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140 第2節 カラオケに関わる高齢者への意識調査

ドキュメント内 高齢者の歌唱活動による変容と自己の生成 (ページ 144-151)

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インタビュー場所:Tは

O

A

市にある喫茶店,Y,Mは

O

A

市にある飲食店

2)70代後半女性

T

の語り

(1)語り①生い立ちと音楽との出会いから結婚まで

【母が医者,父が茶道と華道,扇舞の師範という環境で育つ。幼少時代から男児に混ざって 山や木に登って遊んでいたため,「おてんば

R

ちゃん」と言われた。中学から親元を離れ

O

市内の学校へ進学し,中学2年時,医者を志す弟のために中学校を転校し,弟の世話をしな がら親戚宅や寮で暮らした。母が職業をもつ家庭で早く自立するように育てられた反動で,

自身は専業主婦になって子どもを傍で見守りながら育てたいという願望が強くなった。関西 の大学に進学し,卒業後すぐに

O(地名)へ帰り社会人(小学校教諭)1年目に夫(小学校

教諭)と出会って結婚,それと同時に退職した。結婚後も産休交代や病休代替教員として3 カ月程度の短期勤務を重ねた。義父と同居し,他界するまで面倒をみた。

歌は,小学校時代から好きで,稽古事では疎開中の小学2,3年時にバイオリン,日本舞 踊や琴を習った。歌は頻繁に浴室で美空ひばりの歌を歌っていた。高校2年生時に

O

で国体 があり,クラスから2,3名のみ選ばれる合唱メンバーに選出され,スポーツ公園で歌った。

大学生時にはコーラス部に2年間所属し,M(地名)の

F

ホールで歌った経験もある。大学 卒業後の小学校教諭時代,苦手なピアノ伴奏をしながら子ども達と歌ったり歌の指導をした りした。】

考察①

「おてんば」と言われる程活発な幼少期を過ごし中学で実家を離れて寮に入っている。母親 が働いていたので早く自立するように育てられたとすることから,T自身は親に甘えたい気持 ちを抱いていたと考察する。そのような発話は,結婚後,Tが子育てに専念するために仕事を 辞めたことに表れている。また,義父との同居にストレスを感じていた可能性がある。幼少期 から好きであった歌は高校2年生のときに国体に選出される程に上達した。このエピソードは

T

にとってよい思い出として残っている。大学ではコーラス部に所属して歌い小学校時代には 子ども達に歌を指導するというように,高校時代の経験が

T

の歌唱活動に影響していったと考 察する。

(2)語り②結婚後の歌の活動その1『合唱』

【子ども達が幼稚園に入った頃,友人に誘われて公民館の合唱団に入団した。当時はその合 唱団に没頭し,歌の仲間に悩みを聞いてもらうことで(義父との同居による)ストレスを解 消することができた。その合唱団は年1回の発表会を催しており,約

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年間続けた。その 後,別の大型合唱団に所属した。最大で

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名の団員がいた大型合唱団で≪スターバトマー テル(Stabat Mater)≫等のドイツ語やラテン語の本格的な合唱曲を暗譜で歌った。この合 唱団は定期的に海外のジャパンフェスティバルに参加しており,Tもイタリアやオーストリ ア等海外へ赴いて歌ったことがある。ソプラノパートに属したが,高い声が出しづらくなっ たことや練習回数が多く練習場まで遠かったこと等から退団した。】

考察②

T

は,この合唱団で活動した時間について,曲名や,習った先生,演奏場所や内容等につい て詳細に語った。子育てをしながらの合唱活動は,多忙であったと推測する。「歌の活動に没頭

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し,歌の仲間に悩みを聞いてもらうことでストレスを解消することができた」とあるが,義父 との同居は

T

にとってストレスフルであり,そのストレスを発散するためにも幼少期から好き であった歌の活動(合唱)に打ち込むことが

T

には必要なことであったと考察する。合唱での 仲間は,好きなことをともに楽しむという同一目的で集まった仲間であり,合唱という全員で 1つの音楽をつくり上げる合唱活動であったため,より一層心を打ち融け合うことができたの であろう。人と人が関係性をつくることについて,異分野である看護実践者の近田のいう「『距 離を保ちながらの関与』や『時間/空間を共有する』こと」(1)が重要になる。松本は「日常 生活における相互行為文脈は,自-他の間で『共同化された対象』をひとまとまりの連続する 相互行為の流れと連鎖の中で達成していく」()とする。Tは,合唱活動によって人とともに歌 うという相互行為と連鎖のなかで,人との関係性を構築し,自身の日々の生活の活力を養って いたのである。

(3)語り③結婚後の歌の活動その2『カラオケ』

【E(作曲家)氏とその娘に歌を

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年習った。近所の友達がカラオケに誘ってくれたことが きっかけで歌い始め,一緒にカラオケをする人のなかに

E

氏の門下生がおり,誘われて習う ようになった。E氏が歌の階級を作っており,初段から師範まであるので,広い会場で試験 を受けては階級を上げていき,師範の免許を取得した。同じく師範試験を受けた人のなかに はプロに転向したり歌を教えたりしている人がいる。年3回の大舞台での演歌独唱を

