3.岡山県の生涯学習大学の音楽講座
岡山県生涯学習 大学(のびのびキ ャンパス岡山)は
1997
年から始ま り,岡山県民が自 身に適した内容を 学習できるよう県 内各地で多様な講 座が提供されてい る。同講座は主催 講座と連携講座に 分かれている。主 催講座とは県生涯 学習センターが主 催している講座や県内の高等教育機関に委託して開設している講座のことである。連携講座とは,県,大学,市町村,
各種団体等が開設している講座のうち他団体と連携している講座のことである(10)。倉敷市の生涯 学習関連施設にはライフパーク倉敷があり市民学習センター,情報学習センター,教育センター,
科学センター,埋蔵文化財センターが併設されている。例えば,市民学習センター講座案内(11)を みると
10
月から12
月に開講の講座が予定されているが,音楽に関わる講座は存在しなかった(2014 年現在)。岡山県生涯学習センターが提供している岡山県生涯学習情報提供システム「パ ルネットおかやま」では,音楽というキーワードで岡山県生涯学習大学連携講座を検索すると音楽 に関する講座
42
講座(12)が該当する。そのうち39
講座が「中高年から始めるらくらくピアノ」であり,開催場所は各地の公民館であった。このように,岡山県生涯学習大学で学習したいという 人々が「音楽」というキーワードで検索するとほとんどがピアノ講座であり,他の楽器や歌唱をも ちいる多様な学びを検索することは難しい。歌唱,合唱,声楽,歌,詩吟でそれぞれ検索してみる と2講座のみが該当した。ぱるネットおかやまの先頭から講座や施設等の分類をせず歌唱で検索 すると
15
講座が該当した(2014年現在)。岡山県内では,生涯学習に資するための施策として総合的な推進に関する重要事項を調査審議 することを目的に,
2014
年8月19
日に第9期岡山県生涯学習審議会(第3回)が開催された(13)。 定期的にこのような会議が開かれ県内の生涯学習についての方針が見直されている。2007
年には 第19
回全国生涯学習フェスティバルが岡山市で開催された。テント出展団体は全83
団体で,音 楽関連の体験は「尺八体験教室」「大正琴でアンサンブル」「オカリナ体験」「ジャンベ体験」「大正 琴体験」等であり4種類全てが楽器体験であった。出展団体は県内の大学や専門学校,ボーイスカ ウト,子供会連合会,NHK
岡山放送局,研究会等,多様な団体であった。生涯学習がいかに幅広 いものを指すかが示されている。また,2014年度には生涯学習・社会教育基本調査を実施している。実施の理由については,市 町村の生涯学習/社会教育行政に関する基本的事項の実態を把握し,生涯学習/社会教育行政上
図1-2-1.高齢者の集団歌唱の構図(山下,2015)
47
の基礎資料とするためである(14)。その他
2014
年度岡山県生涯学習大学主催講座の生涯学習リー ダー養成コースは,2014
年9月7日を始めとして全8回行われている。このコースは学びを生か して学校や地域社会での活動に参加し参画し,地域力向上を進めるリーダーを養成する講座であ る。筆者も2014
年度には生涯学習リーダー養成コースを受講した。民間講座における生涯学習の講座にはジョセイ新聞社主催の岡山市民大学がある。これは,地域 の活性化や文化振興の一助として寄与したいとする目的のもと一般市民を対象に生涯学習の「市 民ひろば」として開催されている。政治,経済,芸術等のあらゆるジャンルの第一線で活躍する講 師陣を全国から迎え,年間8回程度の講座を実施している(15)。
4.高齢者の音楽学習に取り組む姿勢
高齢者が音楽を学び音楽を習得するためには次のような行為が必要と想定する。以下7点は,辻
(1990)(16)の述べた内容の抜粋である。
(1)音楽表現のニーズや緊張感などを自ら工夫して作り出すことができる。
(2)効果的,能率的な学習法を自ら案出しようとする。
(3)失敗しても,それを教訓として学ぶことができるし,また同じ失敗を繰り返さないように努 めることができる。
(4)恥を知り,人に迷惑をかけないですむ方法を考える。
(5)自らの能力の限界を知り,より得意な分野を開拓しようとする。
(6)人生の経験を音楽に活かそうと努力することができる。
(7)不幸にして挫折しても,心の傷として残さないような工夫をする。
上記は病気を患っていない高齢者の一般的な傾向といえる。音楽学習が進むにつれて(1)(2)
