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三菱商事株式会社 代表取締役社長

あるかと思います。

一方、1990年代のいわゆる「失われた10年」の間に、日本 はその国際競争力まで失ったといわれています。この背景に は、日本の高コスト構造、ASEAN・中国の台頭、さらに は円高による輸出競争力低下が挙げられると思います。21世 紀に入りまして、ユーロ誕生による欧州の市場統合、中国の WTO加盟、2国間、地域間の自由貿易協定の世界的な広が り等、日本を巡る国際情勢は大きく変化しています。言い換 えれば、日本は現在グローバリゼーションの大きな波にさら されているわけですが、国内経済はといえば、長引くデフレ と不良債権問題で未曾有の不況にあえいできました。ようや く昨年後半、景気に回復の兆しが見え始めたとはいえ、いま だに経済は米国やアジア、中国等の外国頼みであり、本格的 な回復にはなお時間を要するものと見られています。

このような環境の変化に対しまして、日本企業はどのよう に対応すればよいのでしょうか。私は商社の人間ではありま すが、常々「21世紀の日本のコア・コンピタンスは高い技術 開発力であり、その技術力に裏打ちされたものづくりだ」と 言い続けてまいりました。技術開発力とは、言い換えれば日 本企業が長年培ってきた「知」の集積です。そして、この

「知」の集積は企業にとって貴重な無形資産であり、知的財 産として企業の競争力を支えるものであると考えています。

21世紀に日本が再び競争力を回復し、グローバルな競争に打 ち勝っていくには、この技術開発力をベースに、バイオやナ ノテク、次世代半導体、ディスプレー、LEDといった新し い分野で商品を開発し、市場を開拓し、価値を創造すること が重要であると思います。

日本政府も産業界と共通の認識と危機感を持ってバックア ップ体制を強化しています。政府は2001年、科学技術創造立 国に向けた具体的な注力分野を、ライフサイエンス、情報通 信、環境、ナノテクノロジーの4分野としました。そして現 在、第2期科学技術基本計画を推進中で、産学官の連携促進 などを中心に積極的な支援を行っていることは産業界として も非常に心強く感じています。

さらに2003年7月、政府の知的財産戦略本部は、知的財産 戦略推進計画を発表しました。そこには次のように明記され ていまして、政府自らが知的財産を今後の経済回復のかぎで あると認識していることがよく分かります。すなわち「特許 やノウハウ、映画、ゲームソフトなどのコンテンツといった 知的財産を国富の源泉として、これを最大限に活用する事に より、一刻も早い『知的財産立国』の実現を目指すことが、

我が国経済が持続的成長を続けていく上での喫緊の課題であ る」、このように述べています。言い換えれば、今後の日本 経済の回復には「科学技術」と「知的財産」の活用が不可欠

です。企業はこの大きな流れの中で、このように整備されつ つあるインフラも大いに活用することで自らの競争力を高め、

具体的な成果につなげていくことが何よりも必要であると考 えます。

私がお話ししたい第2の点は、「産学官の連携」について です。本日は、大学、企業の研究所の方々や官公庁関係の 方々も多数ご出席されていると聞いておりますが、21世紀の 技術開発、新しい産業の創出には産学官の連携が欠かせませ ん。私もこれからの日本が知的創造産業を創出していくため には、産業界の「技術」、「経験」、「資本」を大学などの「知」

と結びつける仕組み作りが極めて重要であると考えています。

皆さん「デスバレー」という言葉をお聞きになったことが あるかと思います。デスバレーとは米国カリフォルニア州の デスバレー「死の谷」のことですが、基礎研究から応用研究、

応用研究から実用化に移行する過程での資金不足により、高 い技術力を産業競争力に転化できない現象を指す言葉として、

1980年代に米国で使われ始め、最近では日本でもよく聞くよ うになりました。先端技術を応用した新しい産業の創出には、

産学官の連携による基礎研究の成果の早期実現が有効ですが、

20年以上前から産学官の連携促進に取り組んできた米国に比 べまして、我が国の取り組みはまだその緒に就いたばかりで す。さらに革新的研究成果の実用化において大きな役割が期 待される研究開発型ベンチャー企業の数が、我が国では絶対 的に不足しています。

では、このような状況をどうしたら克服できるのでしょう か。この問題を考えるに当たって、まず産学官連携における 欧米の現状を少しご説明したいと思います。

アメリカは1980年代から産学官の連携を中核に据えた強力 な知財戦略を推進し、見事に産業競争力を回復させたといわ れています。政府資金を使った研究開発成果を資金を得た大 学や企業が自らの特許として権利化することを認めた「バイ・

