秋元
本セッションではバイオテクノロジーの分野における先端技 術分野での知的財産の現状―特に権利保護と流通活用―につ いて議論を行う。
西尾
日本の研究開発費をITとライフサイエンスで比較するならば、
産業界の研究開発費の占める割合が決定的に異なることが明 らかとなる。日本政府はバイオテクノロジーを最重要技術の 一つに位置づけており、大学や公的研究機関におけるライフ サイエンスの研究開発費は増加している。医薬品産業におけ る研究開発費に占める外部支出については、国立大学・公的 研究機関、特殊法人、民間、海外への支出が数十億円規模で なされており、その中でも特に海外への支出が大きく占める ほか、大学・公的研究機関への外部支出費が増加している。
大学・公的研究機関と産業界の主な連携方法には組織単位で の契約である研究契約があり、いわゆる共同研究や受託研究 がこれにあたる。組織単位での契約にはさらに寄付(寄附講 座、研究部門の設立)、技術ライセンシングなどもある。連 携方法としてはさらに、大学等発ベンチャーとの連携(研究 契約(委託研究)や技術ライセンス)や教員・研究者との連 携(教員が役員やコンサルタントを兼任)がある。
国立大学と民間との共同研究件数は、バイオ分野で増加して おり、平成13年にはバイオが材料を上回りトップに上り出た。
寄附講座・研究部門が多く設立されていることが医薬品の大 きな特徴である。大学での研究が製薬メーカのニーズにマッ チしてないために、寄附講座・研究部門の設立を通した連携 が増加しており、ドナーが成果を100%取得できているわけ ではないが、情報をすばやく得ることができるという意味で はこの連携は有意義と思われる。
国内には300社近いバイオ企業が存在するといわれている。バ イオ企業と医薬品企業の連携の実例を紹介(例:アンジェス エムジー(大阪大学)と第一製薬/生化学工業。医薬品分子 設計研究所と日本IBM等)。
重要なシーズを提供する研究者がどの程度発明に関与してい るかを調べてみたところ、2001年10月〜2002年3月の期間、
バイオ企業で役員兼業している教官32名のうち発明をしてい
ない教官の数は8名、発明を行った教官でも発明件数は多く とも10件であった。出願の4分の3は企業―多くは製薬メー カ―によってなされており、発明者自身が出願しているのは 全体の4%であった。1990〜2001年に設立された独立系バイ オ企業133社を対象に特許出願調査を行った結果、同期間中 76社から402件の出願がなされていたことが明らかとなった。
連携の推進にあたっては、大学との連携において国立大学の 法人化を視野に新しい特許・技術移転ポリシーからどのよう な影響を受けるかに留意すべきである。さらに大学発バイオ 企業との連携においては、大学の発明の取り扱いに関する従 来の慣習を克服しない限りは強い権利の構築は難しいといえ よう。
ジンドリック
アムジェンは世界最大のバイオ企業で、2003年の収益は80億 ドルに昇る。アムジェンは基礎研究への予算配分は行わず、
収益を生み出し、研究取り組みを評価し、専門性を高め、リ スクを分散させることができるライセンスやパートナーシッ プの締結に注力している。最近の連携の一例としては、NPS、
NIH、Biovitrum、Tularikなどとの共同研究開発がある。
アムジェンはライセンス契約の締結を重視しており、社内に はライセンスを専門に扱う経験豊かなチームを抱えている。
ライセンス契約が成功裏に結ばれるためには、契約の成果や 目的についてパートナー企業と共通の理解を持つことが重要 となる。アムジェンの標準的な製品基準は、よく吟味された 目標、優れた知的財産権、患者の容態改善の可能性などがあ る。
アムジェンはライセンシングのチャンスをみつけ出し、契約 がアムジェンにとって戦略的意味を持つものか否かを決定す るために各段階でのレビューを実施している。リスク要因は さまざまであるが、確固とした知的財産ポートフォリオの有 無が決定を左右する。
アムジェンは徹底的に知的財産権を活用しているとの評価を 得ている(TKT/Aventisによるエリスロポエチン特許侵害訴 訟事例を紹介)。
パートナー企業選定にあたっては、製品を市場に流通させる
[B6]
