モデレーター
鮫島 正洋(松尾綜合法律事務所 弁護士・弁理士)
パネリスト
江崎 正啓(トヨタ自動車(株)知的財産部長)
アイラ・ブランバーグ(インテルコーポレーション 知的財産・ライセンシングディレクター)
アラン・フォスター(ノキア・ジャパン(株)特許部ダイレクター)
し、解析した情報を研究開発にフィードバックすることも重 要である。権利の取得に際しては、他者に優位な技術に集中 して権利取得を展開している。戦略的特許活動としては、ト ヨタは年間に数十の優れたテーマを設定し、資源を投入する ようにしている。さらに、他社が入り込めないような特許網 を形成し、開発成果の早期特許保護を実践している。トヨタ におけるパテントポートフォリオの一例であるが、NOx吸蔵 還元型触媒システムにおいては、全体で300件の特許を保有 しているが、このうち実際に活用しているのはそのうち3分 の1以下である。
権利を競争力に変えるには、自社の特許が他社に侵害されて いないかを確認する作業が必要となる。トヨタの保有特許は 1万件あるが、1万件すべてにつき侵害の確認を行うのでは なく、技術として使用されているのかという観点から個別の 特許の侵害状況を確認している(技術単位での確認活動)。
権利の活用について。ポートフォリオの強弱の比較を行い、
その差が圧倒的に強い場合から劣勢の場合で戦略も変わって くる。たとえば、圧倒的リードの場合はライセンスの拒否も 可能であるが、パテントポートフォリオが劣勢な場合は、ラ イセンスは事実上全数オープンとなる。
権利活用の形態は、権利の譲渡、技術供与、実施許諾、クロ スライセンス、提携(アライアンス)などさまざまである。
アライアンスの場合は、強者の連合に入るためのツールとし て知的財産が大きな意味を持つ。
質問(鮫島)
自動車業界には、包括的クロスライセンスがないと理解する が、それはどのような合理性があってのことなのか。今後、
電機業界との相乗りがある場合に、このライセンス戦略に変 わりはあると思われるか。
回答(江崎)
ない。自動車業界は基本的に自動車のみを製造するため、包 括的クロスライセンスの評価が行いにくい。将来的には、環 境・安全分野の技術については、同じような企業が包括的ク ロスライセンスを締結する可能性も想定できる。
ブランバーグ
本プレゼンでは、特許に関する企業の姿勢がどのように変化 してきたのか、知的財産悪用の危険性、共同開発における特 許の扱いについて発表を行うこととする。
特許の価値やその活用方法は業界により大きく異なる。この ことは、たとえば、バイオテクノロジー産業とコンピュータ /半導体産業を比べてみたときに、前者の場合は一つの製品 につき一つの特許を取得することで製品を保護することがで きるが、後者の場合は、一つの製品につき何千もの特許がか らんでおり、製造から販売にいたる特許は多岐にわたる。
企業の特許評価とその戦略は、1)無関心、2)万能策とし ての特許、3)自衛策としての特許、4)ロイヤリティ収入 の獲得、5)相乗作用の活用、の五つに段階分けすることが できる。
第一段階:「無関心」。起業したての企業は製品化に注力し 特許に割く時間も金銭的余裕もない。秘密情報を弁理士を通 して書面で政府に報告するよりは、情報を開示することなく してビジネスを展開したいと考える。
第二段階:「万能策としての特許」。設立したての企業には 信用力が不足するため、投資家・顧客に対して会社の信頼性 をアピールするためのツールとして特許を活用する。この段 階において企業は、製品の特徴となる部分について特許を取 得する戦略を策定する。
第三段階:「自己防衛策としての特許」。この段階にみられ る戦略は大企業からライセンス料支払いの要求を受けた小企 業に多くみられるが、大きな特許ポートフォリオを取引の武 器とするスマートな小企業もある。クロスライセンシングを 提案することで自己防衛を行い多額のロイヤリティを支払う リスクを回避する企業もある。
第四段階:「ロイヤリティ収入の取得」。または投資の回収。
IBMはポートフォリオにある特許を合理的なロイヤリティの ために提供する準備があるとしている。ロイヤリティ収入の モデルは製品販売を行う企業ではうまく機能しない場合もあ る。IBMは製品販売とロイヤリティ収入回収という二つの事 業を実施しているが、ロイヤリティ回収の際には顧客やサプ ライヤとの衝突が発生している。
第五段階:「相乗作用の活用」。製品販売と製品のライセン シングは相反する行為であるが、ここではそのような矛盾点 の解決が図られる。「エネイブリング(enabling=可能にさせ る、実現させる)」というのは、技術を必要とする会社に技 術を応用する機会を与えることをさす。これにより顧客との 関係をゆがめることなく、相互にウィンウィンの関係を維持 させることができる。
次に知的財産活用の危機に話を移す。企業の多くは知的財産
活用の経験に乏しいため、過ちを犯しがちである。たとえば、
知的財産の活用については、多くのコンサルタントは企業の 特許ポートフォリオを見てロイヤリティの活用を提案するで あろう。しかし多くのコンサルタント、弁護士、会計士は時 給ベース(成果ベースではなく)で特許関連サービスを提供 しているため実際に外部のコンサルタントを活用するのは非 経済的である。