ドール法(Bayh-Dole Act)」は、民間への技術移転に大きな 成果を収めました。さらに特許は一般に公開して初めて経済 価値を生むものであり、そのかわりに権利として保護する必 要があるとの観点から特許公開の対価と位置づけ、特許に関 するルールを明確にしました。これら特許制度の改善により、

アメリカでは、大学が特許を取得したうえでライセンスを供 与することが可能となったわけです。また、いち早く大学教 授の兼業も認められました。この結果、アメリカの大学の特 許収入は現在年間10億ドルを超え、大学研究の性格を大きく 変えたといわれています。ちなみに日本でもこうした考え方 が徐々に取り入れられるようになりましたが、大学の特許収 入は年間で総額10億円にも達していないといわれています。

一方ヨーロッパですが、まずドイツでは、80年代に教育科 学省やドイツ科学会議が技術移転プログラム作成の中核を担 いましたが、実際には有効な施策が講じられるようなったの は90年代に入ってからです。これは89年のドイツ統一によっ て、旧東ドイツ地域の経済改革や高い失業率に対応する必要 が生じたことが背景にあるといわれています。ドイツでは公 務員である大学教員の兼業は、州または大学の許可を得れば 勤務時間の20%までは可能であり、収入を得ることも認めら れています。また、ドイツでは伝統的に産学の間の研究協力

が盛んで、工学系の教授には産業界出身者が多く、産業界の ニーズに合った研究が行われやすいという特徴があります。

フランスでは大企業の多くが国営であり、また文化的背景 もあって、ベンチャー意識も低く、アメリカ型のシステムの 導入は難しいという側面があります。このような状況を踏ま え、産学官の連携が「自発的」に起きるような「動機づけ」

を組み込んだ独自のシステム作りを進めています。1998年7 月には、フランス政府の科学技術に関する基本方針を決定し、

その年の10月には産学官の代表者からなる「国家科学審議会」

が設立され、「イノベーションと研究に関する法律」が国会 で成立するなど急速な展開を見せています。こうした流れの 中で産学官連携の具体的案件として、ナノテク・インキュベ ーション・センター・プロジェクトが立ち上がりました。こ のプロジェクトは、ナノテクを中心とした広範な領域の研究 開発を行う、産学官の国際研究拠点を構築するプロジェクト です。カーボン・ナノチューブ・デバイスなどの最先端のナ ノテクから、バイオチップや半導体、光技術などのマイクロ テクノロジーに至る広い範囲で、基礎研究から、応用研究、

企業化までを一貫して行う自前主義を特徴としています。

イギリスでは近年米国流の技術移転システムの導入を図り、

特に最近は国をあげてスピンオフ企業の形成に熱心です。イ ギリスにおける研究開発面での大学の位置づけは、国全体の 研究開発費の約20%を占め、公的研究機関としては最大の活 動セクターとなっています。研究開発資金面での特徴として は、デュアル・サポート・ファンディング(Dual  Support Funding)という、イギリスの伝統的な大学助成システムが あります。文字どおり二本立てになっているもので、大学の 研究開発の最大の資金ソースは、第1に高等研究基金であり、

第2に研究協議会となっています。高等研究基金は研究活動 に対する一般的なサポートを行う一方、研究協議会は特定研 究プロジェクトに対するサポートを行うという、相互に補完 する形のシステムになっています。また、大学に民間企業の 経営思想を積極的に取り入れる試みも実行されています。例 えば技術系大学の最高学府の一つであるロンドンのインペリ アルカレッジでは、その総長に世界的な大手製薬会社の一つ であるグラクソー・スミスクライン社の元会長を迎え入れて います。

以上、欧米の実例をご説明しましたが、産学官の連携とい っても、それぞれの国の歴史的・文化的背景を踏まえてシス テムを構築しないと、うまく機能しないということがお分か りいただけるかと思います。日本においても、やみくもにア メリカ流システムの導入を目指すのではなく、ベンチャーが 育ちにくいといわれる我が国の風土や土壌を考えれば、ドイ ツやフランスの例も大いに参考にすべきかと思います。

さて、我が国の状況ですが、2001年以降、総合科学技術会 議の方針のもと、内閣府が中心となって既存の省庁の壁を取 り払い、政府全体で強力かつ弾力的な予算措置、制度の見直 しを進めてきたことによりまして、ようやくその改善に向け た取り組みが見られるようになりました。

当社の例で申し上げますと、私どもは現在、大阪大学との 間でナノテクに関連する幾つかの共同研究プロジェクトを進 めています。この取り組みも、「阪大フロンティア機構」と

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