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年 間経験し,E 氏の指導補助や手伝いをしながら個人指導法や歌唱法を習っているうちに,E 氏と娘が相次いで他界したのでそれと同時にカラオケ活動を辞めた。】

考察③

T

にとって,歌がストレスの解消手段となっていたとしても,

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年間一人の師匠について歌 を学んだというのは大きな功績である。師弟関係を結び,指導補助や手伝いを通してあらゆる 感情が生まれたと推察するが,それでも辞めずに続けられていることそれ自体が功績といえる。

T

にとってこのときの歌は,ただ楽しむだけでなく真剣に取り組むものであったのである。現 に,歌の活動を始めたきっかけは友人からの誘いを受けたことであったが,年3回の舞台を

30

年間踏んだことは単に歌が好きであるという域を超えている。人前で歌うということは緊張感 をともなうことであり,さらに,暗譜で歌うためには,歌詞をみながら歌う以上に暗記や歌詞 の内容を体に覚え込ませる時間を要するため発表準備が必要となる。T の

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年に渡る歌の活 動の語りからは,Tの根性や歌に対しての意気込みや根気が観察できた。歌唱に挑むこれらの 姿勢は,Tが早くに親元を離れて自立した生活を送ったこと等から得られたものである。

(4)語り④好きな歌

【今はポップス系も好きになったが,演歌を歌った時期が長いので,美空ひばり,香西かお り,小林幸子,石川さゆりの歌が好きである。小林幸子の音域が合っており,歌うのも楽で ある。美空ひばりの曲では,しっとりとした≪悲しい酒≫や≪みだれ髪≫等を好む。】 考察④

好きな歌の歌手には演歌歌手の名前が列挙された。自身の声域について熟知しており声色に 合った選曲をしていた。自身の声域や声色の理解が深いことは,歌うことや声に向き合ってい る証拠であり歌う技術レベルの高さが観察できる。美空ひばりの≪悲しい酒≫や≪みだれ髪≫

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は,ロングトーンや音の跳躍等が多くみられ,表現も難しいため歌唱に技巧を必要とする。こ れらの曲を得意として師範級まで取得したことから,歌唱レベルは高かったと考察する。

(5)語り⑤地域サロンの開設

町内が70軒ほどあるんだけど,あのー1班2班3班4班5班6班まであって,各班から2,3名 ずつでも出てきてくれりゃーえんじゃけど,なかなか出てきてくれないん。あのー私が認知症の 市の方の,どうゆうかなー,研修を受けてほしいゆうて研修に行きだしたんが,後で,認知症サ ポーターで,それは1日でそれこそ昨日研修があって,ボランティアしてくれとる人に勉強して もらおう思うて2人連れていって勉強してもらったんです。で,私の場合はサポートリーダーゆ うて,サポートする人のまたリーダーも勉強して。それからまあほんならカフェをしたいなあ,

サロンどちらかしたいなあって言いようったら,今度は,あのーえーっとねえ,認知症を市内の いろいろな団体とか町内会とか小学校中学校へ行って,「認知症とはこうゆうもんです」という のを話して歩いて,それでオレンジの輪っかをあげたり。

考察⑤

T

は,近所の独居や認知症の高齢者を集めたサロンの発起人となって

2015

年夏から準備を 始め,

2016

年4月に開設した。このサロンはボランティアで運営され,最近では地域の歌手や サロン関係者のアコーディオン奏者と一緒に歌声サロンを開催し,懐かしい歌を歌って参加者 は皆喜んでいた。筆者の喫茶店での歌唱教室や歌声喫茶に近いものをイメージして行なったと いう。Tが認知症サポーターの勉強を開始し地域の人々と活動を通して助け合い交流していけ るようにと,意欲的にサロン運営に取り組んでいる。現在は認知症サポートリーダーとなって いる。

T

は,「子ども時代から活発な性格だったこともあり,その性格も後押しして現在もこの ように活発に活動できる」と語ることから,幼少期からの活動的な性格が今でも健在であると 考察する。また,Tのお茶のお手並は師範級であり,師範級のお茶のもてなしと歌を兼ね備え たカフェまたはサロンを始めることは,Tにとって自身の能力を生かせる場として生きがいと なっている。

(6)語り⑥歌は

T

にとって『心の友』

―歌は,Tさんにとってどんなものですか?

T:心の友かな。なんか,楽しみたいとか,嫌なこと忘れたいな思うときも歌ったり,そこで友達 ができたりすることで,自分の気持ちが楽になる?楽しくなる?へー(それ)から,苦労や心配 事があったのを乗り越えれる。

―活力みたいな? T:そうそう。

―あの,辛いときも歌われますか? T:辛いときも歌います。

―声が出んでも?

T:出んでも,小さい声で歌いながらー自分を奮い立たせるために歌うこともある。

―そういうときに歌う曲っていうのは?

T:あのねー逆にひばりの歌で結構元気が出る歌がー,それを思いっきり歌うんじゃなくて,それ を口ずさみながら料理したり,涙が出るような気分になるときもあるし,そうかゆうて。

―そんなん気にせんでええわーみたいな。

T:そうそう。元気出そう思うたら,≪柔≫歌ってみたり,悲しいけど歌でも歌って気持ちを晴ら

ドキュメント内 高齢者の歌唱活動による変容と自己の生成 (ページ 144-151)