(3)は意識的に行われ,失敗したり行き詰まったりしたときには,(4)(5)(6)が行われる と考察する。(6)とは,例えば,自身の過去の経験で培ったことを歌に乗せて表現することがで きるということである。学ぼうとする気持ちは全ての人に備わっているものである。高齢者が音楽 学習に取り組むきっかけとしては,音楽が昔好きであったことや若い頃から勉強熱心であったこ と,高齢になるまで勉強をしなかったので高齢になって学び直そうと思ったこと等が想定される。
これらに該当しない者でも,学ぼうとする気持ちが拾い出されるきっかけさえあれば,音楽学習に 繋がっていくのであろう。そして,音楽学習を行うことによって,高齢者は地域の社会的活動の機 会や友人や知人との交流の機会を多く得ることができる。高齢期と老化は切り離せない関係にあ るが,Laslett(1991)(17)のいう「サード・エイジ(Third age)」や「サクセスフル・エイジング
(Successful aging)」は,気持ち次第でどのような場所でも状況でも可能になると捉えらえる。
また,高齢者を深みのある円熟者と捉え直すことができれば,高齢者がより活発に学べる環境や場 を提供する社会の動きをさらに活発化させることができるであろう。
引用・参考文献
(1)兼松忠雄,小松邦明,加藤タケ子,杉野聖子,宮島敏『地域福祉と生涯学習―学習が福祉を つくる』現代書館
p.169,2012.
(2)『長寿社会における生涯学習の在り方について~人生
100
年,いくつになっても学ぶ幸 せ』「幸齢社会」,超高齢社会における生涯学習の在り方に関する検討会,2012.48
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/03/__icsFiles/afieldfile/2012/03/26/1318903_1.pdf
(2018年6月9日採取)
(3)国際長寿センター,長寿社会グローバルインフォメーション特集号 International
Longevity Center=ILC. http://www.ilcjapan.org/chojuGIJ/index.html.pdf(2018
年5月16
日採 取)(4)山田一隆『高齢者の「生きがい」増進を地域社会で育む枠組みに関する基礎的研究―生涯 学習・社会教育的視点からの検討―』,p.46,2002.
(5)堀薫夫『生涯発達と生涯学習』,ミネルヴァ書房,p.181,2010.
(6)堀薫夫『教育老年学と高齢者学習』,学文社,p.31,2012.
(7)Lindeman, E. C.,The Meaning of Adult Education,
New York: New Repubric, 1926.(リン
デマン・E,堀薫夫(訳)『成人教育の意味』,学文社,1996.)(8)遠藤克弥「成人の地域「学び直し」の試み~大学の役割を考える~」『社会教育』
805,日本
青年館,pp.6-11,2013.(9)内閣府
2012 生涯学習に関する世論調査 https://survey.gov-online.go.jp/h24/h24-gakushu/index.html(2018
年5
月29
日採取)(10)岡山県・岡山県教育委員会「平成
26
年度前期岡山県生涯学習大学のびのびキャンパス岡 山2014
受講案内」(11)倉敷市民学習センターホームページ
http://www.kurashiki-oky.ed.jp/lpk/lpkshimin/
(2014年
9
月5
日採取)(12)岡山県生涯学習情報提供システム「パルネットおかやま」
http://www.pal.pref.okayama.jp/open/seminar/SearchResults.php(2014
年9月4日採取)(13)岡山県:第9期岡山県生涯学習審議会第3回会議の開催について
http://www.pref.okayama.jp/site/presssystem/288613.html.pdf(2014
年9月4日採取)(14)岡山県:平成
26
年度生涯学習・社会教育基本調査http://www.pref.okayama.jp/page/281428.html.pdf(2014
年9月4日採取)(15)ジョセイ新聞社:岡山市民大学ホームページ
http://www.hallo21.co.jp/okayama/index.html(2014
年9月4日採取)(16)辻栄二『アマチュアの領分 ヴァイオリン修得術』,春秋社,1990.
(17)Laslett,P.A fresh map of life: The emergence of the third age.Massachusetts.
Harvard university press,1991.
