第 8 章 フィードバックと作文推敲
8.3 分析方法
本章における分析対象のデータは以下の通りである。
①推敲前の作文、推敲後の作文、推敲後の作文での自己推敲箇所。
②フィードバック。実験対象者である学習者がフィードバックをワークシートにだけで はなく、作文用紙に記録したものがあった。そのため本章では、ワークシートととも に、学習者の作文用紙を利用し、そこに記載されているフィードバックを分析した。
③プロトコルとフォローアップ・インタビュー。
分析方法として、まずフィードバックをFaigley & Witte(1981:403)(卷末資料④を参 照)の推敲後作文修正表(Taxonomy of Revision Changes)に変更を加えたもの(表8.1)に 従って分類し、どのようなフィードバックがされたかを分析した。Faigley & Witte(1981:
403)は作文の推敲前後の変更箇所を大きく、テキストの内容に影響を及ぼさない「表層レ
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ベル変更」と、テキストの意味に関わる「意味レベル変更」の2つに分けている。さらに
「表層レベル変更」の下位項目として「形式的変更」と「意味保持変更」に、「意味レベル 変更」の下位項目として「ミクロ構造変更」と「マクロ構造変更」に細分化した。そのう ち、「ミクロ構造変更」はテキスト全体の趣旨を変えるものではないが一貫性を持たせるた めに文章に施す変更を指している。一方、「マクロ構造変更」はテキスト全体の趣旨の変更 であり、テキスト全体的な構想や要旨の変更を意味している。広瀬(2000:27)は、日本 語作文を書く習慣にしたがい、Formal Changesの5つのサブカテゴリーのうちSpellingと Punctuationを「表記」に、FormatとAbbreviationを「書式」に収めた。学習者の文法問題 は時制や活用だけではなく、「は/が」などの格助詞やコロケーションなどにも及んだため、
本章では、「時制」を「文法」に変えることになった。
次に、フィードバックが作文推敲に与えた影響を調べるため、フィードバックの妥当性と 具体性、推敲成功数を計算した。フィードバックの具体性と妥当性の判定について、Yang, Badger & Yu(2006:187)はHyland(1998)の定義にしたがい、学習者の作文に対する「よ い構成と、十分に支持されたアイデア」というフィードバックは「妥当ではない」と分類 され、学習者の作文の誤ったところに対する「間違った単語使用」というフィードバック は「妥当」なものとみなされているという。そして、推敲の成功の判定について、Yang et al.(2006:187)はConrad & Goldstein(1999)の作文推敲の分類法を使用し、「成功した推 敲」は、フィードバックで議論された問題を解決したか、推敲作文で改善したかと定義さ れ、「成功しなかった推敲」は推敲作文を改善しなかった、または実際に推敲作文の質をさ らに弱めたものと定義されたという。また、田中(2011:125—126)は、妥当性は教師の視 点でフィードバックが適切かどうかを基準とし、具体性は指摘の理由や根拠などが詳細に 説明されているかどうかを基準としたと指摘している。
したがって、本研究でのフィードバック妥当性と具体性および作文推敲の成功数の判定 は、すでに信頼性と妥当性が確かめられた、ピア・レスポンスについての優れた実践であ るYang et al.(2006:187)と田中(2011:125—126)の基準を参考した。すなわち、妥当性 は教師の視点でフィードバックが適切かを判断される。具体性は、指摘の理由や根拠など が詳細に説明されているかによって判定される。調査結果の信頼性を高めるために、これ らの判定は、筆者のほか、上級中国語学習者の日本語母語話者2人が行った。見方が割れ た場合、その原因について話し合い、多数派の意見を取った。
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表8.1 推敲後作文修正表
注:日本語訳は筆者によるものであるが、広瀬[2000:27]の分類表を参考した。
さらに、3.2.3 で提示した方法で収集されたインタビューデータのうち、「フィードバッ クの例をいくつか教えてください。この文/段落を削除/変更したことに気づいたのです が、このように削除/変更した原因は何ですか。」という質問に対する回答データを収集し
表層レベル 変更
(Surface Changes)
形式的変更
(Formal Changes)
表記(Spelling, Punctuation) 漢字・カタカナ・句読点などの訂正 文 法 ( Tense, Number, and
Modality )
活用・テンス・モダリティなどの訂正
書式(Format , Abbreviation) 文体、段落の一字下げ・分かち書きなどの訂正
意味保持変 更 (Meaning Preserving Changes)
加筆(Additions) 元の文から推論可能なものの加筆 削除(Deletions) 削除された部分が容易に推論できる削除 書き換え(Substitutions) 単語レベルの書き換え
記述順変更(Permutations) 前後の文の単純な入れ替え 分割(Distributions) 一文を複数に分割する 結合(Consolidations) 複数の文を1つの文にまとめる
意味レベル 変更
(Text-Based Changes)
ミクロ構造 の変更
(Micro structure Changes)
加筆(Additions) 例の提示など、新しいアイディアの加筆
削除(Deletions) 元の文にあったアイディアの削除
書き換え(Substitutions) 文レベルの書き換え 記述順変更(Permutations) 段落内での分の入れ替え 分割(Distributions) 段落内に収まる文分割 結合(Consolidations) 段落内に収まる文の結合
マクロ構造 変更
(Macro structure Changes)
加筆(Additions) 新しい段落や筆者の重要な意見の加筆
削除(Deletions) 段落や筆者の重要な意見の削除 書き換え(Substitutions) 元の文章や段落ごと書き換えるもの 記述順変更(Permutations) 段落を超えた文の入れ替えなど 分割(Distributions) 1つのアイディアが複数の段落に分割 結合(Consolidations) 複数の段落にあったアイディアが結合
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た。そして、調査対象者のフィードバックと作文推敲の過程での思考・感情を再現するた めに、「プロトコル分析(protocol analysis)」(Ericsson & Simon 1984)を採用した。プロト コル分析は「発話プロトコル法」とも呼ばれ、布山・諏訪(2014:473)によれば、「行為 中の思考過程を行為時もしくは行為後に被験者に発話してもらい、その発話内容を行為時 の思考を反映しているデータとみなして分析する方法である」と定義している。また、布 山・諏訪(2014:473‐474)は、発話プロトコル法には、行為時に行為を行いつつ発話す る発話思考法(Think aloud method)と、行為後に行為を回想しながら発話を行う回想プロ トコル(Retrospective report)があると述べている。学習者はピア・レスポンスでの話し合 い中、同時に感想を発話することが不可能であるため、本研究では発話思考法ではなく回 想プロトコルの手法をとった。
以上の手順に沿い、本章での研究課題を実証していく。