第 9 章 ピア ・ レスポンスのプロセスへの学習者の意識
10.3 結果と考察
10.3.2 ピア・レスポンス活動前後の作文学習への意識の変化の要因
因
以上、L1使用とL2使用によるピア・レスポンス前後の作文学習への意識の変化が違っ ていたことがわかった。インタビューのデータを分析した結果、そこからは3つの要因(図
10.2)が導き出された。それぞれは、①感情の要因(11 人)、②協働学習の要因(8 人)、
③言語使用の要因(12人)である。以下では、この3つの要因について具体的に説明する。
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図10.2 ピア・レスポンス後の作文学習への意識の変化の要因
(1)感情の要因
インタビューを受けた調査対象者のうち、L1群の6人、L2群の5人は、感情の要因が 作文学習への意識が変わった理由の一つだと話した。例えば、L1群の学習者Cn-Cは事後 インタビューの中で次のような語りがあった。
Cn-C:我变得不是那么讨厌写作文了,慢慢的开始养成自己固定的写作文的习惯,整篇文章 的构思和文笔,常用的句型之类的。
【作文がそんなに嫌じゃなくなった。文章全体の構想や表現、常用文型など、自分なりの 作文の習慣が身についていっている。】
JP-B:我仍然不喜欢写作文,我认为写作文这件事对我来说是一种负担,我需要花费很多时 间去写一篇作文,还要花很多时间去修改,这个过程对我来说负担很重,没有那么开 心。
【作文が好きにならなかった。作文を書くことは私にとっては負担である。第1の作文か ら推敲作文までは大変時間がかかる。この過程は負担が重くて楽しくない。】
上述のインタビューの語りから、L1 学習者は作文学習に積極的になったが、L2 学習者 は積極的にならなかったといえる。なぜL1とL2の学習者は、作文学習に対する感情が違 ったのだろうか。次の事後インタビューの内容からその原因を窺えることができる。
Cn-C:我认为讨论是一件很有意思的事情。在与朋友讨论彼此的作文的时候,我们会发现
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一些平常老师不会指出的错误,听到对方和自己有哪些不一样的想法,也可以从对方 的作文中得到启发,。因此,我认为写作文变成一件有意思的事情,而不是单纯的完 成作业。
【討論はとても楽しいと思う。友達とお互いの作文について討論していると、ふだん教師 が指摘しない間違いが見つかったり、自分と異なる意見を聞けたり、相手の作文からヒン トを得たりすることができた。だから、作文が単なる宿題ではなく、楽しいことだと思え るようになった。】
Jp-B:感觉单词、语法的基础知识掌握好了就能写出好作文。
【単語や文法の基礎知識をしっかり習得していれば、よい作文が書けると思っていた。】
L1群の学習者は、仲間と討論し合うことを経験することで、内容や構成を工夫すること が大事だと認識するようになり、作文学習に積極的になった。一方、L2群の学習者は日本 語でやりとりをすることが大事だと認めて、作文学習への態度に変化が見られなかった。
上述の語りからわかるように、学習者は話し合いにおける L2 使用に不安があり、作文学 習の態度へ負の影響をもたらす可能性がある。
(2)協働学習の要因
協働学習はピア・レスポンス後の学習者の作文学習への意識変化を促す要因の一つだと 見られる(L1群の4人、L2群の4人)。ピア・レスポンス活動前において学習者は教師の 役割を大きくとらえていた。ピア・レスポンス経験後、L1群の学習者は自律的方向へと傾 いているが、L2群の学習者は他律性が見られた。この変化の差異は、協働学習という学習 形態を経験したときの、それぞれの違った言語の使用によるものだと考えられる。ピア・
レスポンス活動では教師による一方的なフィードバックのかわりに、学習者間でフィード バックしあうことが行われていた。しかし、ピア・レスポンス後、L1群の学習者は教師の フィードバックを求める姿勢が窺えなかったのに対し、L2群の学習者は教師によるフィー ドバックを求める気持ちが強かった。なぜL1群とL2群の学習者は教師によるフィードバ ックと学生によるフィードバックへの認識が違うのか。事後インタビューでL1群のCn-D とL2群のJp-Cは次のように語っている。
