座長:錫村 明生
医療法人偕行会 城西病院亀井 聡
日本大学医学部内科学系神経内科 学分野≪ねらい≫
神経免疫疾患とは、脳・脊髄・末梢神経、神経筋接合部、お よび筋において、免疫性の病態が働いて引き起こされる疾患 群であり、数多くの疾患が含まれる。補体系は自然免疫系の 重要な生体防御機構であるが、本疾患群の中には、この補体 活性の亢進がその病態形成の中心となる疾患がある。重症 筋無力症、ギラン・バレー症候群、視神経脊髄炎関連疾患が その代表であり、近年、補体経路を直接抑制し得る抗C5モ ノクローナル抗体であるエクリズマブが開発され、日本でも これらの疾患にその適応が広がりつつある。本セッションで は、補体介在性神経免疫疾患を中心とした最近の知見を議論 する。
S-34-1 重症筋無力症に対するエ
クリズマブ治療:これま でにわかったこと、わか らないこと
○村井 弘之
国際医療福祉大学 神経内科
【略歴】
1988年 3月九州大学医学部卒業 1988年 6月九州大学病院研修医 1990年 6月広島赤十字・原爆病院神経内科 1991年 6月九州大学病院医員
1995年 1月米国ロズウェル・パーク癌研究所留学 1998年 4月九州厚生年金病院神経内科医長 2000年 4月九州大学病院神経内科助手 2005年 8月同講師
2007年 4月飯塚病院神経内科部長兼脳卒中センター長 2012年10月九州大学大学院医学研究院神経内科学准教授 2015年 7月九州大学大学院医学研究院神経治療学寄附講座教授 2017年 4月国際医療福祉大学医学部神経内科学主任教授 現在に至る 所属学会等:
日本神経学会(専門医、指導医)、日本内科学会(認定医、指導医)、日本神経免 疫学会(理事)、日本神経治療学会(評議員)、日本脳卒中学会(評議員、専門医)、
日本神経感染症学会(評議員)、日本認知症学会(専門医、指導医)、日本頭痛学 会(指導医)、AmericanAcademyofNeurology(correspondingmember)
Editor-in-Chief,ClinicalandExperimentalNeuroimmunology
日本神経学会重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドラ イン作成委員会委員長
近年、重症筋無力症(MG)の治療は大きく変化してきた。
MG診療ガイドライン2014では、それまで全身型MGに対し て一般的に行われてきた胸腺摘除術+大量ステロイド内服に 代わり、低用量ステロイド+早期カルシニューリン阻害薬+
早期速効性治療を推奨することにより患者QOLを向上させ ることを提唱した。その結果、治療目標である「軽微症状以 上で内服ステロイド5mg以下(MM-5mg)」を達成する患者の 割合は増えてきている。
2017年12月に、抗アセチルコリンレセプター(AChR)抗 体陽性で免疫グロブリンや血液浄化療法により症状がコント ロールできない難治性全身型MGに対してエクリズマブの使 用が認可された。MGでは抗AChR抗体がAChRに結合する と補体が活性化され、その結果産生されたmembrane attack complex (MAC)が後膜を平坦化するが、エクリズマブはC5 がC5aとC5bに開裂するのを阻害し、MACの産生を抑制する。
エクリズマブの国際共同臨床試験(REGAIN)においてエ クリズマブ群ではプラセボ群に比べMG-ADLおよびQMGス コアが速やかに改善し、その効果が長期間持続した。その 効果は日本人においても白人と差はなく、人種差はないと 考えられた。また、26週の時点におけるminimal symptom expression(MG-ADLスコア0-1またはMG-QOL15スコア0-3)
の達成率はエクリズマブ群で21.4%、プラセボ群で1.7%と大 きな差がついた。
エクリズマブ投与12週でresponderかnon-responderかを 判断し、後者であれば原則投与を中止する。一方responder であった場合にいつまで投与を継続したらいいかについて は、まだ解答はない。また、現時点でresponderかどうかを 投与前に判定する手段はない。これらは今後の検討課題とい える。
