表2-3-1が,ライフストーリー・インタビュー(語り)の概要である。表中の内容部分には,
歌に関する内容から脱線した部分については記載していない。
表2-3-1.語りの概要(山下,2017)
回 I K N
1 実施日 2016年4月4日 2014年1月16日 2017年3月15日
時間 120分 55分 144分
内容 歌のきっかけ1,指導講師,
幼少期1,学生時代の歌と の関わり,社会人での活動,
歌のきっかけ1,近況,今後
(人生)の目標 幼少期,学生時代の歌との 関わり,社会人での活動,
声の探求
2 実施日 2017年2月13日 2017年3月26日 2017年3月22日
時間 104分 60分 146分
内容 両親や兄弟の影響,今後(人 生)の目標,声の探求,質 問紙内容
歌のきっかけ2,指導講師,
幼少期1,学生時代の歌と の関わり,社会人での活動,
声の探求
歌のきっかけ,近況,今後
(人生)の目標,指導講師,
質問紙内容,健康管理 3 実施日 2017年3月30日 2017年4月12日
時間 118分 40分 内容 歌のきっかけ2,好きな歌
手,健康状態,健康管理,
歌うことの心身への影響,
幼少期2,小学時代
幼少期2,小学時代,好きな 歌手,健康状態,健康管理 両親や兄弟の影響,歌うこ との心身への影響
4 実施日 2017年4月15日
時間 42分
内容 質問紙内容
1.ライフストーリー・インタビューについて
まず,ライフストーリーを取り上げることの経緯や意味についても述べる。個人の今までの 生き方や人生での歌との関わりにおける語りに着目して研究を行うとすると,多様な質的研究 のなかでもライフヒストリー研究1とライフストーリー研究2(桜井・小林,2005)(6)が有効で ある。「人は,周囲の人々を含む生態・文化・社会的場所と,その人が生きるプロセスで長い時 間をかけて紡いできた『ライフストーリー』によって生きている」(やまだ・山田,
2009)
(7)。 ライフヒストリー研究が,個人の語りだけでなく,多様な資料や他者の証言,歴史的背景等を 総合的に研究していくのに対し,ライフストーリー研究はインタビュイーとインタビュアーの 相互行為となる会話を通して引き出された個人の語りを主要軸としている(桜井,2012)(8)。 そこで,本節ではライフストーリー研究の方法に基づき調査協力者(インタビュイー)の語り を分析考察する。この方法の特徴は,桜井らによれば,ライフストーリー・インタビューの解釈には大きく分 けて2つの解釈の軸があるという。「ひとつは,語られた〈物語世界〉のナラティヴの特質に照 準するものである。もう一つは,インタビューの相互行為をふくむ社会的,制度的コンテクス トに照準するものである」(桜井・小林,
2005)
(9)。つまり,インタビューという相互行為は,他者であるインタビュアー等と必ず関わるという意味で社会学的視点を含むものである。本節 では,後者のインタビューによる相互行為によって生まれた会話に照準をあわせ,インタビュ
1 対象者の人生または全体を叙述することで,文化の分析と個人の人生がどのように関連する のかを事例に基づいて表現する方法である。
2 個人のライフ(人生,生き方,生涯,生活)についての口述物語である。
97
イーである調査協力者とインタビュアーである筆者との共同作業として捉える。一般にインタ ビュイーが過去にあったエピソードを語る際,記憶を辿る過程において何かが付加され,真実 が風化,美化,肥大化されることがある。つまり,真実にインタビュイーがそのとき感じた気 持ちが付加され,インタビュイーが今という時間軸から過去の真実を振り返ることで今感じる 気持ちも付加され,真実が形を変えてエピソードとして語りのなかに表出するのである。さら には,インタビュイーの語りを聞いたことで感じるインタビュアーの気持ちや今というときに,
インタビュイーによって語られた過去のエピソードをインタビュアーが聞き取って文字化し,
解釈し,考察するという作業を加えたのがライフストーリーであると考える。つまり,①真実,
②インタビュイーのそのときの気持ち,③当時の事を振り返ることで表出するインタビュイー の今の気持ち,④インタビュアーとインタビュイーの相互行為によって引き出される語り,⑤ インタビュアーの語りに対する解釈,それらの統合がライフストーリー研究である。本節では それらの過程を踏まえたライフストーリーとして歌うことを中心とした語りから「実感をもっ て持続的に生成される生の質」を踏まえ,サクセスフル・エイジングを示す必要性があり,こ の方法を取ることで示し得ると考えた。
また,本研究では歌うことに言及しているが,3名の人生で歌うことに費やす時間は,飲食,