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Cn-D:我们老师总是说:“这个日语里不这么用。”但是她也不知道我们到底要表达什么意思,
也没有告诉我们日语里到底该怎么用,只是告诉我们“日本語にならない。”这样很绝 望,还是不知道该怎么用。互相讨论的话,就不得不看一下同学的作文,不得不跟同 学的作文交流碰撞。之后的话会和室友和同学讨论一下,可以写的观点比较多了。
【教師はいつも「日本語ではこう言わない」と言うけれど、彼女(教師)も私たちが表し たいことをわかっていないし、日本語だとどう言うのかということを教えてくれるわけで もない。ただ私たちに向かって「日本語にならない」と言うだけで、私たちは結局どのよ うに書けばよいかわからないままで、絶望的な気持ちだった。相互討論ならクラスメート の作文を見ないといけないし、意見をぶつけ合わないといけない。あとは、寮のルームメ ートやクラスメートと討論するから今までより書けるものが多くなった。】
Jp-C:我还是更信任我们老师。老师毕竟比同学更专业。我也不是不信任同学,只是我们班 同学之间的水平其实相差不大,如果完全听从同学给出的意见,有可能会把对的地方 改成错的。在同学之间起争执的时候,我还是希望老师能给出权威判断。
【私は先生を信用している。先生はクラスメートよりも専門的である。クラスメートを信 用しないというわけではないが、クラスメート間のレベルはあまり差がつかないので、ク ラスメートの意見にばかり従えば、正しいところを間違って修正してしまう可能性がある。
クラスメート間に意見のずれがあったら、先生に権威のもとで判断を出してほしい。】
上述の語りからわかるように、ピア・レスポンスを経験することで L1 群の学習者は教 師に依存する姿勢が減じることが見られるが、L2群の学習者は教師のフィードバックを求 めていることが示された。ここで見られた変化は、L1群の学習者が経験している協働学習 は仲間と意見をぶつけあっている中で思考が深くなるものであるのに対し、L2群の学習者 は仲間によるフィードバックが理解しづらいことが多く、仲間同士によるフィードバック に不信感を持っていることを示している。
(3)言語使用の要因
本章の対象者のうち、L1群の5人、L2群の7人は言語使用の要因が作文学習への意識 が変わった理由の一つだと話した。使用言語がどのように学習者の作文学習観に影響を及 ぼすかについて学習者が以下のように語っている。
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Cn-E:我的N1成绩为118,属于班上比较一般的水平。我和我的同学全程都是用中文讨论,
只有在涉及到词汇语法的探讨的时候才会用日语。我觉得我们用中文讨论,不会受到 有限日语词汇的制约,能讨论的东西更多,范围更广,更节约时间。
【私のN1 の成績は118点であり、クラスでの中位である。私と仲間が中国語で話し合っ ていたが、作文の中の語彙や文法の議論については日本語に切り替えていた。内容につい て中国語で話し合うことは、日本語の言葉が限られているという制限を受けないで、もっ と多くのものやもっと大きい範囲のものを討論できるようになったし、時間の節約もでき た。】
Jp-D:我的N1成绩有138分,在班里属于比较高的水平。我和我的小伙伴坚持全程用日语 讨论,我们平常很少有这种只用日语交流的情况,日语说得可能不够流利,可是我认 为这是一个锻炼日语口语的很好的机会。我们会给对方的口语挑毛病,争论口语中某 一句话的表达,在作文内容上的关注就没有那么多了。
【私のN1の成績は138点で、クラスでは上位のレベルである。普段日本語で話し合うチ ャンスが少ないため、意思疎通に問題があるかもしれないが、これは日本語会話を練習す るよい機会であると私は思う。私たちは相手の口語にあらいを探し、ある口語の表現を討 論しがちなので、作文の内容の面に対する注目がその分で減っていた。】
以上の語りからは、L1群の学習者は作文をめぐってより多くの討論を行う姿勢が見られ るのに対し、L2群の学習者は日本語の話す能力を鍛えることに関心を寄せており、十分な インターアクションが行われていないという傾向が読み取れる。