• 検索結果がありません。

カルト研究の問題点についての検討 1 カルト研究の問題点

ドキュメント内 №該当箇所誤正 (ページ 91-103)

第 5 章 カルトについての先行研究

第 2 節 カルト研究の問題点についての検討 1 カルト研究の問題点

1. 1 研究者の立場の問題

Coates(2010)は,大きく分けると心理学者が洗脳を認め,社会学者が洗脳を認めない 立場をとっているとし,両者の研究の相違を述べている。洗脳を認めるという立場ではカ ルト入会から入信,脱会前まで,カルトによる心理操作の影響を問題視し,脱会後の心理 的課題については心理操作の影響を重視している。一方,洗脳を認めない立場では,カル トに自発的に入会と入信そして脱会となったという点,そして家族や社会の問題点を重視 し,特に脱会による家族の強制介入を問題視している。事実,社会学者のBarker(1984)

は,カリスマ的団体では単に代替的な文化が表出しているのであり,法的規制のもと自由 に活動する権利があると述べている。また,社会学者の Marciano(1982)は,カルト入 会が子どもの機能不全の兆候でありうる場合,カルトが現代人の分離や孤立に対抗するケ アを実践するコミュニティ(caring community)となるだけではなく,家族や既存宗教の 機能不全の代役をなし,カルトでは子どもらしくいられるチャンスがあり,新しい「中心 自己」をとらえることができ,本来は得られるべき剥奪された家族からの満足を補償して いると述べている。社会学者のRobbins & Anthony(1982)は,カルトやNRMに対して 家族が反対したり,カルトやNRMが全体主義的であれば,家族崩壊の影響が起こるとし つつも,代替的な家庭環境を提供し,若者を家族の独占的血縁的依存から引き離すことが できる点を取り上げている。さらに,Lewis & Bromley(1987)は,カルトカウンセリン グの有無とカウンセリングへの自発あるいは不本意とカルト脱会後シンドローム(cult withdrawal syndrome)の発症の関連について調査し,脱会後の症状や心理的課題が教団 での体験よりも脱会プロセスによって生じることを示唆している。調査協力者 154 名中,

反カルト団体と関係がある個人などによるカウンセリングを全く受けなかった者 89 名,

自発的にカウンセリングを受けた者 29 名,物理的な拉致や不本意な扱いを受けたデプロ グラミングによる,不本意なカルトカウンセリングを受けた者36名であった。

Coates(2010)は,社会学者と心理学者の両者においては,第1に調査フィールドへの

視点の違いをあげた。社会学では,対象とする社会やコミュニティに吹き込まれているパ ターンを理解しようとする一方,心理学では個々人の心理的リアリティに焦点をあてる点 である。第2に,手法の違いである。社会学では,参与観察を含んだ質的研究のもと,た とえばどのようになぜカルト入会となったのか調査しようとするため,現役信者が対象と

85

なりやすい。一方,心理学では,量的研究を用いて脱会者の体験に焦点をあてたり,援助 を求めた脱会者についての事例検討となりやすい。

1. 2 カルト教団の問題

宗教社会学者である櫻井・中西(2010)は,新宗教やカルト視される教団の一部には,

調査者や調査の状況をコントロールしようとする教団があること,そのため観察内容やイ ンタビュー内容の信憑性が問われる点をあげて質的研究の限界を,また,脱会者や信者そ れぞれの母集団を確定する作業は,前者では不可能,後者でも教団から信者名簿を借りて ランダムサンプリングができるかという意味で不可能として,量的研究の限界を,それぞ れ述べている。

また,櫻井(2014)は,カルト視される教団への研究を実施する際の問題点を3点にま とめた。第 1 は,教団の実態調査にあたっての教団側による限界である。「公然的な活動 と非公然的活動の乖離が甚だしい組織であればあるほど」,教団を通した参与観察や面接,

教団発行資料だけで調査を行うには限界が生じることとなる。第2は,この「非公然的活 動」といった重要な資料を警察や法曹関係者が有しており,捜査や調査に権限がない者が なす調査に限界がある点である。教団の実体調査にあたっての調査者側の限界である。こ の点は,本来であれば資料開示すべき教団がそのように実施しない問題であり,第1点に よって生じる問題と考えられる。第3は,カルト視される団体であるほど,調査者に対し て「敵か味方かを明らかにすることを迫る」点である。調査によって団体の問題点を発見 した場合,「公表して社会に裨益させることを選ぶか(その代わり団体とは敵対関係になる), 控えて当該団体と友好的な関係を保つか(調査の継続も可能になるかもしれない)」選択を することとなる。これは,「社会調査の倫理や学問の社会的責任に大きな問題」を投げかけ ており,櫻井・中西(2010)が,「眼前の若者や家族が社会的に問題ある教団に巻き込ま れている状況において,『信教の自由』『異質性への寛容』といった抽象的な規範論を述べ ても全く問題の解決にならない」と述べている通りである。特に櫻井(2014)は,「こと の成り行きを調査者自身が生身の体で受けとめなければいけない」と述べている。櫻井・

中西(2010)が発刊した「統一教会」は社会的にも学術的にも評価を得たものの,内容の 一部をセンセーショナルな見出しをつけて掲載した週刊誌に対して,教団は訴訟を起こし てきた(櫻井, 2014)。カルト教団の研究には研究者側がリスクを背負うことにもなりやすい 現実がある。

