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ミックス法とは 1 ミックス法の定義

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第 3 章 ミックス法(混合研究法)

第 1 節 ミックス法とは 1 ミックス法の定義

ミックス法とは,「1つの研究のなかで,質的方法と量的方法を組み合わせる研究デザイ ン」(Liamputtong, 2010)のことである。Creswell & Clark(2007)によれば,「哲学的 仮定と探究の研究手法をもった調査研究デザイン」であり,その方法論としては「データ 収集とデータ分析の方向性,そして調査研究プロセスにおける多くのフェーズでの質的と 量的アプローチの混合を導く哲学的仮定を前提とする」とされている。具体的な研究手法 としては,「単一の研究において質的データと量的データを融合する」(Polit & Beck, 2004)

ことであり,「1つの研究または順次的研究群での量的かつ質的データを集め,分析し,混 合することに焦点をあてる」(Creswell & Clark, 2007)ものである。Table 1はCreswell

(2003)が質的アプローチ,量的アプローチおよびミックス法アプローチについて,その 哲学的あるいはパラダイムの活用や,研究方法などをまとめたものである。

表内での項目の「哲学的前提」とは,「研究を計画する段階から効力者との接触の仕方や データの解釈の仕方までに大きな影響を与える基盤と枠組み」であり,「研究者がもってい る世界に対する見方」,あるいは研究活動の「基盤となる前提であり信念」(岩壁, 2010)

であるという。この「哲学的前提」は,パラダイムあるいは「知識の定義」と呼ばれてい る(Creswell, 2003)。ミックス法では,プラグマティズム(pragmatism)という,方法 論的多様性(methodological pluralism)を認めるパラダイムを基盤としている(Morgan,

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Table 1 質的,量的,ミックス法のアプローチ(Creswell, p21, 表 1)

2007; Liamputtong, 2010)。また,その手法としては順次的,並行的,変化的が取り上げ

られており,具体的な実践方法としては,質と量のデータをともに収集し実践することと

なる。Liamputtong(2010)によれば,プラグマティズムでの質的方法と量的方法を統合

する鍵となる概念として,第 1 にアブダクション(abduction),第 2 に間主観性

(intersubjectivity),第3に転用可能性(transferability)を取り上げた。第1のアブダ

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クションとは,帰納法と演繹法を合わせた推論形式であり,これによって「帰納と演繹の 間を行き来しながら自由に発想(推論)すること」(Liamputtong, 2010)ができるとされ ている。第2の間主観性とは,現実での客観的存在を認めつつも,その世界の解釈は個々 人によって異なると理解することである。また第3の転用可能性とは,研究結果を他の似 た状況理解に役立つかどうかの程度を表すものであるとされている(Liamputtong, 2010)。

さらに,Teddlie & Tashakkori(2009)は,ミックス法と関連づけやすいパラダイムと して,プラグマティズムのほかにトランスフォーマティブ(transformative)を取り上げ た。プラグマティズムとトランスフォーマティブのどちらも,質的および量的研究法のパ ラダイムとして上げられ,また演繹法と帰納法の両方の論理で可能とされている。

2 ミックス法の歴史

ミックス法の歴史は,1959年に発表されたCampbell & Friskeによる量的データを組 み合わせた研究が最初とされている(Creswell & Clark, 2007; Teddlie & Tashakkori,

2009)。その後,1973年にSiberによって量的調査と質的調査による統合研究がおこなわ

れ,また1979年,Jickによってトライアンギュレーションという研究デザインが議論さ れた(Creswell & Clark, 2007)。そして,Teddlie & Tashakkori(2009)によれば,1990 年代から今日にかけて,質的研究と量的研究の両者の間で議論が行われ続け,しだいにミ ックス法デザインによる研究が看護学や社会学,心理学,教育学といったヒューマンサイ エンス分野で広がることとなる(Teddlie & Tashakkori, 2009)。21世紀に入るとミック ス法への関心はさらに高まりを見せ,2005年7月に第1回「混合研究法学会」がケンブ リッジ大学で開催された(Creswell & Clark, 2007)。Creswell & Clark(2007)は,多 くの学者が,この 20~30 年間で進展したミックス法に関心を抱いてきたと述べ,また Teddlie & Tashakkori(2009)は,ミックス法を量的アプローチ,質的アプローチに続く

「第3の研究方法論(the third methodological movement)」と名づけた。昨年のMMIRS の設立に象徴されるように,ミックス法が学術的に認められる状況であることがうかがわ れる。

国内においても,21世紀に入ってからミックス法による研究発表が見受けられようにな った。山室・久保田(2010)は,日本教育工学会の学術誌「日本教育工学会論文誌」に 2003年度から2008年度の6年間に掲載された論文の研究方法について検討を行った。そ

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の結果,論文145本のうち,量的研究110本,質的研究15本,ミックス法20件であり,

