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先行研究の実績

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第 5 章 カルトについての先行研究

第 1 節 先行研究の実績

カルトに関する研究は,主に戦後に始まっており,その歴史は他の学問に比べ非常に浅 いものである(Singer & Lalich, 1995)。カルト研究にいたる流れは,大別すると2つみ られる。1つは,第2次大戦後に洗脳の研究が行われ(Lifton, 1963),その後,認知的不 協和理論など他者への心理操作に関する研究が続けられおり(Festinger, 1957; Milgram, 1974; Lifton, 1999; Cialdini, 2001; Taylor, 2004),カルトによる操作の解明に影響を与え ている。2つ目は,1960年代後半から隆盛となった新宗教運動(New Religious Movement;

以下NRM)に対する研究である。とりわけ欧米では,1960年代後半から1970年代前半

にNRM あるいはカルトが隆盛であったことを契機に研究が行われ,その後,NRM ある いはカルトと呼ばれていた団体から反社会的活動を行う集団が現れるようになり,その団 体の特徴,入信や脱会についての研究が社会学的視点や心理学的視点のもと断続的に行わ れている。また,近年では9.11テロを契機に,カルトと暴力との関係など,カルト問題の 研究は以前よりも活発に行われている。以下では,2つ目のNRMあるいはカルトに関す る研究について,臨床心理学や心理学領域の論文を中心に海外と日本の状況に分けてそれ ぞれ述べる。

1 海外での研究

以下では,海外における脱会者と家族の研究を,脱会者を対象とした研究,家族を対象 とした研究,脱会者や家族への治療に関する研究に分けたうえで,研究の概要をそれぞれ まとめた。

1. 1 脱会者を対象とした研究 1) 量的研究

Galanter(1983)は,脱会後の心理状態について質問紙調査を実施し,A 教団脱会者

66名の回答を分析した。その結果,36%が脱会後に深刻な情緒的問題が生じていたこと,

適応状態に平均3.8年かかっていること,61%が教祖からマイナスの影響を受けたと感じ ていること,“脱洗脳(deprogramming)”を受けた脱会者は,受けなかった脱会者より

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も教団や自己に対してネガティブな考えを持っていることが明らかとなった。

また,Wright & Piper(1986)は,家族関係と脱会に関して質問紙調査を実施し,脱会 者45名と現役信者45名の計90名から回答を得て分析した。なお,脱会者は“脱洗脳”

あるいはカルトカウンセリングを受けていない者に限定した。その結果,親が子どもの入 信を認めない場合に脱会しやすいこと,特に,勧誘前に家族との良好な青年期を体験した り家族との親密感が高いほど,入信に対する親の否認は影響力があることがみられた。逆 に,勧誘前に家族との親密感があり家族が入信を認めていると,信者はカルトに居続ける ことがみられた。家族機能の不全によってカルト入信が生じるということではないこと,

青年期の危機時期に家族との健全な絆が形成されているとカルトを退会しやすいことが明 らかとなった。Wright & Piperは,入信を認めない家族は,改宗という事態に対して本人 との関係性を入信中も持続させ,退会への決心に影響を与えていたと述べている。

Lewis & Bromley(1987)は,1984年にカルトカウンセリングに関する質問紙調査を 実施し,154 名の回答を分析した。その結果,教団での体験よりも脱会プロセスによって 感情的混乱が生じることが明らかとなり,脱会後シンドロームの発症がカルトカウンセリ ングに因ることを示唆した。

Martin, Langonre, Dole & Wiltrout(1992)は,2つのカルト教団脱会者124名に対し て心理検査(MCMI他)を実施し,このうち66名は治療を受けた半年後に2回目の再検 査も行った。その結果,1 回目の検査より,脱会後に高い抑うつ感がみられ,教団の差異 はみられなかった。また,治療を受ける効果が十分みられたこと,分離プロセスがカルト 体験の中核であり,依存を強化するよう心理的圧力がかけられていることが示唆された。

また,Walsh,Russell & Wells(1995)は,宗教カルト 3団体と自己啓発系カルト 1 団体の脱会者75名を対象に心理検査(EPQ他)を実施した。その結果,平均(norms)

と比較して,脱会者は神経症傾向や抑うつ傾向が高い傾向がみられた。また,脱会者サポ ート団体につながっている脱会者は,そうではない脱会者に比べ神経症傾向や抑うつ傾向 の減少がみられた。また,自律心が強い人はカルトを脱会したりカルトから追放を受けて いること,これにより心理的困難が生じ,時間をかけたりサポート団体に参加することに より改善されていることが示唆された。

Almendros, Carrobles & Rodriguez-Carballeira(2007)は,入信過程を中心に質問紙 調査を実施し,スペイン人のカルト脱会者101名の回答を非カルト団体の脱会者 38名と 心理学の学生 24 名と比較検討した。その結果,入信に年齢差はみられないこと,入信前

