第 1 節 目的と方法
1 目的本研究では,カルト脱会者を対象に半構造化面接を実施し,勧誘前と脱会後における家 族関係を中心とした脱会者の認知の構造とその変化について質的な分析を探索的に試み る。カルト脱会者の勧誘前,入信中,脱会後それぞれの様相について検討し,家族との関 係を中心に,また自己イメージやコミュニティとの関係もあわせて,認知のあり方がどの ように変化したのか,その構造とプロセスを詳細に検討することを目的とする。
2 方法
2. 1 調査協力者のサンプリング
川喜田(1970)は,研究協力者が10人程度であれば「大半の意見のバラエティーは集 まる」こととなり,「それ以上かわった見解を集めることに困難を感じてくる」と述べ,
10人前後によるサンプリングの飽和を示唆している。またサトウ(2012)は,4±1人(3
~5人)を対象として TEM を用いた場合は「現象の多様性」を見いだすことができるこ と,9±2人(7~11人)を対象とした場合は,TEMの「径路の類型化」,「つまり等至点 に至る径路は多様であるとは言っても,ある一定の幅に収まらざるを得ないということが 見えてくる」と述べている。サトウ(2012)は,9人前後を対象にした場合「一見すると 自由なような選択が社会・文化によって一定の型に導かれていること」を実感できるとし,
9人前後の場合には「パターン(類型)」がみられ,それらが「社会・文化の力を照射する ものである」と言えると述べている。これら解釈のもと,9名ないし10名のサンプリング を行うこととした。
まず,研究協力者を選ぶにあたり,A教団の脱会者であり,脱会から数年経っており,
心理的安定とコミュニティでの生活の安定が見られることをサンプリングの基準として
「基準・選択サンプリング(研究に先立って定めた基準を満たした個人を研究対象として 選び出すサンプリング方法)」(岩壁,2010)を適用した。脱会後の年数と心理的安定につ
いて,Wright(1991)は,脱会にともなって生じる心理的課題や症状の回復にはソーシャ
ルサポートのもと2年かかることを示唆し,志村(2014)はある程度の回復には半年から 1年かかると述べている。これらより,脱会後1年以上経っていること,心理的課題への
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対処方法として家族や友人などリソースを獲得している状態であることを選定条件とした。
また,コミュニティでの生活での安定については,たとえばひきこもっているというよう な不適応状態ではなく,何らかの職業に就いていたり家庭生活を営むなどコミュニティで の生活の安定が見られるという,Martin(1993)があげた第 3 段階の社会へ再復帰した 状態を選定条件とした。
これらの基準にもとづき,先の質問紙調査への協力者のうち「面接への協力のお願い」
に了解を得た7名を選択した。また,教団信者を身内に持つ家族にカウンセリングを行っ ているカウンセラー複数から脱会者3名の紹介を受けた。
また,サンプリング全体については,男女別,年代別,青年と既婚者別,勧誘時期と脱 会時期のバリエーションをもたせるよう留意した。これは,「最大多様性抽出(maximum variation sampling)」(Polit & Beck, 2004)あるいは「最大限バリエーション・サンプリ ング」(岩壁,」2010)と呼ばれるサンプリング方法であり,「異なる背景を持つ人々(男性 と女性,貧しい人々と裕福な人々など)が標本になることを保証」(Polit & Beck, 2004)
されることとなる。
さらに,教団信者を身内に持つご家族のカウンセリングに携わっているカウンセラー複 数から,3 名の脱会者を紹介していただき,「スノーボールサンプリング(snowball sampling)」も用いた。「スノーボールサンプリング」とは,「雪だるま式サンプリング」
(岩壁, 2010)あるいは「雪玉式標本抽出」と呼ばれている「便宜的標本抽出法の 1 つ」
(Polit & Beck, 2004)であり,「一人の協力者から次の協力者を紹介してもらうことによ って,次々に協力者を見つけ出していくサンプリング法」(岩壁, 2010)である。これによ り,合計 10 名の調査協力者を得られた。なお,修士論文執筆時に基準・選択サンプリン グのもとでの研究協力者6名を既に選出していたため,基準・選択サンプリングのもと1 名追加し,さらに雪だるま式サンプリングのもと3名追加,計4名をプラスして改めて質 的研究を行うこととした。
この10名のうち,2名は勧誘前と脱会後に家族関係に変化はないと答えていたため,「典 型的サンプリング」(岩壁, 2010)あるいは「典型的の標本抽出(typical case sampling)」
(Polit & Beck, 2004)だけではなく,反証ケースも含めたサンプリングとなった。良く 変化したあるいは悪く変化したという変化がみられたケース以外に,変化がみられなかっ たと認知しているケースも含めることで,より幅広いサンプリングとなった。