2018年12月現在、エクリズマブは本邦では約80例のMG患 者に使用され、髄膜炎感染症の報告はない。
25 シ ン ポ ジ ウ ム 日
5月25日(土)8:00 ~ 10:00 第10会場(大阪国際会議場12F グラントック)
公募 Jp
S-34-2 ギラン・バレー症候群に
対するエクリズマブ治療
―対象患者像
○関口 縁
千葉大学病院 神経内科
【略歴】
【略歴】2004年 3月 千葉大学医学部卒業
2012年 9月 千葉大学大学院医学薬学府研究科博士課程修了 2012年10月~ 千葉大学大学院医学研究院神経内科学 特任助教 2014年 4月~ 現職
【専門領域】
神経内科学、臨床神経生理学
エクリズマブは、補体C5に対するモノクローナル抗体であ り、補体活性経路の最終産物であり細胞膜破壊作用のある C5b-9(membrane attack complex)の産生を阻害する。発作 性夜間ヘモグロビン尿症に加え、2017年には重症筋無力症へ の適応を取得し、今後脳神経内科領域の自己免疫性疾患にも 応用が期待されている。
ギラン・バレー症候群(Guillan-Barré Syndrome :GBS)に対 する標準治療には免疫グロブリン(IVIG)あるいは血漿交換 がであるが、最重症患者を救済できるeff ect sizeの大きい新 規治療は長年の課題であった。軸索型GBSの病態には補体の 活性化とmembrane attack complex産生が関与することか ら本剤の有効性が期待され、2016年から2017年に重症GBSを 対象としたエクリズマブ治療の医師主導治験が本邦で行われ た(Japanese Eculizumab trial for GBS:JET-GBS study)。本 治験ではエクリズマブ投与後24週で走行可能な症例の割合 が、実薬群で74%、プラセボ群で18%(p=0.004)であり、本 剤の有効性が示された。一方で人工呼吸器装着率、徒手筋力 試験や重症度スケールの改善度では有意差を認めず、一部エ クリズマブ不応例の存在も示唆された。
実薬投与群22例のうち、4週時点で独歩可能となった反応群
(13例)と不応群(9例)でのサブ解析において、発症から投 与までの期間、抗ガングリオシド抗体の有無、電気診断、
IVIG再投与の有無に有意差を認めなかった。エクリズマブ の血中濃度を測定した7例では、初回~2回目投与後に血中濃 度が急激に減少し、3回目投与以降は血中濃度が保たれる傾 向を認めた。Day 8のトラフ値が100 μg/mlを下回った2例の み、24週時点でも走行不能であり、他症例と比較し予後が悪 かった。超急性期における補体活性化に伴いエクリズマブが 急激に消費され、エクリズマブ濃度が十分に維持できなかっ たことが神経障害の進展に寄与した可能性がある。
今後、本治療法の開発を次相へ進めるとともに、著効例の 背景因子や補体値の変動、重症化する症例をより早期に正確 に予測するための疫学研究を推進することが重要である。
S-34-3 補体阻害薬はNMOSD治 療を変えることができるか
○藤原 一男
1,21 脳神経疾患研究所 多発性硬化症・視神経脊髄 炎センター、2 福島県立医科大学多発性硬化症治療学
【略歴】
昭和59年 九州大学医学部医学科卒業
平成 3年~ 6年 ロズウェルパーク癌研究所神経内科,ニューヨーク州立 大学バッファロー校神経内科Fellow
平成19年~27年 東北大学教授(多発性硬化症治療学寄附講座)
平成27年~現在 福島県立医科大学教授(多発性硬化症治療学講座)、
一般財団法人脳神経疾患研究所 多発性硬 化症・視神経脊髄炎センター長 他の役職 日本神経治療学会理事、日本神経免疫学会理事、President, PACTRIMS, Board member, European Charcot Foundation, Executive Committee member of International Medical and Scientific Board, Multiple Sclerosis International Federation
