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「企業のリスクマネジメント―係争回避手段としてのライセンシング」

中野

知的財産の訴訟を企業のリスクとして捉えるならば、これを 回避するための手段としてライセンスがあげられる。本セッ ションにおいては、ライセンス交渉を有効に行うための方法 について活発な議論をいただければと思う。

鈴木

日本における特許訴訟について。立法分野における知的財産 への取り組みとして、知的財産戦略本部が内閣府に設立され、

「知的財産の創造、保護および活用」について活発な議論が 行われている。

司法分野における取り組みとしては、知的財産の紛争処理能 力を強化すべく「知的財産高等裁判所」の設立が検討されて いる。民事・刑事とならんで知的財産を独立して扱う方向に ある。

行政分野における取り組みとしては、特許庁は産業の空洞化 に類似した特許の空洞化現象に強い懸念を持ち審査の迅速化 を図っている。これには、企業リスクを低減するという観点 からも強い期待がもたれている。

このように日本では、立法・司法・行政の三分野で知的財産 分野への取り組みが進められているが、その中でも注目すべ きは、キルビー特許最高裁判決において、特許侵害と特許無 効の紛争の一回解決が認められるようになった点である。こ の判決が下るまで過去百年にわたり特許の有効無効の審査は 特許庁が独占的に行っていたため、裁判所が下したこのよう な決定に対し関係者の間に驚きが走った。

半導体分野の特許ライセンスについては、1)50年にわたる 特許ライセンスの歴史を有し、2)さまざまな技術が複雑に 交錯し、完全な特許の独占が不可能である、という特徴があ る。

交渉が難航する原因については、技術的複雑さに加えて、半 導体企業がグローバル企業であり、各企業が数千から数万の 特許を有し、数千億円規模での年間売り上げがあり、特許侵 害を確認するには、ミクロンレベルでの製品解析が求められ ることなどがあげられる。加えて文化と言語、法律の違いが 壁ともなっている。

このような困難な交渉に対応できるライセンス交渉の方法は 次の三つの通り。1)双方から、合意した同数の特許を提示 し、各特許の侵害と有効性につき、製品別・国別に、時間を かけて徹底的に議論する型。2)先行する他社の交渉結果を 尊重し、知的財産部門等のリソースの無駄な使用を避け、責 任者が結論だけを議論する型。3)両者の中間的プロセスを 模索する型。

交渉をスムーズに進めるための処方箋としては、複数の基幹 特許を複数の国で権利化することがある。さらに、自社特許 の有効性を予め確保しておくことも重要。相手の侵害事実を 明確に立証すること、相手の特許を適切に評価することが重 要であり、各国特許法と訴訟法を熟知する必要もある。

人材については、リスクを回避する上で両者にとってプラス となる成果を生み出すには、正確な技術論のできる人材、的 確な法律論のできる人材、信頼できる情報を収集できる人材、

社内の関連事業部門に信頼され、衝突回避のため相手にも信 頼される人材を育成する必要がある。さらに、特許交渉のチ ームには決断の権限を持つ最終責任者が求められる。

イエーガー

知的財産の価値の増加について。ブルッキングズ社が行った 調査によると、S&P企業の資産として無形資産は増加、現在 はフォーチュン500社の資産の87%を占めるまでになってい る。米国のライセンス収入は1500億ドル相当であり、ライセ ンスはされておらず、実施料支払いのない侵害品の売り上げ 高は3000億ドル相当にのぼる。過去20年間の特許出願件数は、

年間10万件から年間35万件と三倍以上の伸びを示し、過去20 年間に付与された特許の数も年間6万件から年間17万件へと 拡大している。米国においては特許保有者のトップ20のうち 7社を日本企業が占め、2002年には米国特許の20%は日本企 業に付与された。このような点から知的財産の重要性が日本 においても増大していることが伺える。

特許訴訟は、事業戦略の延長線上にあり、企業の目的を達成 するための唯一の手段である場合もある。しかし、訴訟には 莫大な実質費用がかかるほかに、マネージメントの時間とい った目に見えない資産が失われることにもなる。米国で訴訟 に持ち込む場合、弁理士等の費用で平均100万〜300万ドルか かり、審理が終了するには2〜3年の年月がかかる。このた

[B2]

め米国では特許訴訟の75%は審理の前に解決されているが、

それまでには膨大な量の書類化作業や経費が発生しているた め、訴訟の際にはそのリスクとリターンを慎重に考慮すべき である。

ライセンス供与の利点は、リスクやコストを減少し、知的財 産の活用をコントロールすることができ、長期にわたっての 双方のメリットを確保でき、その結果知的財産を有効に活用 することができる、という点などがある。

