8 10 12 14
Time [hours]
iFF投与時のデータ,上図:普通軸,中図:片対数軸,下図:普通軸(投与24時間後まで)
引用元:CTD 5.3.1.2-1,試験1218.25,Table 15.5.1.1: 6より作成
図3.2.3: 1 健康被験者におけるリナグリプチン5 mg単回経口投与後のリナグリプチン
血漿中濃度-時間推移(試験1218.25,平均値±SD)
0 12 24 36 48 60 72 84 96 108 120 132 144 156 168 180 192
Linagliptin plasma concentrations [nM]
0 2 4 6 8 10 12 14
0 12 24 36 48 60 72 84 96 108 120 132 144 156 168 180 192
Linagliptin plasma concentrations [nM]
1 10
0 4 8 12 16 20 24
Linagliptin plasma concentrations [nM]
0 2 4 6 8 10 12 14
Time [hours]
上図:普通軸,中図:片対数軸,下図:普通軸(投与24時間後まで)
引用元: CTD 5.3.3.2-1,試験1218.2,Table 15.5.1.1: 9より作成
図3.2.3: 2 2型糖尿病患者におけるリナグリプチン 5 mg 反復経口投与後の定常状態で
のリナグリプチン血漿中濃度-時間推移(試験1218.2,平均値±SD)
臨床用量を上回る用量(25~600 mg)におけるリナグリプチン単回投与後の曝露は,
25~100 mg
では用量比を上回って上昇し,100~600 mgではほぼ用量比例的に上昇した[CTD 5.3.3.1-1,試験
1218.1]。一方,臨床用量である 5 mg
を含む1~10 mg
では,単回投与および反復投与後のリナグリプチンの薬物動態はいずれも非線形性を示し,Cmaxおよび
AUC
の増加は用量比以 下であった。この非線形性は種々の試験において一貫して認められた。図3.2.3: 3
に用量と投 与量補正したC
maxおよびAUC
の関係を示す(試験1218.1,1218.2,1218.3,1218.33
および母 集団薬物動態解析)。単回投与後に認められた上昇は,Cmaxでは1 mg
用量群の3.13 nM
から10 mg
用量群の9.69 nM
へと約3
倍に過ぎず,AUC0-24の上昇は,1 mg用量群の40.2 nM·h
から10 mg
用量群の161 nM·h
へと約4
倍に過ぎなかった。C
maxおよびAUC
の増加が用量比以下となる 傾向は,反復投与後ではさらに顕著であり,上記の用量範囲においてC
max,ssで約3
倍の上昇,AUC
τ,ssで2
倍の上昇であった(Cmax,ss1 mg:4.53 nM;C
max,ss10 mg:13.6 nM;AUC
τ,ss1 mg:
81.7 nM·h;AUC
τ,ss10 mg:190 nM·h;試験 1218.2[CTD 5.3.3.2-1])。
母集団薬物動態解析による値は,1000回のシミュレーションによって得た。吸収速度定数が0.441L/h(第IIb 相試験の値),メトホルミン非併用,男性,リナグリプチン5 mg1日1回投与という条件とした。体重,年齢,
γグルタミルトランスフェラーゼおよびベースラインDPP-4活性については,データの中央値を用いた。
引用元:CTD 5.3.3.1-1,試験1218.1,Table 15.5.2.1: 1-2;CTD 5.3.3.2-1,試験1218.2,Table 15.5.2.1:1-10; CTD 5.3.3.5-1,U 1535-01,Table 11.1より作成
図3.2.3: 3 白人の健康被験者および患者におけるリナグリプチン1~10 mg単回投与お
よび反復投与後の投与量補正したAUCおよびCmaxの幾何平均値 Cmax,norm
Dose [mg]
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
Cmax,norm [nM/mg]
AUC0-24,norm
Dose [mg]
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
10 15 20 25 30 35 40 45
AUC0-24,norm [(nM·h)/mg]
● 1218.1 ○ 1218.2 ■ 1218.3 × 母集団薬物動態モデル
Cmax,ss,norm
Dose [mg]
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Cmax,ss,norm [nM/mg]
AUCτ,ss,norm
Dose [mg]
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
0 20 40 60 80 100
AUCτ,ss,norm [(nM·h)/mg]