また、社内から知的財産活用のプレッシャーがかかり、全体 像がつかめないうちに、そして目標が不明確なまま行動に走 ってしまう場合もある。これは避けるべき状況で、知的財産 活用においては、十分な時間をかけて目標を設定することが 重要である。
製品販売を目的とするビジネス支援型アプローチの場合には 特に知的財産部と営業部が十分に情報共有を行うべきであり、
潜在的ライセンシーにアプローチする際には最初に発信する メッセージやコミュニケーションがその後の交渉の鍵を握る。
たとえば、ライセンスのエネイブリングを目指す場合、弁護 士から相手方企業にアプローチを行うならば、アプローチを 受けた側の態度を硬化させる危険性がある(「弁護士=訴訟」
と誤って連想)。通常、アプローチをする最善の人物は技術 部のビジネスマネージャーで法務部への連絡は避けるべきで ある。
教訓としては、すべてのポートフォリオと知的財産について 完全な戦略のマッピングが求められる。ターゲットを十分に 調査して顧客が真に当該技術を必要としているのかを正確に 把握する必要がある。適切なメッセンジャーにより適切なメ ッセージを伝えることも重要である。
共同開発における特許は従来、共同所有である。特許を共同 所有するというのは、他の所有者の許可を得ることなくライ センスにかけることができることを意味し、これはクロスラ イセンスのターゲットとなることをも意味する。つまり、自 社がライセンスを行いたくない競合他社にも自動的にライセ ンスが供与される可能性が生まれることとなり、このような 理由で共同開発においては特許の所有を分離させることが合 理的であると考える。
フォスター
ノキアの特許部は研究開発部と緊密な連携をとり活動を展開 している。研究開発部から特許エンジニアを募集することで 研究開発に関する認識や理解が特許部に形成させることとな る。ノキアの特許エンジニアの役割は、発明を発見し、文書 化し、特許委員会に協議を促すことである。
ノキアでは、特許申請件数の増加により特許作業が増大し、
これに伴いライセンシングの数も増えている。さらに、特許 の可能範囲や対象範囲も拡大している。このような状況を背 景にデジタルの統廃合(一つの携帯電話に電話、メールなど さまざまな機能・技術が集約)がノキアの目下の課題となっ
ている。
従来のパラダイムでは、ロイヤリティは市場により決定され、
各発明品につき1〜5%のロイヤリティがかけられていたが、
新しいパラダイムでは、数百の発明それぞれに特許がかけら れており、従来の方法でロイヤリティを支払うということは 非現実的となっている。よって、ロイヤリティの支払いにつ いては一括払いや最大支払額を決定した上での支払いが現在 のビジネスに適合しているといえよう。
携帯電話ビジネスにおいては必須特許が重要となる。携帯電 話が欧州で成功を収めた背景には各プレーヤー(政府、民間 事業者等)がローミングなどの分野において標準規格を採用 したことにある。これにより特許権者が自分(自社)の特許 を独占することが不可能となった。
ノキアの必須特許の数は、海外携帯電話(GSM)で400、さ らに30の異なる特許権者が存在する。WDCMA技術の場合 は、1400の必須特許に40の特許権者が存在する。
F R A N D ラ イ セ ン シ ン グ ( F R A N D ム F a i r ( 公 正 )、
Reasonable(妥当)And Non-Discriminatory(無差別))に ついて。FRANDの定義は各企業により異なり、各企業が必 須特許における「必須」という概念について共通の認識を持 つ必要がある。
質問(鮫島)
日本の産業競争力の評価が落ちる中、日本は知的財産の活用 を通じた競争力の強化を図っているわけであるが、そのよう な日本企業の動きは欧米にどのように映るのか。
回答(ブランバーグ)
日本は特に、家電、エレクトロニクス、半導体などの分野に おいて非常に高い競争力を保有している。知的財産の活用に ついてはさらなる発展がもとめられる。日本の大企業はクロ スライセンスの締結に消極的であるとの印象を持つ。事業部 門がクロスライセンスに関与することに社内的コンセンサス が得られていないことが課題であるのではないか。
回答(フォスター)
ノキアが90年代半ばから成長した背景には、知的財産権強化 ではなくそのほかの成長要因があった。その後、成長が一定 規模に達した段階で、自衛策に徹し特許ポートフォリオを活 用するようになった。現在の日本の大企業も同様の状況にあ ると思う。知的財産は日本の競争力向上に貢献するであろう。
質問(鮫島)
今後日本企業は特許をどのように企業戦略として位置づけて いくべきとお考えか江崎氏にご意見をいただきたい。
回答(江崎)
知的財産についての日本企業の理解は欧米企業以上に高まっ
ており、これが日本企業の強みであろう。そういった意味で、
ポートフォリオの形成においては、日本企業の方が優位な立 場にあるのではないかと考える。
(セッションB1終了)