内閣官房 知的財産戦略推進事務局長
20年ぐらい前、あるいは10年ぐらい前、ジャパン・アズ・
ナンバーワンのころは、新聞を見ると日本は世界の工場とい われていたわけです。これは1760年にイギリスに産業革命が 起きたときには、イギリスが七つの海を支配して、世界の工 場といわれていました。それからしばらくしてアメリカが世 界の工場になり、そして戦後、日本人が努力して復興して、
ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれたときには、日本で 造る物はよい物で安い物だといわれ、そういうときには世界 の工場は日本だといわれていました。最近は新聞を見ている と、中国が世界の工場だといわれています。ということは、
世界の工場というのは動いていくものだということです。
日本もこれからもりっぱな生産国家、ものづくり国家でい くためには、そういうことを意識して、日本にも強い技術を 持ち、りっぱなものにしていかなければいけないということ だと思います。単に日本人は器用だからいいといっているだ けでは、アメリカで基本的な発明が出たら、それを日本で試 作、改良して、また中国へ行って量産する、アジアに行って 量産するというようなことになり、1億2000万人が食ってい けないという問題があるわけです。
こういうことで、これから科学技術、知的な部分、知識と いうものが非常に大事になってくるときに、本来こういうも のを生み出す大学や企業の現場はどうか、また例えば特許に するのであれば、特許庁はちゃんと期待にこたえているか、
そして最後は権利ですから裁判所が守ってくれるかという流 れを見たときに、残念ながらといったらしかられますが、日 本の大学は今まではおおらかにやっていたわけです。大学は とにかくいいことを考えていてくださいということで、いわ ば産業界との関係を絶って、象牙の塔というか、雲の上に住 んでいるのが大学人だと言われていました。しかし、どうも これはもったいないのではないか。全国の大学に今28万人研 究者がいます。ぜひ今の日本が世界に誇れるような技術開発 をしてもらったらどうかということで、大学の先生にももう 少しいろいろお願いしますと。そのかわり社会の環境も整え なければいけないわけです。
それから、企業はどうかといったら、外国からいい特許を 買ってくるということでライセンス協会のお話がありました。
どうも経緯を聞いてみれば、日本の会社もいいライセンスを 持ってくるというのが、戦後復興のときに大事なわけですが、
これからはもちろん外にも技術を売るという面が今非常に重 要にはなってきています。そうなってくると、基本特許がア メリカやヨーロッパにあるのであれば、日本では改良特許で いくということです。周りを数で固めなければいけないとい うことで、日本は質より量といったらしかられますが、量は 非常に多く、これが日本の戦略ということで、特許部のかた や知財部のかたが苦労されたわけです。
そういうことですから、特許庁もたくさん出願していただ いていまして、世界でもいちばん特許を出していただいてい ます。そのかわりお待ちいただいている時間がいちばん長か ったということで、これではおかしいのではないかという議 論が今出ているわけです。
一方、裁判所のほうはどうかというと、今、司法改革とい うことで、「思い出の事件を裁く最高裁」という川柳があり
ます。新聞を見て、最高裁判決というと昔話が出てきます。
日本の裁判所は非常に時間がかかる。そして特許の場合は技 術ですから、もっと時間がかかるということで、中小企業の 方などが特許裁判に巻き込まれたら、まともにやっていれば 会社はつぶれてしまうという話がよく聞かれます。また技術 を分かってくれない、あるいは賠償額が低いというのが裁判 所に対する注文だったわけですが、こういうものを総合的に 見ていかないと、よくなっていかないのではないかというこ とで、政府としても今、知的財産、日本人の知恵を生かした 国づくりをしようということをやっているわけです。
これは2年前に小泉首相が施政方針演説をしたわけですが、
「研究活動や創造活動の成果を、知的財産として、戦略的に 保護・活用し、我が国産業の国際競争力を強化することを国 家の目標とします」ということで、日本人の知恵、勤勉さで やっていこうということです。