このうちミックス法の論文では,並行的手順による論文 11 本,順次的手順による論文 9 本であった。山室・久保田(2010)によれば,ミックス法全体では,量的研究法を質的研 究法よりも重視する傾向があり,量的研究法で分析した結果を質的研究で補強する論文構 造が多いことが明らかにされた。また,教育学領域では,中村・岩田・藤原ら(2006, 2007,

2008)が,高校1年生を対象に,3年をかけた5回のアンケート調査による量的研究およ

び面接や観察による質的研究を「組み込む」ミックス法によって,進路変容過程に関して 随時発表を続けた。さらに,奥本(2011)は,大学院生の研究交流への動機づけについて,

質的研究による仮説モデルを量的に検証するという,順次的探索的デザインを用いている。

川口(2011)によれば,教育学領域でのミックス法の研究が増えてきており,上記掲載の 中村以外に,ミックス法と明示していないものの,2001年から断続的に量的調査と質的調 査を併用した研究が発表されている。このほか看護領域では,梶井(2012)が,高齢者の 水分摂取に対する支援について,介護施設スタッフ約170 名への質問紙法調査と11名へ のフォーカスグループインタビュー法を用いて,並行的ミックス法を用いている。また,

八田・成田・柳原ら(2011)は,ミックス法を用いたインフォームド・コンセント研究と いう目的のもと,健康成人を対象とした量的調査によって達成動機尺度の開発を進めてお り,今後は患者群を含めて質的と量的双方から検討を重ねる予定だという。

3 ミックス法の利点

Polit & Beck(2004)は,質的と量的データの統合の利点として5つ取り上げている。

第1は相補性である。量的研究が一般化可能性や精度について強みがある一方,状況の文 脈を見落としたり「研究が浅薄」となることもある。質的研究は,量的研究と「まったく 正反対の長所と短所」を持っており,複雑な現象の本質について洞察をもたらす可能性が ある一方,信頼性や一般化可能性の問題で批判される。そのため,単一の研究においてこ れら研究をあわせることによって「互いの不足部分を補う」ことができることとなる。

第2は理論的洞察の向上である。質的および量的方法は,世界をとらえ解釈するための 異なった方法であり,どちらが正しいあるいは間違っているというものではない。むしろ 複数の側面を理解することによって,現実の多元的な性質についてより深い洞察がもたら されることとなる。また,第3は漸進性である。質的方法は探索的研究や仮説生成に適し,

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量的方法は仮説検証に必要と言われてきた。しかし,Polit & Beck(2004)は,問題領域 の展開がこうした「直線的で一方向であることはまれである。探索や深い洞察の必要性が,

研究の初期に限られることはほとんどないし,主観的な洞察は早期にまた持続して評価す る必要がある」と述べている。単一方法による研究で得た知識をさらに漸進させるフィー ドバック・ループが実現できるとされている。

第4は妥当性の向上である。研究の仮説が複合的で相補的タイプのデータにより支持さ れた場合,研究結果の妥当性が強化されることとなる。第5はニューフロンティアの創造 である。分析結果が矛盾した場合,矛盾点の理由を探索して,研究しようとする構成概念 を再考したり研究プロセスの方向を変えることが可能となり,さらに一連の研究方略を推 し進めることができると述べている。Polit & Beck(2004)は,「データの統合」という 立場を取っているため,分析や解釈における統合ではどのように当てはまるのか検討が必 要であるものの,有益な示唆を与えていると思われる。

また,川口(2011)は,ミックス法使用のメリットとして3点を上げた。第1は,理論 生成と検証を同時に行うことが可能になる点である。たとえば,まだ十分に解っていない 現象に適するだろうと述べている。第 2 は,よりよい推測が可能になるという点である。

たとえば,量的調査では一般化の強みがあるものの,「語りや置かれている状況を把握する ことは難しい」一方,質的調査では個別性の強みがあるものの,「知見をより大きな集団へ と一般化することが困難」になる。これら両方の方法を同時に用いることで,互いの「弱 みを補う」ことができるとした。第3は,現実の複雑さを理解できる可能性が増すという 点である。特に分析結果が異なった場合は理論などの再構築が迫られるが,この2つの「手 法のあいだでの試行錯誤こそ,混合研究法の醍醐味の一つ」であると述べている。

一方,Creswell & Clark(2007)は,研究でどのような課題を抱えているときにミック ス法が最適なのか具体的に 4パターンを提示している。第1のパターンは,「量的および 質的アプローチの両方を必要とする」場合である。研究課題について論じるときに,量的 か質的かというどちらか1つのアプローチだけでは不適切な場合であり,両方のアプロー チを採用することによって,研究課題が十分に検討できることとなる。第2のパターンは,

「データの第2のソースを強化する必要」のある場合である。どちらかのアプローチがも う片方のアプローチによって強化されることができる場合であり,単一の研究デザインの みで導かれた結果が,それのみでは十分でないとされる問題が生じる可能性があるときに,

たとえば入れ子状デザインなどが有益であるとされている。第 3 のパターンは,「量的研

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