(事例紹介)インディアナ州のランズバーグという小企業が 60年代に塗料の大幅な節約を可能とするスプレー式静電塗装 の技術を開発したがGMやフォードといった大企業が特許を 侵害するかたちで技術の活用を行っていたため、ランズバー グは大企業を相手取り、全米で12の訴訟を、さらに海外で12 の訴訟を起こし特許価値の最大化を図った。国内の訴訟では 最高裁にまで持ち込まれたものもあったが、三年間にわたる 係争の結果、すべてのケースにおいて特許有効、侵害ありと の判決が下された。この訴訟により特許のライセンスプログ ラムが策定され、ランズバーグは非排他的ライセンスを供与、

さまざまな業界の企業が同社の発明を活用することが可能と なった。一枚半のライセンス契約書により頭金の一括払いと ランニングロイヤリティの支払いが要求され、ロイヤリティ は塗料対象により塗装料の10〜50%と異なった。

韓国での特許出願は増加し、年間30万件近い特許申請が行わ れている。裁判所での侵害訴訟の数も増加している。特許訴 訟の処理期間は半年から一年となっている。

特許侵害解決の方法は、特許訴訟とライセンス契約がある。

特許訴訟の場合は、警告状を送付して、回答によって侵害訴 訟を決定する。ライセンス契約の場合は、ロイヤリティが目 的のため、警告状ではなく通知書を送付してから協議するか たちをとっている。韓国企業同士の場合は、特許訴訟件数が 多く、対外国企業の場合は、ライセンス契約件数が多くなる 傾向にある。

事例1)日本企業と韓国企業とのライセンス契約の成功例。

日本企業が特許権者として韓国企業に対し通知書により、自 社の特許権の使用について確認を要請。韓国企業は協議に応 じた。

事例2)商標権者たる日本企業が韓国小企業に対し商標使用 禁止を要請した事例。韓国で多数の小企業が文具類を生産し ながら日本企業の商標を使用していることが調査され、侵害 が確認された一社に警告状を送付、商標使用禁止を要請した。

韓国企業は使用権設定を懇請したが、日本企業は再度禁止を 要請。その間、韓国企業は継続的に侵害をし続ける。結局一 社に対し通常使用権を設定し、使用権者より韓国での他の侵 害者の情報等を得ることができるという効果を得ることがで きた。

事例3)韓国駐在日本企業が韓国の個人の実用新案権者より 警告状を受け取った事例。韓国の個人が実用新案権を保有し、

この個人より直接警告状を受け取る。日本企業は、実用新案 権は公知技術と判断し、交渉しないことを決定。

ライセンス交渉が難航した原因としては、1)相手企業と特 許権以外のほかのビジネス関係にあった(上記事例1)、2)

自国と相手国の特許内容が相違する場合があった、3)個人 との交渉の場合、個人の知識不足が問題となった(上記事例 3)、4)侵害者が多数であった(上記事例2)、4)侵害品 との価格差が非常に大きかった、6)相手側の代理人との意 見の差が大きかった、7)協議期間が長すぎたことなどがあ げられる。

これに対する対策としては、1)ライセンス契約は総合的に 判断する必要がある(ロイヤリティも重要であるが、ビジネ ス関係も視野に入れた上でロイヤリティを決定すべき)、2)

海外特許は自国内でも同一権利として維持する必要がある、

3)相手が個人である場合の交渉は代理人をつけるよう誘導 し、4)相手国における特許・訴訟等制度を研究し、5)交 渉時には最終決定を留保し、6)侵害者も特許権を持ってい るという点を考慮して、7)好意的かつ円満な人間関係を維 持すること、があげられる。

質疑応答

質問(イエーガー)

日本の訴訟の賠償金額はどのようなかたちで決定されるのか。

回答(鈴木)

民事訴訟法も改正され流動的であるため決定的方法はないが、

半導体分野においては、特許のカバーする範囲、特許を回避 する困難性、特許が半導体を製造するうえでどの程度重要で あるのかという点を考慮しながら決定される。

質問(崔)

日本の大手電子メーカーは、一つの会社が新製品を販売すれ ば、それに引き続きすぐに他社も同様の製品の販売に取り掛 かるようであるが、これは特許侵害にはあたらないのか。

回答(鈴木)

半導体分野においては、非常に多くの企業でクロスライセン スが成立しているので、他社が同一の製品をつくったからと いって特許侵害にあたるとは限らない。ライセンスの見直し は定期的に行われ、その際に特許侵害についての検討が行わ れる。しかし、実際は相互の利益のため権利の主張を行わな い場合が多い。

質問(中野)

先行交渉の内容を尊重するとのことであったが、機械関係の 場合は、先行交渉をあまり信頼しない傾向にあるが、先行交 渉を重視することはよくあるのか。

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