視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis optica spectrum disorders, NMOSD)は、視神経炎、脊髄炎と脳症候群を起 こす中枢神経の炎症性疾患である。2015年の国際診断基準に よりアクアポリン4(aquaporin 4, AQP4)抗体陽性NMOSD とAQP4抗体陰性NMOSDに分類され、特にAQP4抗体陽性 NMOSDの早期診断に役立てられている。NMOSDの再発予 防には、これまでステロイドや種々の免疫抑制剤などが投 与され有効と考えられてきたが、いずれもオープンラベル 投与によるデータだった。その後NMOSDの免疫病態の解析 が進み、最近3つのモノクローナル抗体製剤(補体C5に対す るeculizumab、IL-6受容体に対するsatralizumab [SA237]、
CD19に対するinebilizumab [MEDI-551])の国際多施設二重 盲検プラセボ対照試験が行われた。それぞれ若干治験デザイ ンは異なるが、2019年初頭の段階ではいずれもプラセボ対照 試験は終了している。
AQP4抗体陽性NMOSDでは、AQP4抗体が主にIgG1サブ クラスに属し、補体を活性化してAQP4を密に発現している アストロサイトを補体依存性細胞傷害により破壊すること が主な病態と考えられている。eculizumabはこの機序を阻 害することによりNMOSDの病態を抑制することが期待され る。実際、AQP4抗体陽性NMOSD症例に対するeculizumab の第3相国際治験(PREVENT試験)は、プレスリリースによ ればeculizumab群ではプラセボ群に比較して再発リスクを 94.2%減少させた。一方有害事象については従来報告されて いるものと同様であった。
本講演では、NMOSDの病態、PREVENT試験の成績、他 の国際治験や従来の治療薬の効果などとの関連について紹介 し、NMOSD治療におけるeculizumabの意義を解説したい。
25 日 シ ン ポ ジ ウ ム
5月25日(土)8:00 ~ 10:00 第10会場(大阪国際会議場12F グラントック)
公募 Jp
S-34-4 補体と神経感染症
○亀井 聡
日本大学医学部内科学系神経内科学分野
【略歴】
●職歴: 昭和55年 6月 日本大学医学部神経学(神経内科)教室入局 昭和61年10月~63年 1月 米国Emory大学およびCDCに留学。
平成 9年 3月~平成14年2月 日本大学医学部神経内科講師 平成14年 3月~平成19年3月 同 助教授
平成19年 4月~平成22年2月 同 准教授
平成22年 3月~現在 同 主任教授・附属板橋病院 脳神経内科 部長
●主要学会:
日本神経学会(前理事・代議員・ガイドライン統括委員会委員長・前診療向上委員会委員長・
編集委員会委員・広報委員会幹事等), 日本神経治療学会(理事・評議員・治療指針作成委員 会委員・医療保険委員会委員), 日本神経感染症学会(理事長・理事・代議員・編集委員会委員 長),日本脳卒中学会(代議員), 日本臨床神経生理学会(代議員),日本内科学会(代議員), XXIII World Congress of Neurology (Scientific Program Committee)
●診療ガイドライン作成委員長
日本神経治療学会・日本神経学会・日本神経感染症学会の3学会合同による単純ヘルペス脳 炎および細菌性髄膜炎の診療ガイドライン
●その他活動:
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構専門委員
内科系学会社会保険連合 運営委員・神経関連領域委員会委員長 日本医学教育評価機構 評価委員
従来、補体活性化カスケード前半を構成する分子(C1q, C1r, C1s, C4, C2, およびC3)の欠損症では常染色体劣性の自己免疫 疾患を発症することが知られている。一方、C2やC3欠損症で は莢膜を持った細菌(肺炎球菌やインフルエンザ菌)に対し易 感染性を示す。これに対して後半を構成する分子(C5, C6, C7, C8α, C8β, C9)の欠損ではナイセリア属(淋菌、髄膜炎菌)の細 菌感染症が好発し、特に髄膜炎菌による髄膜炎が重要な問題と なることが知られていた。
