第 4 章 学習指導要領から見た中国の日本語作文教育の問題点
4.4 考察
4.4.1 資料分析を通じて見えたこと
趙・林(2011:69)は教育理念の変遷を3点にまとめている。
1. 教育目的は基本技能の習得から実用技能に移った。
2. 教育内容は言語知識の導入から異文化理解へと変わった。
3. 教育モデルは学術から一般能力へと移行した。
本研究では、基礎段階と高学年段階の『教育要綱』の内容を概観し、日本語作文教育の 理念が表現力や言語運用能力を重視していることがわかった。その分析結果をまとめると、
以下のようになる。
①大島(2010:26)によれば、「表現力」には、漢字・文法・表記などの言語知識に関す る狭義の日本語力と、書く内容を取捨選択し文章を構成し、読み手や文章ジャンルの 特徴に合わせて表現する広義の日本語力がある。基礎段階の『教育要綱』では狭義の 日本語力を重視するのに対し、高学年段階の『教育要綱』では広義の「表現力」に重 点を置いている。
②趙・林(2011:69)は、「専攻日本語教育の学習指導要領は発行当時のニーズを反映し ているが、国際的な流れや指導要領の特徴に関する反映という面で停滞しているよう
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だ」と指摘している。本研究は、基礎段階の『教育要綱』でも、高学年段階の『教育 要綱』でも、「協働性」の育成の理念や指導方法において不足があることがわかった。
4.4.2 中国での日本語作文教育における問題点
インタビューデータを通じて、中国における日本語作文教育の実情と問題点が見えてく る。
学習指導要領と当時の日本語作文授業に出席していた学習者へのインタビュー内容を分 析することによって、学習指導要領に規定された教育目的、すなわち基礎段階の「『聞く・
話す・読む・書く』という基本的な技能を訓練する」、高学年段階の「学生に日本語の独特 の表現方法を習得させなければならない」「学生が自分の作文を修正でき、辞書類や他の参 考書を利用でき、他人の文章を評価する能力を育成するべきである」という教育目的は現 場で実践されていた。また、学習指導要領に規定された作文測定の方法も行われていた。
しかし、日本語作文授業が学習指導要領の規定内容とほぼ同じであっても、必ずしもす ぐれた日本語作文の授業が行えるわけではない。学習者のインタビューデータからも、日 本語作文の授業にはいくつかの問題点があったことがわかった。
①作文授業は言語の正確さに焦点を当てることで、学習者が新しい表現を試みる可能性 が低くなる。高学年段階の学習指導要領で規定された目的は、「言語運用の正確さから、
文章の自然さおよび文章の思想に重点を置くようにする」であるが、日本語作文教育 現場では、「言語運用」の正確さを重視するのが主流であり、作文評価でも文法や語彙 の誤用率によって作文を評価することも多く見られる。学習者のインタビューデータ から、学習者は文法や語彙の誤用率を減らすために、新しい文法の代わりに使い慣れ ている文法や語彙を使用したことがわかった。
②学習者の動機と学習指導要領に規定されている目的が違う。大学院受験を動機とする 学習者は積極的に作文授業に参加しているが、単に単位を取得することを動機とする 学習者は作文学習への関心がない。
③日本語作文授業は学校や学習者から重視されていない。作文授業は選択科目として、
「読む・聞く」授業のように履修しなければならないものではない。
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④日本語作文授業は日本人教師が担当することが多いが、日本人教師が日本語翻訳版な しの学習指導要領を理解することは容易ではなく、学習者間とのコミュニケーション が円滑でないなどの問題もある。
そして、学習者は教師に強く依存していることもわかった。それにより、教師からの支 援を失ったら学習者は学習者間の相互作用によっての協働学習を不安がるだろう。
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