第 5 章 褒めの文化差およびジェンダー差
5.1 褒めの談話に見られる文化差
5.1.7 談話 7 の分析結果
118
119
これは親と、子供の教育ね、どんな子供に育つのか親次第。
(はい3CMD)親は子供の最初の先生、どんな子供に育つのか親次第。
談話7のt検定の結果は以下の表5-7の通りである。
表5- 7 談話7のt検定の結果 グループ統計量
国籍 度数 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差 会話7 1 78 1.91 1.175 .133
2 68 3.10 1.566 .190
独立サンプルの検定 等分散性のた
めの Levene
の検定 2 つの母平均の差の検定
F 値 有意
確率 t 値 自由度
有意確率
(両側)
平均値 の差
差の標 準誤差
差の 95% 信頼区間 下限 上限 会
話 7
等分散を仮 定する
20.189 .000 -5.244 144 .000 -1.193 .227 -1.642 -.743
等分散を仮 定しない
-5.144 123.134 .000 -1.193 .232 -1.652 -.734
表5-7からわかるように、談話7に対して、中国語および日本語それぞれの回答から得 た平均値に差があるかどうかについて t
検定を行なったところ有意差が見られた(t=-5.144, df=123.134, p< .05)。このデータによると、中国語母語話者は、日本語母語話者よ
り「褒めである」との回答が多いと解釈できる。
談話7に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者それぞれの回答の理由は、
以下の通りである。
120 中国語母語話者
(褒めとなる)理由や証拠を挙げているか、褒めである(CM16)
相手の子供の能力を肯定的に評価しているから(CM17)
Dの子供が優秀だと褒めていて、父親であるDの育て方が上手だとも言っているから
(CM23)
明らかに褒めていることがわかる。「思わず好きになっちゃう」とか言っていて、相 手の子供を褒めている。(CM37)
具体的に相手のことものすごいところを褒めているから。親としても喜ぶし、間接的 に相手(育て方が上手だ)を褒めている(CF3)
能力(朗読、司会、ダンスなど)ももちろん、「同じ年の子供よりすごい」、「思わず好 きになっちゃう」、「賢い」、「とてもお利口さん」などの言葉はすべて(相手の)子供を 褒めているから(CF7)
相手の娘が優秀だと羨ましがっていることが伝わった(CF20)
(相手の)子供が賢いし、その子のことを「思わず好きなっちゃう」を言っているから
(CF34)
(相手の)子供の優れたところを褒めているから(CF36)
「好き」という言葉が相手(の子供)をかわいがっている気持ちが伝わったから (CF39)
日本語母語話者
褒めてはいるだろうが、友人の娘に「惚れた111、思わず好きになっちゃう」はあま り言わない気もする(JM18)
「惚れた」の部分で皮肉を感じた(JM5)
「思わず好きになっちゃう」は褒めるにしては不自然、少し誇張しすぎている
(JM13)
少しくどい様に感じらせる(JM15)
お世辞のように感じる(JF4)
自然ではないから。特に「好きになる」まで言う必要があるのか疑問である(JF8)
111 中国語の原文にある「稀罕(xi han、シーヘン)」は惚れたと大好きの両方の意味を持つため、アンケ ート調査の結果に影響を与えた可能性も考えられる。
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能力で褒めてくるのは嫌味もあるかもしれない。「なんでも完璧」は人間として本 当の中身を知ってくれていない気がする(JF9)
完璧とか、すごいという言葉が逆に誇張しすぎて安っぽい(JM20)
「惚れた」、「思わず好きになっちゃう」は気持ち悪い(JM23)
一方的に褒めるのは少し違和感。「惚れた」、「思わず好きになっちゃう」の箇所は 少し犯罪の香り...(JF6)
過度に褒めすぎて自然さがかける(JF15)
小さな子供に対して惚れたは危険じみているように感じる(JF21)
自分の娘に「惚れた」と言われたら、警戒すると思う(JF32)
以下の図5-7は、談話7に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者の回答結果 の割合を示している。
図5- 7 談話7についての回答比率
図5-7で注目すべきは、両言語間の褒めに対する解釈の違いがほぼ2倍開きがある点 である。中国語母語話者の約8割(77%)が「褒めである」と回答をしているのに対し て、日本語母語話者は4割(41%)に留まっている。「褒めではない」と回答している日 本語母語話者が半数(52%)を超え、ネガティブな内容のコメントが多く見られた。そ
50%
27%
8% 10%
5%
25%
16%
7%
27% 25%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
中国 日本
122
の理由の1つに「大げさに褒めすぎている」112 という意見がある。特に、「惚れた。思 わず好きになっちゃう」という発話に対して、日本語母語話者は、「不自然」(JF33、JM12)、
「皮肉に感じる」(JM5)、「誇張しすぎる」(JM13)、「(友人の)子供に対して使わない」
や「違和感を覚える」113 、「言う必要があるのか疑問である」(JF8)、「気持ち悪い」(JM23)、
「犯罪の香り」(JF6)、「危険じみている」(JF21)、「自分の娘に「惚れた」と言われた ら、警戒すると思う」(JF32)などのネガティブな内容の理由が挙げられた。
一方、約8割(77%)の中国語母語話者は「褒めである」と回答し、前述した日本語 母語話者からの回答コメントとほぼ相反する傾向にある。回答の具体的な理由を挙げれ ば、友人の子供に対して「思わず好きになっちゃう」という発話から、「褒めである」
と解釈されている。また、「具体例をたくさん挙げることで褒めている感じがする」114 、
「相手の娘が優秀だと褒めている」115 、「父親であるDの育て方が上手だ」116 という 理由が挙げられる。日本語母語話者との差がここに明確に現れている。談話7の「好き」
の意味は、年長者が年少者に対して自然な愛情でコミュニケーションを図る内容も含ん でいる。それはインタビューの回答からも裏付けられる。しかし、このような表現は日 本語母語話者にはわかりにくく、結果として日本語母語話者との解釈の差が大きく生じ たと考えられる。
112 JF5、JF7、JF14、JF15、JF18、JF22、JM3など。
113 JM16、JF17、JF19、JF29など。
114 CM18、CM19、CM32、CM34、CM35、CM36、CF3、CF7など。
115 CM22、CM23、CF20、CF36など。
116 CM23、CF3、CF9など。
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