ことができる企業に絞って選定すべきである。さらに相手企 業のリスク耐性や財務能力の評価をしてから提携を行うこと としている。契約を締結した後には信頼醸成が重要となる。
明確な共通のビジョンを持つことにより最善の関係を構築す ることができよう。
春名
リサーチツール特許とは遺伝子や発現プロモーター、遺伝子 発現系などがあり、クレーム例としては「ある生理活性を阻 害する物質をスクリーニングするために、X受容体蛋白質を 使用する方法」がある。ここでいうX受容体蛋白質がリサー チツールにあたるわけである。
リサーチツールの特徴としては、汎用性が高い、研究初期段 階で一過性に使用される、代替性が低いため特許侵害を回避 する別手段の創出が困難である点があげられる。
特許権者側からみたリサーチツール特許の問題点は、特許成 立時点ですでに特許が実施済みであるので差止め請求は不可 能である、特許侵害による損害額の算定が困難で、特許侵害 者の発見が困難である、などの点である。第三者側からみた 問題点は、将来の製品の売上額に基づく多額な実施料を請求 されるおそれがあるので契約を締結しにくい、特許権者が競 合他社の場合、ライセンスを拒否されるおそれがある、など があげられる。これらの問題はともに特許流通に妨害となり、
医薬品開発の支障となっている。
これらの問題の解決策としては、権利行使を制限し(特許法 69条規定に基づき特許権の効力が及ばない範囲を設定し差止 請求権の行使を不可にさせる)、特許ライセンスシステムを 構築することがある。このライセンスシステムへの加入者は 特許を登録しライセンスの対象を開示することとする。シス テム加入者に対しては差止め請求権が行使されず、適切な実 施料でライセンスを付与することにより問題は解決できるで あろう。さらに、強制力を持つ新調停・仲裁委員会を設置す る、早期権利化の促進(リサーチツールについても早期審査 制度を適応する)、強制実施権(特許法92条)を復権するこ となども解決策として考えられる。
質疑応答
質問(秋元)
アライアンスや製品開発の際、リサーチ段階で(製品自体に 直接関与するのではない)障害となる特許があった場合どの ように対応していくのか。実施許諾を得られない場合どのよ うにするのか。
回答(西尾)
問題は基本的に当事者間(特許権者と特許使用者)で解決す べき。特許制度は他産業とのハーモナイゼーションを確保す るために存在するのである。
回答(ジンドリック)
リサーチツール特許については、初期段階で特許の有効性を 検討し、有効である場合は、特許権者にライセンスを求める。
基本的リサーチツールについてはできるだけライセンス料を 抑え一括支払いとすることとしている。
質問(会場:参加者)
リサーチツール特許は大学からでてくるが、特許出願にかか るコストを考えるとき、特許の出願につき迷う場合がある。
どのような分野での特許が必要とお考えか。
回答(秋元)
バイオテクノロジーや細胞融合の分野についてご回答頂きた い。
回答(西尾)
大学の予算と技術の重要性に基づき判断する。
回答(ジンドリック)
一つの技術で大きく前進することがないのであれば、リサー チツール特許に実施許諾料を期待すべきではない。バイオ企 業が資源を活用するのには次のような目的がある。つまり、
研究を推進させ、収益を向上させ、患者の命を救うためであ る。
回答(春名)
出願の価値があるリサーチツール特許は、その市場規模や技 術力に鑑み米国に出願すべきであると思う。
質問(会場:参加者)
情報交換は同じ言語の者同士でも難しいと思うが、交渉相手 との間に言葉の壁が存在する場合、これをどのように乗り越 えているのか。
回答(ジンドリック)
守秘義務のない情報には治療様式などが含まれる。
質問(会場:参加者)
欧米社会は日本社会に比べ公私の付き合いを明確にわけるよ うに思われるが、ビジネスだけの付き合いで情報を十分交換 することは難しいのではないか。
回答(ジンドリック)
米国での情報交換はライセンス担当部門を通してよりフォー マルなかたちで行われる。誤解を避けるため、電話やファッ クスでのやり取りは行わないこととしている。
質問(会場:参加者)
共通のビジョンについて、公的機関同士の情報の交換と、そ こに民間企業がはいった場合では、情報の扱われ方も異なる と思うのだが、この点についてご意見を伺いたい。