86 1. 3 調査協力者の問題

1) 信者の問題

たとえば,学術調査としてフィールド―ワークを実施する場合,従前の手続きに則って,

カルト調査や分析をカルト協力のもとで実施するならば,サンプリング自体に偏りが生じ る可能性が高く,調査の妥当性や信頼性は損なわれやすくなることが考えられている(櫻 井・中西, 2010)。カルト側が,好ましい結果をもたらしやすい信者を調査対象として選別 しやすくなり,またカルト信者は,カルトが望むような人格で調査協力すべきであると発 想しやすく,本来の個人的考えや感情かどうかの判別は難しくなる。Singer(1995)は,

調査研究の際にカルト信者が話すことは「操作または制限されている」場合があり,研究 者が自分に話をしてくれたのは「充分に訓練された中核信者だけで,彼らは教祖の思い通 りの返答できる生え抜きの信者」と後から判明することが少なくないと述べている。研究 者が入手できるデータが教祖など上層部から教えられたことだけであったりする。

Galanter, Rabkin R., Rabkin, J. & Deutsch, A.(1979)は,教団の協力のもと,現役信 者の精神健康度など質問紙調査や面接を行った。当時としては,通常の調査方法である。

しかしながら,調査協力者 20 名の選択基準が不明瞭であった点は問題と思われる。選択 的サンプリングは母集団との乖離が生じやすいが,それに加えて意図された乖離が起こっ ていないかどうかが問題とならざるをえない。

Bromley, Shupe & Oliver(1982)によれば,当時,カルト教団幹部への研究を実施し てきた社会科学者たちは,教団のネガティブな社会的イメージを晴らすことになると感じ ていたとされている。そのため,Bromley et al.は,学生集団全体に調査協力を依頼する こととし,教会関係者による調査内容に影響する手段は見つけられず,調査協力者の回答 に影響しようとするような試みもみられなかったと述べている。しかしながら,心理操作 を受けていると自覚できないのが信者の特徴であり,心理操作によって不適応となった信 者は,団体によっては家族のもとへ帰されることは見受けられる。

Aronoff, Lynn & Malinoski(2000)は,先行研究から,現役信者が心理的に十分適応 状態であることが明らかとなった点を認めつつも,先行研究では,研究者がカルトとの接 触が可能ということからカルト寄りの立場の可能性があること,調査に協力した現役信者 は心理的により健康的である可能性があること,信者が正直に答えているとは考えられず 状況に合わせバイアスがあると思われることなどの点から,現役信者の心理状態を誤って 解釈しやすくなると指摘した。また,Buxant, Saroglou, Casalfiore & Christians(2007)

87

は,信者への量的調査の問題点として,教団のネガティブイメージを払拭するような結果 が誘導されやすい懸念と同時に,匿名ではあるものの調査協力者を教団が人選する可能性,

ランダムであっても信者であることから教団にプラスとなることを考慮しながら回答す る可能性がぬぐいきれない点をあげた。

これらについては,教団が心理操作を行っているために,信者を対象とした研究の問題 解決は難しいと言わざるをえない。もし心理操作を行っていると認識している信者は,す でに教団のとりわけ幹部側の立場であり,認識していない信者は教団に好意的でありバイ アスがかかることとなり,対象となりにくい。また,教団が心理操作を行っていることを 明らかにすることができるならば,教団はもはやカルトという分類から除外される可能性 もありうる。

70年代や80年代には多種多様なカルトが存在し,これらカルトが,十分実施されてい ない家族やコミュニティの機能を補償しているという見解(Marciano, 1982; Robbins &

Anthony, 1982)は,現在の研究ではほとんどみられていない。特に,Buxant, Saroglou, Casalfiore & Christians(2007)と.Buxant & Saroglou(2008)による研究から,カル ト入信は,顕著な脆弱性(vulnerabilities),安全ではなかった幼少期の愛着(insecure attachment in childhood),社会的関係の希薄さ(few social relationships),マイナスの ライフイベント(negative life events)を補償していた一方,これらのサポート的影響は,

脱会後は保持されず,脱会者は不安定な心理状態であって,NRM による補償は失敗であ ることが示唆されている。また,Aronoff, Lynn & Malinoski(2000)は,現役信者への 影響に関する先行研究について検討し,現役信者が心理的に十分適応状態であることが明 らかとなったとしつつ,現役信者が適応した心理状態であると認めても,カルト入信がカ ルト脱会後の個々人の適応を促進させると認めることはできないと述べている。むしろ,

入信中の適応状態については,精神分析的視点のもとで,より慎重にまたより精密な研究 分析が必要と思われる。たとえば高橋(1995)による二人組精神病とマインド・コントロ ールの比較,Whitsett(1992)による二者転移(twinship transference)の研究,Jenkinson

(2008)による取り入れ(introjection)の検討のほか,教祖リーダーを筆頭とした心理 的退行,信者の依存や同一化など,閉ざされた世界であるカルト教団内部における精神力 動的な分析が待たれるところである。

入信中に信者が適応状態であるという先行研究については,生きる目標や意味を与えら れたと思っている信者は適応的であることは十分考えられるものの,あくまでも現実コミ

ドキュメント内 №該当箇所誤正 (ページ 91-103)