モデレーター
平井 昭光(レックスウェル法律特許事務所 代表、弁護士、弁理士)
パネリスト
渡部 俊也(東京大学先端科学技術研究センター 教授)
北尾 善一(オムロン(株)知的財産部企画グループマネージャー)
山田 晃(関西TLO(株)技術移転事業部長)
ハインツ・ゴダー(ベーメルトアンドベーメルト パートナー、欧州特許弁護士)
熊谷 健一(九州大学大学院法学研究院 教授)
る必要がある。しかし、商業化は念頭におかず、純粋に競合 他社との競争のみを追及する場合には発明に期待することは できないときもある。
研究者のインセンティブについては二つの観点からみること ができる。一つは特許法第35条との関連で、企業に雇用され たエンジニアと個人発明家の賃金には格差が生じている。諸 外国と比べても発明に対する日本企業報酬は非常に高いもの の、特に秀でた発明につきその報酬をどうするのかについて は未解決の部分が残っている。科学分野での発明にはより高 い報酬が提供される傾向があるようだ。
研究者の流動性と終身雇用制度の終焉は日本が直面する別の 問題である。これまで終身雇用制度は発明を促進させる手段 として有効に機能してきたが、現在の日本には労働の流動性 に向けた不可逆的な動きが見られる。
これからの日本では、発明システムにおける多様性と流動性 の許容が重要となってくるだろう。職務発明制度を改正する 必要があり、研究者の処遇についてのさらなる議論も必要で あろう。これらの問題については現在、産業構造審議会で議 論されているところである。今後は経営資源や発明を最大限 に活用し、あらゆる発明についてその報酬やインセンティブ にかかる問題を解決することがますます重要となるであろう。
北尾
本ワークショップの参加者の6割は企業関係者と伺っている。
よって開発プロセスやライセンスプロセスから回収できる補 償に関する参加者の理解は高いものであると認識する。
職務発明に関して知的財産研究所が行ったアンケートによる と、職務発明にかかる権利について大企業の93%、中小企業 の57%が使用者への帰属を認めており、企業の規模が小さく なるにつれてこの数値も減少した。発明に対する報奨金で生 産高、売上高、ロイヤルティ収入などの実績が有った場合の 実績報償金の支払金額は大企業の74%が実績報奨金の支払い 実績があるとしているのに対し、中小企業の80%は支払いの 実績がないことが明らかとなった。
企業の発明報奨制度は次の三つに大別できる。1) 業績連動で 高額な実績報奨金を支払うタイプ。2) 業績ランクによって報 奨金を決めるタイプ。3) 金銭以外のインセンティブで対応す るタイプ。多くの企業は現在、報酬スキームの見直しを行っ ているが、いずれの場合もこれら三つのタイプが基本となっ ている。三番目のタイプの一例としては、3Mのデュアル・ラ ダー制度が挙げられる。
研究者にとって、金銭的報酬は一時的なインセンティブには なっても本質的なインセンティブになりにくい。研究者は社 会貢献や自己実現に対し強い欲求を持っており、そのような 欲求が研究の原動力となっている。
発明者への報酬については、現在いくつかの訴訟が提起され ているが、これまで下された判決は特許法第35条の影響から か一貫性のないものである。これらの訴訟においては、「会 社が受けるべき利益」や「会社が発明に寄与した程度」など が係争の的となっている。
産業競争力の観点からの問題としては、企業活動の多様化に 伴う紛争の増加、特許法第35条が産業競争力の弱体化につな がっていることなどがあげられる。理想的な特許法第35条と は、発明者の地位を法律で保証することである。
また国際的産業競争力強化の観点からは、発明のインセンテ ィブに関する法規制やその競争力について絶えず状況をチェ ックしその時代に適した制度とすべく適宜見直しを実施する ことが重要である。
山田
大学における発明の帰属について問題を提起する。「相当の 対価」が民間企業において大きな問題となっているのと同様 に、大学では「発明の帰属」が主要な問題となっている。特 別な予算枠で行われた発明を除き、大学での知的財産の85% は研究者個人に属し、残りの15%が国の帰属となっている。
よって、知的財産権の個人帰属から機関帰属への転換が問題 となる。大学の社会への貢献は最近注目を浴びており、大学 が知的財産の保護・管理を行いながら、これを活用すること が求められている。教員の知的財産権については原則、機関 帰属とすべきであるが、その際には大学の知的財産所有に関 する具体的規定を整備する必要がある。
個人帰属から機関帰属への転換によるメリットには、研究活 動の成果に対する説明責任が果たせること、技術移転におけ る透明度が増すこと、権利関係が明確になること、技術移転 の幅が広がること、収益等に寄与できることなどが含まれる。
この転換により大学は特に収益面で大きなメリットを享受す るであろう。
個人帰属から機関帰属への転換に対して大学が直面するデメ リットには、知的財産にかかる当事者になることに伴う諸問 題への対応が発生すること、バニティー・パテントの増加へ
の懸念などが含まれる。また企業が直面するデメリットには、
大学との共同所有の特許について自由度が制限されること、
非排他的実施権が規範となれば知的財産の独占が難しくなる ことなどがある。またTLOが直面するデメリットとしては技 術移転活動を制約する可能性があることである。
ゴダー
ドイツの職務発明法の現在と将来の課題についてについてご 紹介するので、日本の参考にしていただければと思う。ドイ ツでは、毎年10万件の技術発明がなされ(90%は職務発明)
このうち0.3%にあたる約300件が仲裁の対象として持ち出さ れているが、このうち訴訟審理に持ち込まれたのは30件程度 である。このことからも、ドイツの仲裁システムは豊富な経 験を蓄積しており効果的に機能していることがお分かりいた だけよう。知的財産関連の規定について国内法とEU各国の法 律との整合性をいかに確保させるかという課題があるが、EU 側がドイツに歩み寄っているというのが現状といえよう。
ドイツには日本の特許法第35条に類似した規定は存在せず、
知的財産は個人が所有するものであるというのが基本的スタ ンスとなっている。技術発明のみが法の対象となっており、
その他の発明については雇用者と被雇用者の間の取り決めに より規定されることとなっている。大学の学生の場合は被雇 用者とはみなされていないため、他の組織に発明を売ること が認められている。
従業員が発明を行った場合、発明は従業員の帰属となるが、
その使用を使用者に通知しなければならない。企業は従業員 がその発明の所有を望んでいるのかを確認し、従業員が無制 限の発明の所有権請求を行った後、4ヶ月の期間を経て発明 は自由発明となり、従業員の単独所有権となる。使用者が所 有権を獲得した場合は、使用者に発明保護の義務が課せられ ると同時に発明への報酬を支払う義務も発生する。報酬は通 常、ライセンスの種類、ロイヤリティの金額、シェア、売り 上げの一部などを用いて計算される。
権利所属の正式な請求が不要となるような法改正が将来期待 されている。さらに、現在の複雑な支払い計算方法を通して ではなく、発明者に対して一括で報酬を支払うことができる ようになる予定である。これらの試みにより、知的財産に関 するドイツの法律は簡素化されることであろう。
熊谷
日本では現在産業構造審議会が職務発明制度の改定問題につ いて話し合っており、同制度の改定に向けた取り組みが進め られている。特許法第35条が提示する難題の一つに権利の予 約継承(第35条2項の規定を維持し、使用者等への予約承継 を容認する)の問題がある。
対価の決定については、対価の決定が使用者等と従業員との 立場の相違にかんがみて不合理でなければ、その対価を尊重 するべきである。決定が不合理な場合は、従業員等に相当の