第 5 章 褒めの文化差およびジェンダー差
5.1 褒めの談話に見られる文化差
5.1.3 談話 3 の分析結果
102
このことから、女性同士の談話に違和感を覚え、さらに、「適当」に感じていたのだと 考えられる。この結果から、言語に関わらず、女性は褒めることで良好な人間関係を構 築していると解釈するが、男性は皮肉や本心ではないと解釈していることが明らかにな った。この文化差とジェンダー差については、本研究の第5章で分析し、第6章で考察 する。
103 A:(先輩たちは)どんな仕事見つけた?
B: えっと、あの何、トヨタ、そう、そう、パナソニック、ソニーとか。
A: それはすごいね。
B: でも多くないよ、そういう人は。とても優秀で、勉強もすごくできるし、そして。
A: あなたがまさにそんなタイプだと思う。
B: 無理無理。何でもできて、すごいよ、先輩たちは。
A: いや、そんなに(謙遜しなくてもいいよ)。
「何でも」ってなに?普通私たちが学んだのは言語以外に何があるの。
B: なんというか。すごそう、という感じ。
A: あなたはすごくないとでも言うの?!!
B: わたし?(すごく)ないと思う。
A: すごいじゃない。
勉強もできるし。
勉強だけじゃなくて、そう、飲み込みが早い。
要は、何を学んでも、とても(手際がいい)。
談話3のt検定の結果は表5-3の通りである。
表5- 3 談話3のt検定の結果
グループ統計量
国籍 度数 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差 会話3 1 78 1.65 .895 .101
2 68 1.93 1.124 .136
104
独立サンプルの検定 等分散性のた
めの Levene
の検定 2 つの母平均の差の検定
F 値 有意
確率 t 値 自由度
有意確率
(両側)
平均値 の差
差の標 準誤差
差の 95% 信頼区間 下限 上限 会
話 3
等分散を仮 定する
8.063 .005 -1.630 144 .105 -.273 .167 -.603 .058
等分散を仮 定しない
-1.605 127.604 .111 -.273 .170 -.609 .063
表5-3からわかるように、談話3に対して、中国語および日本語それぞれの回答から 得た平均値に差があるかどうかについてt検定を行なったところ、有意差は見られなか った(t=-1.605, df=127.604, n.s.)。
談話3に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者それぞれの回答の理由は、
以下の通りである。
中国語母語話者
本心から褒めていることがわかる(CM5)
具体的な理由を強調しながら、Bの能力を認めている感じがする (CM23)
相手のためにしっかりと考えているから(CM29)
具体的にはどこがすごいのかを言っているから(CM36)
成績が良くて、手際がいいなど相手のすごいところをちゃんと言っているから、褒め だと思う(CM37)
具体的に褒めているから。ただすごいねと言うのではなく。心から思っているから具 体例まで挙げられる(CF3)
具体例や理由を挙げることで、適当ではないことがわかる(CF13)
「すごい」は褒め言葉なので。具体的に何がすごいのかを説明もしたから(CF39)
105 日本語母語話者
相手の長所を思いついた順にどんどん言っているから相手を褒めようとする気持 ちがわかる(JM24)
卑屈なBを褒めるセリフに見えたから(JM33)
「飲み込みが早い」「手際がいい」は良い意味でした私には感じないから(JF10)
要領が良い所を褒める時は人によって感じ取り方が違いそう(JF2)
少しお世辞の様に感じらせる(JM15)
一気に一人で行っているので頑張って無理やり褒めているニュアンスがある(JF6)
少し言い過ぎ(JF22)
良好な関係を築くために無理して褒めているようにも捉えられるから(JF25)
以下の図5-3は、談話3に対する中国語母語話者ならびに日本語母語話者の回答結果 の割合を示している。
図5- 3 談話3についての回答比率
表5-3から、中国語の平均値と日本語の平均値に有意差が見られなかったが、図5-3 に示したように、「褒めである」という意見は中国語母語話者では84%を占めており、
日本語母語話者(65%)より2割ほど高いことがわかる。
58%
26%
9% 7%
0%
53%
12%
28%
4% 3%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
中国 日本
106
中国語母語話者は、「具体例や理由を出しているから」93 や「心から褒めている」94 と いう理由で、「褒めである」と判断した。そのようなコメントは日本語母語話者でもよ く見られた。「具体例を出している」から、心からすごいと思っている感じ95 というコ メントが多く確認できた。「褒めではない」理由について、日本語母語話者は「お世辞」
や「社交辞令」(JF11、JM15)、「無理やり褒めている」(JF6、JF25など)の理由が挙げ られた。このことから、具体例や理由をたくさん出して褒めている中国語母語話者同士 の談話に対して、日本語母語話者は「嫌な気はしない」と感じることもあれば、「言い 過ぎ」(JF22)、「お世辞」や「社交辞令」(JF11、JM15)、「無理やり褒めている」(JF6、
JF25など)という感想につながりやすい理由から、遠慮している様子が窺える。