そのために去年、推進計画を作りました。第1に、従来の 枠にとらわれずにやっていこうということです。今までのこ とにこだわって連続性をやっている限りはなかなか創造的な 研究開発につながらない。2点めは国際性です。世界じゅう でグローバルな競争が始まっているときに、日本には日本の 良さがあるといっていても、科学技術には国境なしと。企業 の活動もボーダーレスですから、やっていけないという問題 です。第3に、スピードのある改革をしていこうということ で、慎重な検討などといっているとなかなか大変だというこ とです。
本田宗一郎さんは、特許や実用新案を500件ぐらいお取り になって、今のホンダをお作りになった方ですが、50年前に こうおっしゃっています。「私はかなり現実に拘泥せずに世 界を見つめていたつもりであるが、やはり日本の現状に心を とらわれすぎていた。今や世界はものすごいスピードで進歩 している」と。十年一昔、今はドッグ・イヤー、マウス・イ ヤーですから、本田さんが今生きていれば何と言ったかとい うことですが、改革は急いでやっていかないといけないので はないかということです。
それから、留意点の1点めは、もちろん大企業の方が多国 籍企業として活躍していただくことは大事なわけですが、同 時に中小企業の方がもっと技術に強くなってやっていくこと を考えなければいけない。それから日本の会社は集団主義で やってきたわけですが、だんだんこれからは個人に良い基本 的な発明をしていただかなければいけないということです。
2点めは、地域振興とか地方自治体。今までは知的財産に ついては、地方自治体の方もあまりこんなことをおやりにな ってこなかった。難しい手続きの話でとてもかなわないとい うようなことが多かったのですが、今までのように単に工場 を誘致するということではなくて、その地域に充実した知的 なものを生み出す場所、そういう良い発明が出てくる、良い 会社が生まれてくる。それから最近は農林水産物についても 地域のブランドで、わたしたちの地域で取った果物、取った 魚はおいしいものだということで、そのかわり品質も保証し ますよというようなことをやっているわけです。そういう地 域の農林水産物を使った地域振興なども大事な知財戦略なわ けです。
3点めは、行政というのは特許庁、あるいは司法という裁 判所も、国がやるという観点ではなくて、皆さん方、発明さ れた方が主役だと、そしてまたお使いになる方が主役だとい うことで、カスタマー・サティスファクションといいましょ うか、親切な行政、親切な司法に変えていくことが大事では ないかという観点で議論をしています。
そういう目で見たときに、知的創造サイクルが大事です。
これは良い発明をしていただく、良い創作をしていただく。
こういう創造活動をしっかり特許庁や裁判所で保護する。そ してまた、そのことによって財産として活用して社会に還元 する。お客様に喜んでいただく。その売り上げで、次の研究 開発をしていくという、このサイクルを回していこうではな いかと。これは今までは、こういうことをいうとしかられま すが、大学でも、国あるいは大学の金で研究開発をして、そ れで終わりと。また次の年も研究開発の予算を取る。あるい は会社においても、いろいろな研究所にお金を入れて、それ で終わりということだったわけです。ぜひこれは大学や研究 所、あるいは個人の方もそうですが、こういう知的創造サイ クルを回す。そのためには特許庁も裁判所も早くやっていか なければいけないと思っていますし、これだけ国際的なビジ ネス環境が変わるときですから、早く回さなくてはいけない。
いい発明をしたら、早く実用化しないといけないということ で、早く回せば大きく回っていくと思っています。
政府の今やっている推進計画は全体で270項目あります。ホ ームページに載っていますから、お時間があるときに是非ご 覧いただきたいと思いますが、考え方としては創造、保護、
活用、コンテンツ、それから人材育成ということで、5本柱 でやっているわけです。
主な項目だけ申し上げれば、一つは大学がぜひ産業界と組 んで、大学の知財本部あるいは技術移転機関を活用してうま く進めていただきたい。まさに今日の会議の趣旨、今週のこ のシンポジウム、セミナーの趣旨ですが、ぜひ大学と産業界 が組んでやっていけるようにお願いしたいということです。
