モデレーター
西澤 昭夫(東北大学大学院経済学研究科 教授)
パネリスト
ルイス・バーネマン(ペンシルベニア大学技術移転センター マネージングディレクター)
ティモシー・クック(オックスフォード大学アイシス・イノベーション マネージングディレクター)
丁文江(上海交通大学 副学長)
先づけにより技術が見落とされ、さらに教員の満足度も低い ことが短所となっている。3)ベンチャー企業を重視する起 業家モデル:長所は株所有による大成功の可能性を秘め、新 規雇用を創出し、優れたパブリックリレーションズを獲得で きる点。短所としては、ベンチャー起業には既存企業とは異 なる能力が必要とされる、技術移転資格が与えられる発明の 数が限られていることを背景に教員の満足度が低下する点な どである。
TLOの人材を構成するアプローチには、一人の人物の中心に オフィスを作る個人アプローチと、グループが共同でチーム として機能するマトリックス・チーム・アプローチの二つが ある。日本は後者のアプローチを採用することを薦める。
ペンシルバニア大学では、2002年度、321件の製品開示、442 件の特許申請を行い、50件の特許が成立した。さらに83件の ライセンス契約締結、12件の新規起業、79件の商標ライセン ス、9件の著作権ライセンスを成立させ、収益は1360万ドル、
特許流通額は1090万ドルにのぼった。
企業のスタートアップの際に重要となるのは、1)新技術と 主製品を持ち、2)起業センスのある人材を確保し、3)世 界に通用する知的財産権を所有し、4)初期投資費用を調達 することである。
1966年以降、ペンシルベニア大学では、431件の米国特許を 成立させ、614件の商業契約を締結し、50件の新規企業を起 業させ、ライセンシーからの収入は7700万ドルにまでおよん だ。株主への配当金総額は5900万ドルで、資本利益率は193% である。
クック
過去6年で、技術移転分野におけるオックスフォード大学の 学内文化は大きく変化した。オックスフォード大学は2500人 の科学・医学分野の研究員を有し、博士課程に在籍する学生 数は2000人、2003年には英国の最優秀大学に選ばれた。さら にオックスフォード大学は「最も革新的な大学」として知ら れ、研究費も3億ドルと最高である。政府からの助成金は 6,900万ドル(全体の10%)で、残り部分が民間からの寄付で ある。
アイシス・イノベーションはオックスフォード大学の所有す る知的財産権のライセンス化やコンサルティングを通して研 究者の研究成果の商業化を行っている。スタッフ35名の半数 は博士号(科学)保持者で、年間特許予算は150万ドル。ま た、600万ドルのマーケティング等開発資金、1500万ドルの 二次的スピンアウトのためのアイシスカレッジ資金を有する。
昨年アイシス・イノベーションのスタッフが増加した背景に は、大学がコンサルティングサービスの提供や広報活動に着 手し始めたことがある。出願数が減った理由としては、スタ ッフの経験が増え、出願のフィルタリングが可能になったこ とがあげられる。スタッフの数が増加したことにより連携す る産業の数も増え、結果としてコンサルティング契約数の伸 びにつながった。アイシス・イノベーションは、年平均八社 の起業を行っている。
発明が起こると、大学内にあるリサーチ・サービス・オフィ スがその発明について、誰が資金を提供したのかを調査し、
アイシス・イノベーションがスピンアウトやライセンスを行 う。
その際には利益相反が起こる可能性があるため、第三者によ る資金調達という二重構造を構築しておくことが重要である。
アイシス・イノベーションは純利益の30パーセントを受け取 り、研究者、大学、学部はその貢献度により異なる割合の報 酬を受ける。
1998年以前は、研究者自身によってスピンアウトは行われて いた。アイシス・イノベーションの規模が拡大するにつれて、
スピンアウトする企業の数も増加している。
学内の起業文化、技術移転のリソース、研究環境の三分野で 変化が生じているが、これらはすべて市場ではなく大学側で 管理されるべきものである。
技術の着想は大学で起きるものであり、市場のみに任せるべ きはない。大学のイニシアティブが弱まると投資家・研究者 間の直接取引が始まり、大学が恩恵を受ける機会を逸するこ ととなる。
オックスフォード大学の場合、研究基盤の確立と潤沢な資金 供給、学界・産業界双方に明るいプロジェクトマネージャー の確保が技術移転の成功への鍵を握った。さらに、忍耐強い 投資家や大学も重要な鍵であった。
丁
上海交通大学は中国の総合大学で、21の学院、3,000人の研究 スタッフを擁する。院生は12,600人、学部生は14,000人で留学 生は2,000人。
産業化が発展途上にある中国では社会から大学への要求も多 く、学生の知識は社会に還元すべきとの考えが浸透している。
特許出願の際には大学は社会と密接な関係を維持しなくては ならない。また、大学での研究は市場を念頭においたものと すべきであり、このことも特許申請が必要となる理由の一つ となっている。
特許には革新性が求められ、社会に向けた創造性をも必要と する。また、教員も学生も社会貢献に対する強いモチベーシ ョンを持たなくてはならない。大学での研究成果は産業活動 の活性化という観点から社会に還元すべきであり、特許はそ の際の保護対策となる。さらに、特許はビジネスの形成にも つながり、こういった意味において大学による特許は社会貢 献につながるのである。
特許は発明と市場意識の形成に貢献する。本大学からは約200 件のベンチャービジネスが誕生した。大学院生は特許開発に 参加することにより市場意識を養うことができ、特許成立に 携わった卒業生が企業に就職すれば即戦力となる。特許開発 は学内での人材育成に有効な手段であるといえよう。