第3節 高齢者の音楽療法
1.音楽療法とは
音楽療法の始まりに,「古代のダビデがサウルの前で竪琴を奏でた結果,悪霊が去った」「イタリ アの歌手ファリネッリが
22
年間王に毎日歌を聞かせた結果,政務に復帰させた」という逸話があ る。音楽療法の日本での発展は1950
年代以降とその歴史は浅いが,古代,音楽療法という名称が 存在しない頃から,音楽療法は人とともにあったと考えられている。人の体は加齢によって老いて いくが,高齢期の心身に着目すると,身体面において老化による変化が特徴的にみられやすいとい える。その特徴として挙げられるものは,腰痛,肩こり,関節痛,聴覚障害,心疾患,脳血管疾患,49
呼吸器疾患等である。また,精神面でも,認知症,うつ状態,せん妄1等の症状が現れる場合があ る。現在,これらの老化による
QOL
の喪失とADL
の低下を改善させるために音楽療法がもちい られることが多い。つまり,現在の音楽療法は生活課題の解決のために行われることが多いのであ る。CL
によって,集団音楽療法が適する場合と,個別音楽療法が適する場合とに分かれるが,CL
の特質に合わせて取捨選択していく必要がある。また,高齢者となっても「生きがい」をもって生 きていけるように,エンドオブライフ・ケア(End of Life Care)2(1)としても,対象者へ主体的 に語りかけるアプローチをしていくことが望ましい。音楽療法とは,CL
に寄り添いCL
を尊重し,CL
が望む生活ができるように音楽で支え関わっていくものなのである。2.高齢者の音楽療法の概要
1)高齢者への音楽療法が行われる場
高齢者への音楽療法が行われる場として,ここでは単科精神科病院,認知症対応型グループホー ム,介護老人保健施設,介護付き有料老人ホーム,デイサービス,特別養護老人ホーム,地域の健 康な人への音楽療法の合計7箇所を取り上げる。以下に高齢者の音楽療法に共通する目的,多様な 臨床現場にみられる相違点について示す。
各現場での音楽療法の主な目的は対象者に応じて少しずつ異なる。例えば,単科精神科病院での 音楽療法の目的は,心身機能の回復,生活機能の向上,気分の安定,対人交流,世代の異なる患者 間の交流,集中力アップ等であり,グループホームでは,個別ケアの方針を尊重しながらの集団活 動,生活課題の克服等である。他にも,介護老人保健施設の目的は,認知能力の向上,上肢と下肢 の強化,不安の軽減,介護付き有料老人ホームの目的は,ストレスの発散,社会的交流,芸術とし ての音楽の提供,デイサービスの目的は,認知能力の向上,嚥下機能訓練,社会的交流,特別養護 老人ホームの目的は,非日常的時間,空間の提供,精神生活の支え,心身の活性化と心身機能の維 持であり,地域の健康な人への音楽療法の目的は,自主的な心身機能の維持,自主的な心身の活性 化,コミュニケーション,仲間作りである。各現場では
CL
が異なるためCL
によって目的も多様 なのだが,共通の目的の1つに心身の維持や回復への援助があり,これが音楽療法の基本となる。心身の維持や回復を援助するうえでは音楽療法士は各
CL
の状態を観る必要がある。高い目的を設定すると達成が困難になる場合があるので,
CL
に見合った目的を長期と短期に分けて設定する。続いて,臨床現場にみられる相違点の1つに,
CL
の違いによるプログラム構成の異なりが挙げ られる。単科精神科病院ではCL
の年齢が幅広いので,曲目も新しいものから古いものまで幅広く 取り入れ,薬の影響により呂律がまわりにくいCL
に対しては,発話と発声の練習を行うこともあ る。グループホームでは,各ホームの愛唱歌,口腔体操,手遊び歌を使用することがある。介護老 人保健施設のプログラムでは,即興的活動に水戸黄門の曲を使用したり,棒体操が取り入れられた りしている。有料老人ホームでは,歌唱する際に斉唱だけでなく独唱を取り入れ,高齢者デイサー ビスでは,下肢の運動やトーンチャイムとメロディ奏,パタカラ体操3等を取り入れることが多い。特別養護老人ホームでは,症状の重い参加者が多いので楽器演奏をしながら知らず知らずのうち に心身活動も行えるような方法を取る場合がある。地域の健康な人を対象とする音楽療法では講
1 意識混濁と奇妙で脅迫的な思考,幻覚,錯覚等がみられる状態で,健康な人でも寝ている人を 強引に起こすと同じ症状が現れる。
2 最期までその人らしく生きることができるように支援するケア。
3 嚥下機能や咀嚼運動等に必要な口の周りの筋肉を鍛えるための体操,パタカラの発音がよいと されている。