もう一つは特許審査の迅速化ということで、一昨日オープ ニングで今井特許庁長官からお話があったと思いますが、今 日の日経新聞にもたまたま載っています。「特許庁は特許出 願件数が多い企業300社に対し、先行技術調査を徹底するな どして出願を絞り込むよう要請する。審査件数のうち特許が 認められなかった割合を示す拒絶査定率は、2002年に49%と ほぼ半分に上っている。特許庁の調査では、拒絶の根拠とな った先行技術は平均して8年前に出願されているという。『先 行技術をよく調べれば、特許出願だけでなく、研究開発自体 が効率化できる(今井長官)』と見ている」と書いてありま す。
これは出願される会社の方でも、あらかじめ見ていただけ れば、会社の技術戦略、経営戦略もさらに効率化するのでは ないかということです。従来のように、とりあえず特許庁に 出しておけというようなことをやっているともったいないで すよということで、会社ももったいない、国家にとってもも ったいないというのが、この特許審査の迅速化の考え方です。
ぜひこの審査は、出てきたらすぐに審査できるような順番待 ち期間をゼロにするということで、中長期の目標を作ってや
っていくということです。今度の国会にも特許審査迅速化法 案を出して、また審査官を大量に採用してやっていくという ことで、これは決してスピードを上げるから質が下がるとい うことではなくて、スピードも速く質も上げていくというこ とだと思っています。8年前の審査をしたりしていると、か えってこれは質が下がるわけですから、早く見ていくという ことで、早くして質も上げていくという考え方がここにあり ます。
それから、医療特許はバイオの特許、先端医療の特許とい うことで、薬の関係でコンパルソリー・ライセンシングとか いろいろな話がありまして、なかなか難しい話だと承知はし ています。しかし同時に、みんな人間生きているわけですか ら、長生きしたい、健康で暮らしたいというのはみんなの共 通の希望です。その際に、医療をどこまで特許に認めるか。
医療機器を特許にするというのはだれも抵抗は少ないわけで す。さらに医薬品も特許にするということが、今かなり世界 じゅうで認められています。次は医療方法の特許をどこまで やるかということです。患者の立場からすると先進的な医療 を受けたい。お医者さんからしたら治したい。また研究者・
企業にとっても技術の進歩にしているということがいいとい うことで、最近は医工連携という言葉が出ています。マイク ロロボット、ナノテクノロジーなど、いろいろなものを使え ば医学も進歩していくということで、医学部と工学部が連携 したり、薬メーカーだけではなくて、精密機械の会社も医学 の分野に入っていただくということになってきます。そうな ってくると、やはり特許で認めてほしいというようなことが 出て、今、議論をしています。
もう一つは知的財産の訴訟の関係ですが、なかなか特許の 関係を裁判官は分かってくれないということで、では専門的 な裁判所を作ろうということで、今度、知財高裁というもの を作って体制を作っていくということで、これも今の国会に 法律を出します。
それから、コンテンツビジネスの振興ということで、これ はまた違った切り口、映画とかアニメとなります。いろいろ な大学でも今、情報学科などがあったりすると、コンピュー タ・グラフィックスとか、非常にハイテクになっているわけ です。そういう進んだ技術を使ってコンテンツのビジネスを 振興していくことも大事ではないかということです。確かに
「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞を取って素晴らしいと か、演歌やJポップがアジアでも非常に好かれています。村 上春樹さんや吉本ばななさんの小説も世界じゅうに翻訳され て読まれているなど、わたしたちが思う以上に日本の芸術文 化が他の国で評価されています。漫画なども今、『少年ジャ ンプ』などが英語になって売られたり、いろいろな漫画がア ニメになったりして世界中の人に評価されています。ポケモ ンなども有名なわけですが、こういうものをぜひ一つのコン テンツビジネスとして振興して、これによって日本文化の発 信に貢献していったらどうかと。また同時に、これはビジネ スという面もありますので、そういうビジネスとしても発展 させていくことが必要ではないかと思っています。
今、ガルブレイスという人が「私の履歴書」というのを日 経新聞に書いていますが、それを見ても、「必需品が行き渡