また別の2名は,初回の面接時間を十分持てなかったため,第2回目の面接を実施した。
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さらに上記4 名とは別の1名からは,前回の面接とは違った話をしたいと申し出があり,
第2回目を実施したところ,終了後さらに思い出したことを話されたため,改めて第3回 目も行った。そのほか,1名は勧誘前において自身の心的状態を深く振り返っていたため,
さらに詳しく話を聞きたいと筆者から依頼してその後2回面接を行った。この2名の追加 面接は,実質的には「合目的サンプリング」(岩壁, 2010)をさらに深めることとなった。
「合目的サンプリング」とは便宜的サンプリング法と異なり,「研究の目的に適した対象 者を意図的に選び出す」ことであり,「研究の進行にともなって,状況に合わせてもっと も関連殿高いデータを集める」方法である(岩壁, 2010)。先述の典型的サンプリングや最 大限バリエーション・サンプリングが該当する。
以上より,量的研究の質問紙調査に協力いただいたA教団脱会者86名のうち,研究へ の協力意思が得られた10名を選択した。
2. 2 データの収集方法
2011年8月から10月に,研究協力者が指定した場所または了解を得た場所で半構造化 面接調査を実施した。面接内容は,研究協力者の承諾のもとICレコーダーに録音した。
半構造化面接の質問内容は,まず,研究協力者の基本属性として性別と年齢,カルトへ の勧誘時期およびカルトからの脱会時期などについて尋ねた。次に,①勧誘前の家族形態 と家族(親およびきょうだい)との関係はどうであったか,②カルトへの入信理由として,
家族関係がどのように関与していたか,③入信中,カルトから家族について言われたこと,
④脱会後に家族関係はどのように変化したか,⑤変化した場合のその具体的な内容につい てである。質問項目①から⑤までについては,質問内容に限定せず自由に語っていただい てかまわない旨を研究協力者に伝え,当時を振り返りあるいは当時から今現在に至るまで 語ってもらうこととした。特に,家族関係以外の自己イメージやコミュニティ関連につい て言及がみられた場合,筆者から問いかけなどを行い,研究協力者の語りが深まるように 努めた。
2. 3 データの分析方法
面接後に,半構造化面接で録音した内容から逐語録を作成した。そのうえで,2014年8 月から11月の計91時間をかけて,民間賃貸会議室を使って分析を実施した。分析法とし ては,グループKJ法を用いることとし,本大学の臨床心理学専攻大学院修了生3名に分
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析協力を依頼してKJ法AB型(川喜田, 1967; 1970)の手順に従った。
分析協力者3名とともに,回答内容を単位に分けてラベル化を行った。その際に,どの 発言者のものか,質問項目の何番目に対する発言か,2 回以上面接を実施した研究協力者 の場合は何回目の面接かという点についてわかるように,ラベル上部に記載することとし た。また,面接を2回以上実施した研究協力者が,2回目以降に初回と同じ発言内容の場 合は,初回のラベルを活かし,2 回目以降のラベルは除外することとした。さらに,作ら れたラベルを勧誘前,入信中,脱会後の3段階に分類した。そのうえで,段階ごとのグル ープ編成を行い,次に空間配置と図解化を分析協力者 3 名とともに行い,さらにその後,
叙述化を筆者が担当して作成したうえで,分析協力者3名とともに検討を行った。
なお,修士論文執筆時の6名のラベルをそのまま採用することとし,4名分のラベルを 新たに作成して,6名分のラベルとあわせて10名分によるグループ編成を行い,KJ法に よる分析を実施した。
2. 4 倫理的配慮
1) 面接にあたっての倫理的配慮
半構造化面接の前に,研究目的と倫理的配慮について記載した書面を研究協力者に渡し て読んでもらえるようにしたうえで,口頭にて研究目的と倫理的配慮の説明を行って,研 究協力者から同意を得た。倫理的配慮として,本調査への協力は個人の自由意志に基づく こと,協力しないことによる不利益は生じないこと,本研究以外のデータ使用はしないこ と,個人が特定されることはないこと,中断する権利があること,調査中あるいは調査後 に問題が生じた場合には,専門家による心理的ケアによる対応を行うこととした。
2) 学術誌投稿にあたっての倫理的配慮
学術誌への掲載を検討したため,研究協力者 10 名にその旨を電話で連絡したうえで書 面を7名に送付,3名に手渡しを行った。KJ法の分析について説明するとともに,個人が 特定されないよう留意したことを伝え,また,掲載予定であるグループ編成表と図,およ びデータ内容についての検討をお願いした。その結果,9名より了承を得ることができ,1 名からお断りの連絡を受けた。そのため,分析のやり直しを行った。
2. 5 研究協力者の属性
調査協力者の属性は,Table 1 の通りである。9名のうち,性別では女性7名,男性 2