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の心理的課題がカルトに引き込まれる要因とは認められず,個人的あるいは社会的不適応 によるものではないことは示唆された。また,カルト脱会者は比較対象群に比べ,心理的 注目(psychological attention)への要求が高く,カルト入信に対する不満足感が高い傾 向がみられた。また,カルト脱会者と非カルト脱会者の間では,入信の要因としての重要 な他者との関係についての問題では,大きな相違はみられなかった。さらに,カルト脱会 者は,カルトが理想や価値があると思わせるビリーフシステムを提供することと同時に,

カルトから詐欺的あるいは説得的行動を受けたことが重要な入信要因として取り上げてお り,自己成長への欲求や体験への意味の探索に続き,カルトによる操作が入信の外的要因 であることが示唆された。

また,Almendros, Carrobles, Rodriguez-Carballeira & Gámez-Guadix(2009)は,脱 会方法と脱会後の精神的苦痛,相談団体のサポートについて質問紙調査を実施し,脱会者 101 名の回答を分析した。その結果,調査協力者のほとんどは外部からの介入ではなく個 人的な熟考の期間に続いてその団体から自力で脱出しており,自分たちが感じた幻滅が脱 会に至った一番の要因であると考えていた。また,カルト相談を扱う団体からサポートを 受けた調査協力者と受けなかった調査協力者との間で違いはみられなかった。さらに,教 団を離れるきっかけとして教団で心理的虐待を認識していたかどうかによる相違,心理的 苦痛の段階による相違,教団から自分で脱会した調査協力者と外部からの介入によって去 った調査協力者との間での相違は全くみられなかった。一方,全サンプル中では家族介入 は団体をやめる理由としては全く重要ではなかったにもかかわらず,プロのカウンセリン グを受けてから団体をやめた脱会者にとっては家族メンバーおよび/あるいは友人が最も 重要な理由となっていた。また,脱会者が受けたプロからの援助は一般的なものであり,

カルト脱会という特別なリソース提供には至っていなかったと述べている。

2) 質的研究

Wright(1984)は, 脱会後での入信に対する姿勢についてデプス・インタビューを実

施し,カルト教団3団体の脱会者45名の回答を分析した。なお,45名は自発的に脱会し た者とした。その結果,自発的脱会者は,カルト体験を建設的に受けとめ,学ぶことがあ り,また,“洗脳”は認められなかったと述べていた。一方,社会環境への制限が非常に厳 しかった体験をしたものの,これがマインド・コントロールや自由意志の破壊と同等とす る必要はないこと,入会当初は権威的リーダーシップ構造がみられたと認識しているもの

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の,“洗脳”に対する過激な批判とロマンティックな理想主義といったネガティブとポジテ ィブの両者に直面した状態であることがみられた。

また,Swartling & Swartling(1992)は,C教団脱会者43名に脱会後の心理状態につ いてインタビューを実施した,その結果,約半数は精神異常の症状を体験し,4分の1は 自殺を試みていた。また,不安,罪悪感,情緒不安定がみられた。

Kliger(1994)は,2年間に100名以上の脱会者のインタビューを行い,極端な精神的

また社会的操作による直接的反応がみられた。極端な精神的また社会的操作は,結婚せず 独身でいること,カルト入信前のアイデンティティからの分離,家族や友人といった情緒 的サポート資源からの分離があげられた。また,入信中では,仲間から継続的に監視され,

リーダーの教えに反する意見を言うと罰を受けており,これにより精神的苦悩の身体化が 促進されたことを明らかにした。

Coates(2010)は,4つのカルト教団脱会者7名にデプス・インタビューを実施し,入

信後の生活への抵抗について調査を行った。その結果,カルトでの生活体験は極端な移行 や適応であり,パワーの違いが顕著に存在する関係の経験者と匹敵することが示唆された。

また,Coates(2011)は,入信理由について分析し,確実性(certainty),友情(friendship), 意味(meaning),そして所属(belonging)を提供されて入信していることが明らかとな った。また,Coates(2012)は,教団に居残ることを決定する("decision” to remain in the group) に あ た り , メ ン バ ー シ ッ プ に よ る 直 接 的 な メ リ ッ ト ("direct rewards” of membership)と教団やそのリーダーによるコントロール度合という両者から影響を受け ていることが明らかとなった。

3) 量的研究と質的研究

Buxant, Saroglou, Casalfiore & Christians(2007)と.Buxant & Saroglou(2008)は,

量的研究と質的研究を合わせて実施している。Buxantらは,脱会者20人にインタビュー と質問紙調査を実施し,現役信者およびカルトに関わったことがない人たちと比較検討し た。なお,脱会者は“脱洗脳”あるいは脱会後に心理カウンセリングを全く受けていない 人たちである。その結果,カルト入信は,顕著な脆弱性(vulnerabilities),特に安全では なかった幼少期の愛着(insecure attachment in childhood),社会的関係の希薄さ(few social relationships),マイナスのライフイベント(negative life events)を補償していた こと,一方,こうしたサポート的な影響は,不安定な脱会体験後では保持されないこと,

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