○ 1218.2 ■ 1218.3 □ 1218.33 × 母集団薬物動態モデル
200
時間に及ぶ長い終末相における半減期(t1/2)が認められ,これは単回投与および反復投与,ならびに
2.5 mg
から10 mg
の全用量群を通して一貫していた[CTD 5.3.5.1-1,試験1218.3]。 t
1/2 と濃度が定量可能な最終時点(tz)の関係を検討したところ,より短いサンプル採取期間で実 施した試験のt
1/2の値はより短縮し,サンプル採取期間が短いと長いt
1/2を追跡できていないこ とが示唆された。異なるサンプル採取計画で測定したt
1/2(幾何平均値)のグラフを図3.2.3: 4
に示す。注:図3.2.3: 4にはリナグリプチン5 mg単独投与後のt1/2を算出した試験の結果のみを示している。
引用元:CTD 5.3.3.1-1,試験1218.1,Table 15.5.1.1: 12 and 15.5.2.1: 2;CTD 5.3.3.2-1,試験1218.2,Table 15.5.1.1:
9 and 15.5.2.1: 7;CTD 5.3.5.1-1,試験1218.3,Table 15.5.1.1: 7 and 15.5.2.1: 5;CTD 5.3.3.1-3,試験1218.11,Table 15.5.1.1: 12, 16 and 15.5.2.1: 3 and 6;CTD 5.3.1.2-1,試験1218.25,Table 15.5.1.1: 7 to 9;CTD 5.3.3.3-1,試験1218.26,
Table 15.6.2.1: 4, 5, 11 to 13;CTD 5.3.3.3-2,試験1218.27,Table 15.6.2.1: 4, 9 to 11;CTD 5.3.3.4-6,試験1218.30, Table 15.6.2.1: 1;CTD 5.3.3.4-7,試験1218.31,Table 15.6.2.1: 3;CTD 5.3.1.1-4,試験1218.34,Table 15.6.2.1: 1 and 2,CTD 5.3.3.1-4,試験1218.58,Table 15.6.2.1: 1 and 2;CTD 5.3.3.4-9,試験1218.67,Table 15.6.2.1: 1より 作成
図3.2.3: 4 サンプル採取期間の異なるデータを用いて算出した単回投与および反復投
与後のリナグリプチンの半減期
単回投与および反復投与後の終末相における半減期は用量によって変化しないことから,AUC の非線形性は見かけのクリアランスおよび見かけの分布容積の上昇を反映していると考えられ る。定常状態における見かけのクリアランスは,1 mgの約
431 mL/min
から10 mg
の約1850
t
1/2のt
z依存性t
z[hours]
0 50 100 150 200 250 300 350 400
t
1/2[hou rs]
0 50 100 150 200 250
Single dose Multiple dose
mL/min
へと約4
倍上昇し,定常状態における見かけの分布容積も,1 mg
の約4510 L
から10 mg
の約20800 L
へと同程度上昇した[CTD 5.3.3.2-1,試験1218.2]。
200
時間にもおよぶ長い終末相半減期にもかかわらず,リナグリプチン1 mg
反復投与後の累積 係数は約2
であり,用量の増加とともに10 mg
では約1.2
に低下した。このためリナグリプチ ンの累積係数から算出した半減期(τ・ln2/ln(RA,AUC/(R
A,AUC− 1)として算出)は,用量の増加とと
もに1 mg
の約24
時間から10 mg
の約9
時間へと低下した[CTD 5.4-7,P09-09363]。また定常 状態に到達する時間も用量の増加とともに1 mg
の約4~7
日間から10 mg
の2
日間へと短縮し た[CTD 5.3.3.2-1,試験1218.2]。
In vitro試験および非臨床試験の結果(3.1項参照)から,臨床用量付近で認められる非線形性
の原因は濃度依存的な蛋白結合であると考えられる。濃度依存的な蛋白結合は,血漿および組
織中の
DPP-4
に対するリナグリプチンの強い結合によるものであり,この結合は低いnM
レベルの濃度で飽和すると推察される(in vitroでの
DPP-4
活性に対するIC
50は約1 nM;第 IIb
相試 験で測定したベースライン時の血漿中DPP-4
濃度の中央値は5.17 nM[CTD 5.3.3.5-2,
U -1554-01];3.5.2
項も参照)。これまでに,ACE阻害剤であるトランドラプリルやramipril
の活性体であるトランドラプリラートやramiprilat
もリナグリプチンと同様の非線形な薬物動 態特性を示すことが報告されている[CTD 5.4-10,R05-0781;CTD 5.4-15,R07-4440]。またリ ナグリプチンの血漿中濃度は,血漿および組織中の結合標的(DPP-4と考えられる)に対する リナグリプチンの濃度依存的な蛋白結合を仮定したモデルによって最も良く説明されることか らも,濃度依存的な蛋白結合は,血漿および組織中のDPP-4
