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第 3 章 本調査およびデータの概要

3.2 褒めの談話の認定

本節では、褒めならびに褒めの連鎖をどのように認定するかについて述べる。

3.2.1 褒めの認定

本研究でいう褒めの認定とは、褒めと何らかの関連のある実質的発話から始まる次の 先行連鎖か話題が転換するまで行われたやり取りである。褒めに相当するやり取りは、

第2章で示した褒めの定義に基づいて認定した。褒めの定義は、以下の通りである。

褒めとは聞き手や聞き手に関わりのある人、物、ことを肯定的に評価する言語 行動である。 (p.10再掲)

褒めの談話の認定にあたり、肯定的な意味合いと否定的な意味合い、両方を含んでいる 場合は、褒める側および褒められる側の返答の詳細を分析し、コンテクストによって認 定する。[3-5]と[3-6]を挙げて説明する。[3-5]は、仲の良い女性同士の談話である。

Bの母親のことについて話している。[3-6]は、自宅で姉、訪れた娘と昼食をとりなが ら話している。

[3-5]

01 A:我发现你妈好瘦哦。

お母さん細いね。

02 B:我//妈?

うち//21 の母?

03 A: //特别瘦。

//本当に細い。

04 B:我妈一百,我妈一百零八。

21 談話が重複している。

29 母は50、54キロ。

05 A:多高?

身長は?

06 B:一米六,一米六几!一米六四一米六五我忘了。

160(cm)、160とちょっと。

164、165(ぐらい)忘れた。

[3-6]

01 A70f:この人、ちょっと痩せたと思わない?

02 何(なん)となく//。

03 B80f:うん、ちょっと痩せたかも。

04-1A70f:何(なん)か遠くから見たらすごく、何(なん)か=、

05 C50f:=そんなことない。

04-2A70f:すごくほっそりして、その洋服がそう見えるのかしら?

06 C50f:そんなことない。

07 A70f:何(なん)か、そう、大丈夫(だいじょうぶ)?

08 夏痩せしないでください。

09 C50f:うん。

[3-5]では、「お母さん細いね」、「本当に細い」という発話に合わせて、Bが自分の母 親に関連する情報、例えば体重や身長を提供していることから、Bは「細い」を自分の 母親への褒め言葉として捉えていることがわかる。[3-6]も、同様に「痩せた」ことに 関する談話である。しかし、「ほっそりしている」、「その洋服がそう見えるの」、「大丈 夫」、「夏痩せしないでください」という発話から、C50fが痩せたということに対して心 配している様子が窺われる。本研究は、[3-5]を褒めの談話と認定し、[3-6]を褒めの 談話と捉えないこととする。

上述した褒めの定義および認定方法に基づいて、本研究の総発話数から褒めの談話数 を抽出した。表3-5は、本研究での談話データの総発話数、そして褒めの談話を中国語 および日本語の言語別に示したものである。

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3- 5 総発話数および褒めの談話数

項目 中国語 日本語

総発話数 21600文 26308文 褒めの談話数 139回(155文/回) 85回(310文/回)

中国語および日本語それぞれの総発話数ならびに褒めの談話数を対照した結果、日本語 母語話者より中国語母語話者の談話で褒めが2倍近く多く行われている。第 4章では、

中国語母語話者ならびに日本語母語話者の談話例の質的な分析を行なう。

3.2.2 褒めの連鎖の認定

本研究は、熊取谷(1989)、大野(2010)の定義を踏まえたうえで、以下のような定義 を行なう。

本連鎖:褒めの談話において「褒め-返答」という隣接ペア22 から成る行為連鎖を 指す。

先行連鎖:本連鎖の前に出現するもので、褒めと何らかの関連のある実質的発話23 から始まる本連鎖までのやり取りを指す。

後続連鎖:本連鎖の後ろに、褒めと何らか関連のある実質的発話から始まる次の先 行連鎖か話題が転換するまで行われたやり取りを指す。

以下、[3-7]を提示して説明する。[3-7]は、職場の同僚が雑談している談話である。

[3-7]

01 A30m:そうね、大沢たかお が好きだって言ってたよね。

02 B30f:そう。あ、よく覚えてたねえ。(褒めの表現)

03 A30m :うん。(褒めに対する返答)

04 B30f: そう。でも、なんか、やっぱ(=やはり)年(とし)とったねえ。

22 Schegloff(1986)では、電話の談話の開始部における発話の連鎖(sequence)の分析を通して、談話には 発話者を選択するルールがあり、召喚-応答のようなペアとなる連鎖は隣接ペア(adjacency pair)と呼ば れている。すなわち、対になった2つのターンから構成されたもので、発話のやり取りの分析の最小単 位である。

23 実質的発話とは、笑いやあいづちを除く発話を指す。

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05 A30m:なーに(=何)...<フフフ(笑い)>{<笑い>「B30f」}

06 B30f:残念ながら。

本研究では、L02–L03 のような「褒め−返答」という隣接ペアから成る連鎖を本連鎖と 呼ぶ。本連鎖の前で行なわれるA30 mの発話(L01)は、本連鎖の褒めに関連している 実質的発話であるため、先行連鎖と呼ぶ。本連鎖の後で行なわれるB30fとA30m(L04–

L06)のやり取りは、褒めと関連している実質的発話であるため、後続連鎖と呼ぶ。

本章では、本研究で使用する研究資料について提示した。中国母語話者ならびに日本 語母語話者、両国の褒めの談話の実態を明らかにするため、自然談話データとアンケー ト調査データを併用する。また、褒めの談話、褒めの連鎖をどのように認定したのかを 述べた。第4章では、中国語母語話者ならびに日本語母語話者それぞれの特徴や褒めの 談話についてどんな認識を持っているのかを明らかにする。

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