上海交通大学では特許申請に二つのアプローチを採用してい る。一つ目のアプローチとして当大学では昨年1200万円の資 金を投入して特許出願基金を設立し出願人の全面的サポート に踏み出した。二つ目のアプローチとして、特許に関する奨 励制度を設立した。大学教員の業績評価はかつては論文のみ を対象としており、そこに特許は含まれていなかった。しか しここにきて特許申請数も評価項目として考慮されるように なった。特許化してから論文を書くことも可能であり、この アプローチは大学が教官に特許出願を促す有効な手段となっ ている。
このような奨励制度により、出願数は5年前の5件から昨年 の744件(大半は発明特許)に増加した。うち15%の特許は実 用化されベンチャー企業の設立に貢献した。バイオ、IT、太 陽エネルギーなどの分野で発展がみられ、現在では四つの企 業が上場するまでになっている。このような事業を通して大 学が得た収入は特許申請やベンチャー企業への資金に活用さ れている。
今後の構想について。大学の特許がうまく活用されない背景 には、制度面や資金運用面での問題に加え、特許分野におけ る難解な技術用語や法律用語の氾濫をあげることができる。
よって、難解なイメージのある特許をマルチメディアやアニ メーション、シミュレーションなどの技術を駆使して人々に 身近な存在のものとするならば、特許の普及に大きく貢献す るであろう。本大学の大学院生は日本語および英語での特許 申請が奨励されているが、その際には多彩な図表を盛り込む よう指導している。
外国の失効特許も中国にとってはまだまだ有効である。また、
国際特許の国内移転にも今後注力していきたい次第である。
質疑応答
質問(西澤)
TLOと大学の関係についてお伺い致したい。大学内に知的財 産本部が設けられたなか、大学とTLOとの連携をどう進める べきか。バーネマン氏が提示した三つのモデルを採用するに あたっての採用基準はあるのか。クック氏もTLOは橋渡しの 役割があると述べられたが、大学とTLOの理想的関係とはど のようなものが想定されるのか。今回ご紹介頂いた三大学と も大学研究を重視した大学であるが、企業との関係における 優先順位はどのようになっておられるのか。技術移転候補と しての大学発ベンチャー企業を見極める判断基準とは何か。
さらにベンチャー企業の人材の問題では、大学と産業界のバ イリンガルな人材をどう発掘・育成するのか。
回答(バーネマン)
TLOの採用基準は、TLOが果たす目的を大学が理解すること にある。大学のニーズに合うTLOが重要。日本の場合は、商 業化し企業化することが日本に合ったモデルかどうかを見極 める必要がある。
回答(クック)
すべてのTLOはバーネマン氏の述べた三つのモデルを状況に よって使い分けるべきである。効果的な成功モデルを参考に しながら自分たちの大学に適用すべきであり、新たなモデル をゼロから作成する必要はない。オックスフォード大学の場 合、過去において研究サービスオフィスとアイシス・イノベ ーションの間の緊張関係が高まったことがあったが、研究者 がこの制度に不信感を抱かないよう緊張関係を表面化させな いことが重要であった。
回答(バーネマン)
ベンチャー企業の候補については、技術が複数の市場で複数 の製品の基盤となるものであれば、ベンチャー企業に適して いるといえる。米国で成功したベンチャー企業の多くは応用 科学ではなく基礎科学の分野での発見から出発している。
回答(クック)
オックスフォード大学の場合、ノウハウのみで技術をライセ ンスすることは困難であった。スピンアウトは技術が開発さ れライセンスできるまでの短期間、企業内で技術を用いる有 効な方法である。
回答(バーネマン)
ペンシルベニア大学のTLOは起業時に現金投資を行っていな い。また、ベンチャー企業経営への教授陣の関与は認められ ていない。
回答(クック)
教授陣が経営に関与しないことは重要な点であると思う。
質問(西澤)
技術移転をする上で既存企業とベンチャー企業との違いは。
回答(バーネマン)
技術が既存のマーケットの枠組みに入るのであれば、その分 野で確立された企業に移転するのが適切。基礎的な分野であ るならば、ベンチャー企業の設立がよい。
回答(クック)
大学は資金を提供することができないため、ベンチャー企業 で商業化するには資金確保が大切である。35社がスピンアウ トしたが、資金がなく、企業が続かなかったというケースが 実際にある。
質問(西澤)
上海交通大学は200社のスピンアウト企業を創出しているが、
丁氏はベンチャー企業への技術移転についてどのようにお考 えか。
回答(丁)
技術受け入れのノウハウがあれば、ベンチャー企業への技術 移転を行う。ただし、大学からの投資は行わない。利益配分 としては、6割は教授、2割は技術移転センター等の中間機関、
残りの2割は大学に配分される。スピンアウトの際に最も大 きな問題となるのが企業の経営権限の所属であり、運営管理 と財務の双方に明るい人材がさらに必要である。
質問(西澤)
人材問題に関連して、TLOではどのようなプロフェッショナ ルを育成しているのか。
回答(バーネマン)
人材の育成は大学で行っている。ペンシルベニア大学では、
博士号を持つ若く有能な人材と技術移転経験者のマッチング も行っている。
回答(クック)
問題は、企業から引き抜かれた人材が大学の機能を十分理解 していない点にある。
回答(丁)
ビジネス経験が豊富な人材ほど利益追求の意欲が強い、とい うのが中国の特徴といえよう。
質問(西澤)
特別な教育プログラムはあるのか。
回答(丁)
創業化促進のための短期経営者育成コースがある。
質問(会場:参加者)
技術移転の成功の鍵を握る研究開発環境の整備をどのように