に対するリナグリプチンの強い結 合によるものであると考えられる[CTD 5.3.3.5-1,U -1535-01]。母集団薬物動態解析の結果,非結合型のリナグリプチンの見かけのクリアランスは高いと予測 された(CL/F:258 L/h)[CTD 5.3.3.5-1,U -1535-01]。このため
DPP-4
との結合が飽和して いる濃度域では,非結合型のリナグリプチンは速やかに排泄されると考えられる。リナグリプ チン濃度が低下するにつれてDPP-4
結合型の割合が増加し,リナグリプチンの排泄はDPP-4
と リナグリプチンの複合体からの解離の影響を大きく受けるようになる。DPP-4との複合体から のリナグリプチンの解離は緩徐であることが示されており,in vitroで測定した解離速度定数K
offの値は3.0×10
-5/sec
であった[CTD 5.4-5,P08-09424]。リナグリプチンを
1.5
時間で持続静脈内投与した後にも同様の非線形的な薬物動態が認められ た。0.5~10 mg
(20倍)において,AUC
0-∞は422 nM·h
から1480 nM·h
へと上昇し(約3.5
倍),C
maxは11.7 nM
から176 nM
へと上昇し(約15
倍),総血漿クリアランスは41.8 mL/min
から239 mL/min
へと上昇し(約5.7
倍),分布容積(Vss)は380 L
から1540 L
へと上昇した(約4
倍)。静脈内投与後のリナグリプチンの分布容積は大きいことから,ヒトでの組織分布が広範に及ぶ ことを示唆している。リナグリプチン
0.5 mg
静脈内投与時の投与120
時間後までのリナグリプ チンの尿中排泄率は2.72%であり,リナグリプチン 2.5 mg,5 mg
および10 mg
の静脈内投与時 の尿中排泄率はそれぞれ17.6%,21.8%および 23.0%であった[CTD 5.3.1.1-2,試験 1218.10]。
非結合型の薬剤のみが腎臓から排泄されるので,腎排泄は蛋白結合の濃度依存的な変化の影響 を受ける。10 mgまでの経口投与後の尿中排泄率の幾何平均値は,健康被験者および患者なら
びに検討したすべての人種(白人,日本人,中国人)で単回投与および反復投与後ともに
8%
未満であった。またリナグリプチン
0.5 mg
単回静脈内投与後の尿中排泄率は3%未満であり,
血漿中濃度(Cmax
11.7 nM)は 5 mg
経口投与後の血漿中濃度と同程度であった(表3.2.3: 1
参 照)。10 mgの静脈内投与(Cmax176 nM)および 600 mg
の経口投与(Cmax4340 nM)後にみら
れたように,血漿中濃度が高い場合は未変化体の尿中排泄率はそれぞれ23.0%および 32.7%ま
で上昇した[CTD 5.3.1.1-2,試験1218.10;CTD 5.3.3.1-1,試験 1218.1]。血漿および組織中の
DPP-4
に対するリナグリプチンの結合率は腎排泄へ影響を及ぼし,尿中排泄率は用量依存的に上昇する。臨床用量では尿中排泄率の割合は低く,これはヒト[14
C]ADME
試験[CTD 5.3.3.1-2,試験
1218.7]および腎機能障害試験[CTD 5.3.3.3-1,試験 1218.26;3.3.3
項も参照]からも確 認された。[
14C]リナグリプチンを用いた試験 1218.7
において,ヒトにおける排泄,マスバランス,および代謝の検討を行った[CTD 5.3.3.1-2,試験
1218.7;CTD 5.3.2.3-6,U -1751]。[
14C]リナグリプ
チンの経口投与および静脈内投与後,検討した全試料中で最も多く認められたのは親化合物で あった。経口投与後,リナグリプチンは,血漿中において試料(1.5,3,および6
時間後の試 料をプール)中の放射能の74%を占めており,静脈内投与後には試料中の放射能の 94%(1.5
時間後)および84%(3
および6
時間後の試料をプール)を占めていた。[14C]リナグリプチン
10 mg
経口投与後の放射能は主に糞中に排泄され,投与量の83.8%が 16
日以内に排泄された。投与後
9
日目までの尿中排泄率は6.6%であった。放射能の回収率は,投与量の 86.1~95.1%
(平 均値:90.4%)であった。[
14C]リナグリプチン 5 mg
静脈内投与後に投与量の30.5%および 58.5%
が
13
日目および34
日目までに尿および糞中に排泄された。これは静脈内投与後リナグリプチ ンはすべて体内循環血に入ること,および臨床用量を上回る用量ではリナグリプチンの尿中排 泄率が多くなるという非線形な尿中排泄を示すためであると考えられた。放射能の回収率は平 均で89.1%(範囲:86.7~91.6%)であった。
ラットおよびマウスでのデータ[CTD 2.6.4,5項]と同様に,ヒトでもリナグリプチンの消失 に対する代謝の寄与は少なかった。リナグリプチンの経口投与後に,ヒト血漿中に最も多く(プ ール試料において試料の放射能の