第 5 章 褒めの文化差およびジェンダー差
5.1 褒めの談話に見られる文化差
5.1.4 談話 4 の分析結果
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中国語母語話者は、「具体例や理由を出しているから」93 や「心から褒めている」94 と いう理由で、「褒めである」と判断した。そのようなコメントは日本語母語話者でもよ く見られた。「具体例を出している」から、心からすごいと思っている感じ95 というコ メントが多く確認できた。「褒めではない」理由について、日本語母語話者は「お世辞」
や「社交辞令」(JF11、JM15)、「無理やり褒めている」(JF6、JF25など)の理由が挙げ られた。このことから、具体例や理由をたくさん出して褒めている中国語母語話者同士 の談話に対して、日本語母語話者は「嫌な気はしない」と感じることもあれば、「言い 過ぎ」(JF22)、「お世辞」や「社交辞令」(JF11、JM15)、「無理やり褒めている」(JF6、
JF25など)という感想につながりやすい理由から、遠慮している様子が窺える。
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(4)两个关系较好的女生在讨论日本的和服中的裤裙。
2JFA:裤裙是挺好的哈。
2JFB:裤裙是挺好的。
2JFA:我还想试着自己穿呢。
2JFB:你自己就能穿(和服裤裙)?
2JFA:自己能穿。
2JFB:好厉害。
2JFA:还能帮别人穿。
2JFB:真的呀?
2JFA:能帮别人穿。
談話4のt検定の結果は表5-4の通りである。
表5- 4 談話4のt検定の結果 グループ統計量
国籍 度数 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差 会話4 1 78 2.18 1.501 .170
2 68 1.53 .922 .112
独立サンプルの検定 等分散性のた
めの Levene
の検定 2 つの母平均の差の検定
F 値 有意
確率 t 値 自由度
有意確率
(両側)
平均値 の差
差の標 準誤差
差の 95% 信頼区間 下限 上限 会
話4
等分散を仮 定する
43.989 .000 3.097 144 .002 .650 .210 .235 1.065
等分散を仮 定しない
3.196 130.064 .002 .650 .203 .248 1.053
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表5-4からわかるように、談話4に対して、中国語および日本語それぞれの回答から得 た平均値に差があるかどうかについて t 検定を行なったところ、有意差が見られた
(t=3.196, df=130.064, p<.05)。この結果と平均値を見ると、中国語母語話者より、日本 語母語話者の方が「褒めである」と回答する人が多いと解釈できる。
談話4に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者それぞれの回答の理由は、
以下の通りである。
中国語母語話者
着物を着るのが難しいと思われるから、褒めである(CF31)
コンテクストにもよる(CF33)
女性同士の談話だから、微妙であるが、男の私から見れば褒めだと思う(CM8)
相手に合わせているだけで、心より褒めようと思わない(CF34)
社交辞令に聞こえる(CF27)
皮肉に聞こえるから(CM32)
日本に来て慣れたせいか96 (CM18)
適当に言っている感じがする。褒めているのかけなしているのかよくわからない(CF15)
Aが自分の(着物を着られる)ことを自慢げに聞こえる。Bがよくわからないから適当 に答えている(CF24)
袴を着られることが褒めとなることなのか(CF2)
適当に合わせているだけ(CF39)
日本語母語話者
褒めているが、口調が男みたいだと感じる(JM3)
自分にはできないことに対して尊敬の意味を込めているから(JF16)
着物を着れる能力をすっげーって言っているから(JM22)
現代の若者にとって日本文化はなじみないから(JM26)
自分でもそう答えると思ったから(JM27)
感心している感じが伝わる(JM28)
96 来日後、日本語の影響を受けて「すごい」を褒めだと思わないようになったことが、フォローアップ・
インタビューからわかった。
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素直に感想に聞こえるから(JF2)
個人の能力に言及したものであるので、相づちというより褒めている要素が大きく 感じる(JF3)
「自分で着れるのすごい」という褒め。感情こもってる(JF20)
談話文中に無理している様子がないから(JF25)
自然な文脈の中での発言であると思うから(JF27)
以下の図5-4は、談話4に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者の回答結果 の割合を示している。
図5- 4 談話4についての回答比率
図5-4より、9 割弱(88%)の日本語母語話者は「褒めである」と判断したことがわ かる。その理由としては、「感心している感じが伝わる」97 、「素直に出た褒めの言葉で ある」98 、「Aの能力を評価しているから」99 の理由が挙げられる。それに対して、約 半分(51%)の中国語母語話者は「褒めである」と捉えたが、約4割(37%)の人には
97 JM15、JM28、JM30など。
98 JF2、JF4、JF6、JF10、JF11、JF24など。
99 JM1、JM15、JM22、JF3、JF30など。
51%
9%
3%
29%
8%
66%
22%
7% 2% 3%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
中国 日本
110
「すごい」あるいは「すっげー」だけで本当に褒めているのか分からず「社交辞令な感 じがする」100 、「適当に言っている」101 などネガティブな内容のコメントが見られた。
この結果から、日本語母語話者にとって自力で袴や着物を着ることは難しいというイ メージから判断しただけでなく、さらに、「すごい」を「すっげー」と言い、すなわち、
男性言葉と言われる「すっげー」を女性が使用することでより一層驚きや感心の気持ち が伝わり、親密感をアピールしようとしているという理由も考えられる。しかし、日本 での男性言葉や女性言葉の違い、あるいは着物を着る大変さは外国人には理解し難いも のであり、文化差に起因しているものだといえる。文化差については、5.3 節で詳しく 考察する。