第 5 章 褒めの文化差およびジェンダー差
5.1 褒めの談話に見られる文化差
5.1.2 談話 2 の分析結果
98
99
独立サンプルの検定 等分散性のた
めの Levene
の検定 2 つの母平均の差の検定
F 値 有意
確率 t 値 自由度
有意確率
(両側)
平均値 の差
差の標 準誤差
差の 95% 信頼区間 下限 上限 会
話 2
等分散を仮 定する
.671 .414 3.899 144 .000 .874 .224 .431 1.317
等分散を仮 定しない
3.887 139.400 .000 .874 .225 .429 1.319
表5-2からわかるように、談話2に対して、中国語および日本語それぞれの回答から得 た平均値に差があるかどうかについて t 検定を行なったところ、有意差が見られた
(t=3.899, df=144, p< .05)。この結果と平均値を見ると、中国語母語話者より、日本語母 語話者の方が「褒めである」と回答する人が多いと解釈できる。
談話2に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者それぞれの回答の理由は、
以下の通りである。
中国語母語話者
文面から見れば褒めだけど、女性同士の談話だから、本心からかどうかがわからない
(CM32)
仲が良くないなら相づちの可能性が大きいけど、仲は良ければ褒めだと思う
(CM34)
相づちっぽく聞こえる(CM15)
相づちを打っている感じがする。かわいい系ではないけど、足が細いから、相づちを 打っているだけ(CM23)
適当に言っている(CM18)
Bが先に「意外とかわいらしくできとう」と言っていたから、褒めなのか相づちなの かを判断するのが難しい。口先でかわいいといっても、実際はそう思わないケースも ある(CF3)
100
本心ではないように感じる(CM7)
日本語母語話者
かわいらしい足に対する褒めに思われる(JM15)
否定的内容が全くないから(JF25)
3JFBは自分で[意外と」と言っている。3JFAはその言葉に肯定しているから(JF30)
「かわいい」という言葉自体が褒め言葉だと思うから(JF27)
とりあえず言っている感じがある(JM28)
2度言うのは適当さから言っているように感じる(JM30)
褒めというより、相手のかわいらしさに対する相槌のようなニュアンスに感じた
(JM33)
皮肉に聞こえるから(JM29)
本心ではなく、相手にあわせるためにかわいいと言っているような気がする
(JM23)
以下の図5-2は、談話2に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者の回答結果 の割合を示している。
図5- 2 談話2についての回答比率
17%
10%
20%
36%
17%
37%
25%
10%
19%
9%
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
中国 日本
101
図5-2より、中国語母語話者ではこの談話を「褒めである」と受け取る人が 27%を占 めるのに対して、日本語母語話者では62%を占めていることがわかる。ところが、「褒 めではない」と受け取る人の割合を見ると、中国語では53%を占めている。つまり、半 分以上の中国語母語話者は「褒めではない」と判断したのである。その理由を詳しく見 ると、中国語母語話者の多くは、「仲がいいから、褒めである」86 という理由が挙げら れているが、文面から見れば褒めであるが「本心からかどうかがわからない」(CM13、
CM32など)という理由で褒めの真偽に対して疑問の念を抱いていることも推測できる。
一方、日本語母語話者では、「かわいいという言葉自体が褒め言葉だと思うから」
(JF27)、「かわいらしい足に対する褒めに思われる」(JM15)、「肯定しているから」(JF25、
JF30)「褒めである」と受け取っている。一方、褒めの表現を二度繰り返すことがその
褒めの真偽に対して疑いを生じさせているとも思われる。その理由の詳細を見ると、「相 手に合わせている」(JF23、JF31)、「相づちを打てている感じがする」87 、「違和感を覚 える」や「適当に返事している」88 、さらに、「本心ではない」(JM24、JF21、JM23)、
「皮肉に聞こえる」や「バカにしている」(JM29、JF28、JM19)、「3JFAが女性である場 合、人に「かわいい」と褒めるとき、大概の場合、その人より自分の方がかわいいと思 っている」(JM26)の理由が挙げられた。数例だが、相手に対して相づちを打っている と回答した男性日本語母語話者も確認できたが、大部分の回答は「適当に返事している」、
「皮肉」と受け取られている。
また、興味深いことに、このような理由は男性中国語母語話者にも確認できる。2回
「かわいい」と言うことに対して、多くの女性中国語母語話者は、Bが先に自分のこと が「かわいくできとう」と言っているから相づちで「相手に合わせている」89 、また、
表情、二人の関係やコンテクストにもよる90 という意見も多く見られた。このことから、
2回「かわいい」を繰り返す女性日本語母語話者の褒めの談話に対して、ある程度は理 解を示していることが読み取れる。一方、女性の理解と異なって、男性の多くは「適当」
に流れていると感じている91 、「本心ではない」92 というコメントが圧倒的に多かった。
86 CM33、CF14、CF19、CF22、CM34など。
87 JM16、JM4、JM20、JM22、JM33、JM17、JF16、JF3など。
88 JM25、JM12、JM13、JM5、JF15、JF24、JF2、JM6、JF14、JM28、JM30など。男性ではCM37、CM16 などがある。
89 CF28、CF27、CF12、CF15、CF18、CF24、CF26など。男性ではCM37、CM16などがある。
90 CF5、CF11、CF13、CF23、CF25、CF33、CF35など。
91 CM4、CM11、CM14 、CM18、CM19、CM25、CM28、CM29、CM35、CM6、CM1091 など。
92 CM32、CM38 、CM1、CM7。
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このことから、女性同士の談話に違和感を覚え、さらに、「適当」に感じていたのだと 考えられる。この結果から、言語に関わらず、女性は褒めることで良好な人間関係を構 築していると解釈するが、男性は皮肉や本心ではないと解釈していることが明らかにな った。この文化差とジェンダー差については、本研究の第5章で分析し、第6章で考察 する。