森下 真一
4、辻 省次
5,6、阿部 康二
11 岡山大学大学院脳神経内科学、2 東京大学医学部神経内科、
3 岐阜大学生命科学総合研究支援センター ゲノム研究分野、
4 東京大学大学院新領域創成科学研究科バイオデータベース 分野、5 東京大学大学院医学系研究科分子神経学、
6 国際医療福祉大学ゲノム医学研究所
【略歴】
【学歴】2001年3月岡山大学医学部医学科卒業
2007年3月岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程卒業(阿部康二教授)
【職歴】2001年4月 岡山大学医学部附属病院神経内科 2002年5月 国立岡山医療センター内科
2003年4月慶應義塾大学医学部生理学教室共同研究員(岡野栄之教授)
2006年4月岡山大学医学部附属病院神経内科医員
2009年7月 米国コロンビア大学病理細胞生物学部門博士研究員(AsaAbeliovich博士)
2012年9月 岡山大学病院神経内科助教 2013年9月 岡山大学病院神経内科講師
2015年4月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学講師~現在に至る
【受賞歴】
2010年2月岡山医学会賞
2010年4月第34回日本心臓財団草野賞 2016年9月第6回日本認知症予防学会浦上賞
【所属学会】
日本神経学会(代議員)、日本脳循環代謝学会(幹事)、日本脳卒中学会(国際委員会副 委員)、日本認知症予防学会(評議員)、日本内科学会、日本神経科学会等
常染色体劣性遺伝性小脳変性症(以下ARCA)は、非進行性の 小脳低形成や進行性の脊髄小脳変性症を含む不均一な疾患の 総称であるが、原因遺伝子が特定されていない患者も多数存 在するのが現状である。
最近当科で経験した3兄弟例は7~8歳に歩行障害で発症し、そ の後緩徐進行性の小脳失調を認めた。神経学的所見として軽 度精神発達遅滞、散瞳、軽度四肢腱反射亢進を共通して認め た。また長男、次男には緊張時に首を振るような振戦も認め た。両親や他の親族に類症は認めなかった。頭部MRI上、3人 とも同様に小脳虫部優位の小脳萎縮を認め、血清アルブミン 値、AFP、ビタミンEは正常で、SCA1, 2, 3, 6, DRPLAはリピー ト伸張を認めなかった。そこで東京大学神経内科辻省次先生 との共同研究で3兄弟と両親のエクソーム解析を行い原因遺伝 子の同定を試みたところ、PEX10遺伝子に複合ヘテロ接合体 変異 c.2T>C (p.M1T)/c.920G>A (p.C307Y)を同定した。
PEX遺伝子は、ペルオキシソームの膜生合成に関与しその遺 伝子変異はZellweger症群や乳児型Refsum病などを引き起こ すことが知られている。2010年にRegalらがPEX10遺伝子変 異によるARCAを報告しているが、今回同定された変異のう ちc.920G>A (p.C307Y)は新規の変異であり、本症例の特異な 臨床症状の原因と考えられた。また本疾患のようなペルオキ シソーム形成異常症ではフィタン酸などの脂肪酸が神経系へ 異常蓄積することが病態に関与する可能性が示唆されており、
フィタン酸制限の食事療法により神経症状が改善した報告が ある。本症例でもすでにフィタン酸制限の食事療法に取り組 んでおり、本シンポジウムでは文献的考察ならびに3兄弟例の その後の経過を含め報告する。
24 日 シ ン ポ ジ ウ ム
5月24日(金)8:00 ~ 9:30 第3会場(大阪国際会議場10F 会議室1003)
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HT-08-2 抗GAD抗体陽性小脳失調症
○南里 和紀
佐々総合病院 脳神経内科
【略歴】
1985年 東京医科大学卒業
1985年 東京医科大学病院内科学第三講座臨床研修医 1996年 フランス国立科学研究センター脳血管研究所 留学 2002年 東京医科大学八王子医療センター神経内科科長 2002年 東京医科大学 内科学第三講座 講師
2007年 東京医科大学 内科学第三講座 准教授 2011年 東京医科大学 内科学第三講座 教授 2013年 東京医科大学 神経内科 教授 2017年 東京医科大学 神経内科 兼任教授 2018年 佐々総合病院 脳神経内科 部長
GADは、興奮性伝達物質のグルタミン酸から抑制性伝達 物質のGABAを合成する酵素である。抗GAD抗体は、1型糖 尿病やstiff -person症候群(SPS)のみならず小脳失調症との関 連が報告されている。抗GAD抗体陽性小脳失調症は、女性 に多く、中高年発症、抗甲状腺抗体陽性、1型糖尿病を併発 することが多い。また抗GAD抗体は高力価例が大多数を占 めているが、低力価例の報告も散見される。