最近、補体タンパク質C5 に対して特異的に結合する終末補体 阻害剤エクリズマブが開発され臨床承認された。本薬は発作性 夜間血色素尿症(PNH)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、
重症筋無力症(MG)の治療薬として認可されている。本薬の MGに対する機序は、終末補体複合体C5b-9 産生を抑制するこ とにより神経筋接合部における運動終板の破壊を抑制するこ とによる。一方で、本薬使用により髄膜炎菌をはじめとする莢 膜形成細菌による感染症を発症しやすくなる。エクリズマブ は、髄膜炎菌感染症の発生率を1000~2000倍増加させることが 知られており、米国の予防接種実施に関する諮問委員会から は、患者が本薬を使用する治療の前に、4価の髄膜炎菌ワクチ ン(MenACWY)と血清群B(MenB)ワクチン(本邦未承認)の両 方の接種が推奨されている。なお、ワクチン接種をしていても、
本薬使用患者は髄膜炎菌感染症に対して発症リスクが高く、ワ クチン接種患者での髄膜炎菌感染症も報告されている。以上よ り、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、本剤投与 の是非を慎重に検討し、適切な対象患者に対し投与を開始する ことが必要で、本剤投与に際しては、緊急な治療を要する場合 等を除いて、本剤投与開始の少なくとも2週間前までに髄膜炎 菌に対するワクチンを接種することが必要である。
髄膜炎菌感染症を発症した場合の治療方法については、細菌性 髄膜炎診療ガイドライン2014に準拠し、セフォタキシム:2.0g、
4~6時間毎に静注又は点滴静注(1日最大投与量12g、保険適用 は4g)または、セフトリアキソン:2.0g、12時間毎に静注又は 点滴静注(1日最大投与量4g)が必要となる。髄膜炎菌感染症は、
転帰の上から早期の適切な治療が必要であり、症候の理解と本 薬のリスクについて十分な情報を患者に事前に説明しておく ことが、患者の安全管理の上から重要である。
S-34-5 補体update
○木下タロウ
大阪大学微生物病研究所
【略歴】
学歴昭和49年 3月 東京大学農学部農業生物学科卒業
昭和52年 3月 同大学院農学系研究科修士課程修了、農学修士 昭和56年 3月 大阪大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士 職歴昭和56年 4月 日本学術振興会、奨励研究員
昭和57年 2月 大阪大学医学部細菌学、助手
(昭和57年8月から60年8月、ニューヨーク大学医学部にて海外研修)
昭和63年 4月 大阪大学医学部細菌学、講師 平成 2年10月-平成29年 3月
大阪大学微生物病研究所、免疫不全疾患研究分野、教授 平成15年10月-平成19年10月
大阪大学微生物病研究所、所長 平成19年11月-平成29年 3月
大阪大学免疫学フロンティア研究センター、副拠点長、
糖鎖免疫学研究室、教授 平成29年 4月-現在
大阪大学微生物病研究所、籔本難病解明寄附研究部門、
寄附研究部門教授 受賞歴
平成13年 第19回大阪科学賞 平成19年 大阪大学教育研究功労賞
平成22年 文部科学大臣表彰(科学技術賞:研究部門)
2015年 IGO Award (International Glycoconjugate Organization Award)
平成29年 武田医学賞
平成29年 日本免疫学会ヒト免疫研究賞 平成30年 紫綬褒章
平成30年 大阪大学栄誉教授
補体は、活性化経路成分[古典経路、レクチン経路、第2経路
(副次経路、代替経路とも呼ばれる)の3経路]、後期経路成分、
補体レセプター群、補体制御因子群の計30以上のタンパク 質から構成されるシステムで、異物の標識、免疫系細胞の動 員、膜傷害による微生物の破壊を主たる機能とする自然免疫 系の重要な要素である。補体の機能欠損は、易感染性または 全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患を引き起こし、
一方、補体の制御異常は、自己組織傷害による各種疾患を引 き起こす。本講演では、補体系を概説し、近年注目されてい る抗補体医薬による補体関連疾患の治療について紹介する。