睡眠,仕事等の時間と対比すると数%にも満たない。しかし,今,彼らが生きるうえで,歌う ことが彼らの生きる支えとなっていると仮定するならば,たとえ短時間であろうと歌うことが 彼らの人生に深く刻まれ,強い影響力をもつ意味深いものになり得る。つまり,歌うことを中 心とした語りを通して彼らの生き方や考え方を明らかにすることが,サクセスフル・エイジン グの新規性となるのである。
解釈には,会話に参加した筆者のインタビュアーとしての主観を取り入れ,時系列に分け,
カテゴリー別に考察を深める。カテゴリー別に分けていく方法に,KJ法1やグラウンデッド・
セオリー(以下
GTA)
2等があるが,本節ではそれらを用いず,書き起こした語りを何度も読 み込み,会話の前後から語りの方向性を導き出すようにした。KJ
法やGTA
を用いなかった理 由は,次のとおりである。KJ 法は同系統の内容を分類していく際に,語り自体を分類するの で,語りそのものの流れを扱うライフストーリーを見失う可能性があり,GTA
は対象者集団の 共通的特徴を取り出して法則性を見出すことを目的とする(佐久川・植田・山本2013)
(10)た め,3者各々における独自の「実感をもって生きる生の質」やサクセスフル・エイジングを示 していくことに重点を置く本節には適さなかったためである。研究協力者3名のうち, I と
N
は対面インタビュー,K は居住地が遠方なことから電話イ ンタビューとした。インタビュアーは筆者,内容は,人生での歌との関わりについての語りを 主軸にした。1回目は非構造化インタビュー3,2回目以降は半構造化インタビュー4と質問紙 をもとにした構造化インタビューで行った(構造化インタビュー5内容は本論文では省略)。11 文化人類学者の川喜田二郎がデータをまとめるために考案した手法。質的研究で主に使われ る。
2 社会学者のバーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって提唱され,質的な社会 調査の1つの手法のこと。
3 構造化されていない質問を通した情報を,対話と観察のラインで調査者から引き出す手法の こと。
4 事前に質問項目を決めておきそれらを
IC
レコーダーや質問などで質問を続けていくこと。5 事前に質問紙やアンケートをもとに対話を続けていき,質問の合間に起こった質的な情報を 記載していく方法のこと。
98
回目を非構造化インタビューにした理由は,語り手から自然発生的対話を引き出し,語り手と インタビュアーとの語りの相互作用を発生させるためである。2回目以降を半構造化及び構造 化インタビューにした理由は,3名の話題を統一するためである。時間,回数の差異は,全て の話題について語る際の各々の話すスピードや,話の流れ等の個人差によるものである。録音 した語りは全て文字化し内容を切片化してカテゴリーに分類し,内容に応じたカテゴリー名を 付けた。
2.3名への非・半構造化インタビュー
ここでは,3名のインタビューに基づき幼少期からの歌(音楽)との関わりに関する語りを,
カテゴリーごとに考察を含めて記載し,その後,着目すべき共通のカテゴリー内容毎に考察す る。
1)幼少時代~歌うことを始めるきっかけ
(1) Iの場合
A)幼少時代~大学時代
語り①最初に歌を教えてくれたのは母親
【戦時中の子ども時代は歌が好きであった。小学3年生の夏休みに終戦した。当時は終戦直 後であったが音楽教員の母親から歌を沢山教わったので,今でも文部省唱歌が大好きであ る。(1回目)】
考察①
幼少時代の親からの影響は,その人の好みに大きな影響を及ぼし得る。また,母親が音楽教 員ということで,音楽が馴染み深いものであったと考えられる。
I
の「明治の女だけど,どうい う訳か教員やってるんよ」という語りは,音楽教員であった母のことを誇らしく思い,その母 に「よく教えてもらった」歌であるからこそ大好きになったことが窺がえる。仮に, Iよりも 遠い存在の人や親しみをもてない人から曲を教わったとしたら,I はこれほど歌を好きになっ てはいなかったと想定する。語り②山のてっぺんで歌った時
【小学生の頃から歌が好きであった。自宅近くの山の頂上でシューベルトの≪セラナーデ≫
等を歌い,後日,近所の人から母伝いに歌声を褒められた。この曲は母に教わり,今でも死 ぬまでにドイツ語で歌いたいと思っている。(2回目)】
考察②
近所の人に歌声を褒められたことから,自身の歌声に自信をもつことができたといえる。ま た,夜に山頂に立って歌った歌が≪セレナーデ≫(小夜曲)であり夜の雰囲気にあった曲を選 択している。母から教わった≪セレナーデ≫は男性が恋人の女性に求愛する際に歌う曲であり,
小中学生には大人びていて高度な曲である。I は,小学生であった当時は,歌詞の内容を深く 理解できてはいなかったであろうが,この曲を「どういう訳か好き」になったことから