高力価例の発症機序については、興奮性シナプスの増強が 関与しているとの説が有力視されている。GABAは興奮性シ ナプスに作用しグルタミン酸の放出を抑制するのだが、抗 GAD抗体によりGABA の放出が減少すると、興奮性シナプ スが増強し、プルキンエ細胞が障害を受けるとするものであ る。
一方、低力価例では、上記のような興奮性シナプスの増強 は確認されていないことから、純粋な免疫反応により発症す ると考えられる。しかし、抗GAD抗体のみで小脳失調をお こすという明白な証拠はなく、抗GAD抗体以外の自己抗体 や細胞性免疫の関与も推測されている。抗GAD抗体陽性小 脳失調症の末梢血リンパ球T細胞はIFN-γを高濃度に産生し たが、SPSでは産生がなかったとの報告があり、免疫性炎症 によりプルキンエ細胞が障害を受ける可能性がある。
抗GAD抗体陽性1型糖尿病に橋本病など他の自己免疫性内 分泌障害を合併する多腺性自己免疫症候群に小脳失調が合併 するとの報告が散見されている。その中には抗GAD抗体低 力価例や経過中に陽性化した例の報告もみられる。多腺性 自己免疫症候群とグルテン失調症の関連も指摘されている。
グルテン失調症患者のうち40%が抗GAD抗体低力価陽性で、
無グルテン食群では失調症状の改善とともに抗GAD抗体が 陰性化したが、食事治療を行わない群では失調症状の改善は なく、抗GAD抗体は陽性のままであったとの報告がある。1 型糖尿病では、抗GAD抗体、抗甲状腺抗体、抗グリアジン 抗体が、健常者に比べ高率に陽性であったとの報告もある。
治療に関しては、免疫グロブリン、ステロイド、アザチオ プリンなどの投与、血漿交換が行われ、その効果は半年で 50%に有効、56か月では35%で有効性が維持されたと報告さ れている。
小脳失調症、特に糖尿病、自己免疫性内分泌疾患例では、
抗GAD抗体を測定し、低力価であっても治療可能な自己免 疫性小脳失調症である可能性があり、underdiagnosisせず、
免疫治療を考慮することが望まれる。
HT-08-3 小脳失調型橋本脳症
○米田 誠
福井県立大学 看護福祉学部
【略歴】
【現 職】福井県立大学 看護福祉学部・研究科 教授
【略 歴】
1983年 新潟大学医学部医学科卒業.新潟大学脳研究所 神経内科 医員.
1990年 医学博士学位取得.米国カリフォルニア工科大学 生物学部 研究員 1995年 名古屋大学医学部 第二生化学講座 助手
2007年 福井大学医学部内科学(2)(神経内科) 准教授 2009年 福井大学医学部附属病院 遺伝診療部 部長(併任)
2011年 同 診療教授(神経内科 科長)
2013年 福井県立大学 看護福祉学部 研究科 教授
福井大学高エネルギー医学研究センター 客員教授(併任)
【所属学会・役員・資格】
日本神経学会(代議員・専門医・指導医),日本神経治療学会(評議員),日本 神経免疫学会(評議員),日本神経感染症学会(評議員),日本人類遺伝学会(評 議員・専門医・指導医),日本てんかん学会(評議員),日本ミトコンドリア 学会(評議員・理事),日本内科学会(総合内科専門医・指導医)
【専門領域】
脳神経内科学,神経免疫学,脳分子イメージング,臨床遺伝学,ミトコンド リア病
橋本脳症は、慢性甲状腺炎(橋本病)に合併する自己免疫機序 を背景とした治療可能な脳症である。演者らは、プロテオー ム解析から、α-エノラーゼのN末端側に対する自己抗体(抗 NAE抗体)が患者の血清中に特異的に存在することを見出 し、橋本脳症の血清診断を可能とした。多施設からの解析依 頼があり、臨床像も明らかとなってきた。その結果、橋本脳 症においては小脳性運動失調(小脳失調)を主徴とする"小脳 失調型橋本脳症"が高い頻度で存在することが明らかとなっ た。小脳失調型の橋本脳症は、ステロイドなどの免疫療法が 奏効することから、小脳失調を主徴とする患者の中で見逃し てはいけない疾患の一つである。他の自己免疫性の小脳失調 症としては、傍腫瘍性小脳失調症、抗GAD抗体を有する小 脳失調症、グルテン小脳失調症などがあげられるが、小脳失 調型の橋本脳症はこれらと並んで高頻度に存在し,治療効果 も高い。また、慢性進行性の経過をとることが多いため、脊 髄小脳変性症も鑑別にあげられる。特に、小脳失調を呈し、
自律神経障害やパーキンソニズムを呈さない純粋小脳失調型 との鑑別が重要である。小脳失調型の橋本脳症は、体幹失調 が優位であり眼振を呈さない傾向がある。脳MRIやCTでは 脳萎縮が目立たないことが多い半面、軽度の脳波異常や精神 症状を呈する傾向がある。抗NAE抗体陽性の小脳失調型橋 本脳症の一部では、動物の脳スライスを用いた生理学的実験 で、プルキンエ細胞の神経伝達が患者の髄液の添加により障 害されることが見出されており、自己抗体が小脳において機 能的影響を及ぼす可能性も示唆される。本講演では、小脳失 調型橋本脳症の特徴について自験例を含めて述べたい。日常 の脳神経内科診療において、治療可能な小脳失調型橋本脳症 の可能性を念頭においていただきたい。