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第 4 章 褒めの談話展開

4.1 褒めの先行連鎖

4.1.1 褒めの先行連鎖の分類

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[4-1]では、「それ、手編」という質問が褒めの契機になっている。褒めの送り手主導型 の機能は、談話に褒めの対象を導入する役割を果たすことであると述べている。

[4-2]

A:ねえ、これ25

B:すてきっ。

A:貰ったの。 (同上:105)

[4-2]では、「ねえ、これ」という発話が褒めの契機になっている。褒めの受け手主導型 の機能として、褒めの送り手の注目を評価対象に向け、褒めを誘発することになると述 べている。

大野(2010)は、熊取谷(1989)を踏まえて、日本語の褒めの先行連鎖の種類と機能、

そしてその使用を調査した。本連鎖の前にある要素を「先行要素」、後ろにある要素を「後 続要素」と呼んだ。先行連鎖を褒め主体主導型および褒められ主体主導型の2 つに分け たが、前者は熊取谷(1989)が示した褒めの送り手主導型に相当し、後者は褒めの受け 手主導型に相当すると考えられる。先行連鎖の種類について、大野(2010)はBrown &

Levinson(1987)が述べたポジティブ・ポライトネスとネガティブ・ポライトネスのも とに、先行連鎖の機能が人間関係や談話展開において好影響を与えうるものか(「プラ ス機能」をもつ「プラス要素」とする)、好ましくない影響を及ぼしうるものか(「マイ ナス機能」をもつ「マイナス要素」とする)といった点に基づき、以下のようにまとめ た。「ほめ主体」主導型には、「ほめ主体事実」、「感情」、「羨望」、「感謝」、「お祝い・挨 拶・決まり文句」、「非言語表現」、「その他」がある。「ほめられ主体」主導型には、「評 価」、「ほめられ主体事実」があると述べている。

談話構造の視点から日本語と他の言語との対照研究の試みをしたのが金(2007)であ る。金(2007)は、日本と韓国の大学生60組の談話データ26 を使用し、褒めの前後に 行なわれるやり取りの特徴を分析し、次のような結果を報告している。先行連鎖は韓国 語より日本語のほうに多く現れた。一方、韓国語では先行連鎖無しで褒めが行われる傾

25 下線は筆者による。

26 金(2007)自身も述べているように、日本語母語話者を対象として予備調査を行ったところ褒めがあま り現れなかったため、本データを収集する際には研究者が直接集めた日韓の協力者に友人をそれとなく 褒めるよう頼んだ。

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向が日本語より強い。先行連鎖の種類については、「情報提供」、「情報要求」、「自己卑 下」、「自慢」、「決心」等が挙げられた。その要因については、日本語では、話し手が褒 める側も褒められる側も、相互に相手のフェイスを優先するストラテジーが多用される。

それに対して、韓国語では褒める側と褒められる側いずれも自分のフェイスを優先する ストラテジーが多く使われると述べている。

これらの先行研究は、褒めの先行連鎖の分類を明確にしている点で重要だが、テレビ 番組、談話を収集する前に協力者に褒めるよう頼んだ談話をもとに分析した結果である ため、自然談話ではあまり使われないストラテジーも含まれているという問題点が残っ ている。したがって、本節は実際の自然談話で使用されているストラテジーの実態を明 らかにする。

本研究は、褒める側が主導して褒めを誘発した先行連鎖を「褒める側主導型」と呼び、

褒められる側が主導して褒めを誘発した先行連鎖を「褒められる側主導型」を呼ぶこと にする。以下では、[4-3]と[4-4]を挙げて説明する。[4-3]はスキー宿で友人たちと 夕食をとりながら雑談している場面である。[4-4]は仲の良い女性同士が雑談している 場面である。

[4-3]褒める側主導型

63-1A30m:「地名3」に引っ越したから、、

64 B30m:ああ【小声で、感心したように】

63-2A30m:スリーベッド27

65 B30m:「地名328 の略称1」広いですねえ。

66 =何でスリーベッドなんですかー?{<笑い「A30m」>}

67 第、第、第何子(なんし)まで契約があるんですか?【笑いながら】<笑い>

68 A30m:<笑い>スリーベッドで、下に家族のファミリールームが地下にあってー、で

ーー、あとデンが、あー、書斎みたいにしたのがあって。

69 B30m:##、そうか、か、買って、買ってはないんですか?。

70 A30m:買ってはいない。

71 で、あとー、<少し間>うーん、そうだな、な//。

27 「スリーベッド」は、three bedroomの略で、寝室3部屋の意である。

28 「地名3」はアメリカの都市で、A30mの引っ越し先である。

36 72 B30m:すごいですねえ。

73 まだー、ん、<少し間>二組(ふたくみ)以上、泊まりに来れるじゃないですか?

74 A30m:=あっ、二組(ふたくみ)は平気だと思うよ。

[4-4]褒められる側主導型

01 A:可是我就没得发现我的优势好不好。

でも自分のなんの取柄も見つからない。

02 我发现我这种真的是,一无是处哎。

私、私なんて、本当に取柄一つもないよ。

03 我真的没发现我有什么优势。

本当に取柄がないわ。

04 B:你没发现你跟谁相处的都很好嘛。

あなたが誰とも仲良くなれるということに気づいてないの?

05 A:那叫什么优势呀。

それは取柄じゃないよ。

06 B:那就是,比较有亲和力。

それがまさに社交性があるってことなんだよ。

[4-3]では、褒める側である A30mが冒頭で B30m の注目を自分の引っ越し先の家に 向けてもらったことが「すごいですねえ」(L72)という褒めを誘発したため、「褒める 側主導型」の談話と見なす。[4-4]では、褒められる側の謙遜(L01-03)が褒めを誘発 したため、褒められる側主導型の談話と見なす。

また、本研究は中国語と日本語の褒めの言語行動の対照分析を行なうため、金(2007)

を踏まえて、本データで確認できた先行連鎖を再分類をした。褒める側主導型および褒 められる側主導型の先行連鎖に用いられるストラテジーそれぞれ4つが確認できた。

褒める側主導型のストラテジー

① 質問/確認:褒めの対象になる話題や事柄に関して質問する、あるいは確認する。

② 情報提供:話題や褒めの対象に関連する情報を提供する。

③ ポジティブな感想/感情:褒めの対象になる人、物、ことについて自分のポジティブ

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な感想や感情を述べる。

④ 比較:褒めの対象を自分のことと比較する。

褒められる側主導型のストラテジー

① 情報提供:話題や褒めの対象に関連する自分の情報を提供する。

② 注目:聞き手の目線を評価対象に向けてもらう。

③ 自慢:自分のことや出来事を肯定的に述べる。

④ 謙遜:自分に関する不利な情報を述べる。

次節は、各主導型の談話例を挙げながら、先行連鎖に見られる中国語ならびに日本語 の対照分析をする。