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第 9 章 ピア ・ レスポンスのプロセスへの学習者の意識

10.3 結果と考察

10.3.1 ピア・レスポンス活動前後の作文学習への意識の変化

L1群とL2群の学習者のピア・レスポンス前後の作文学習への意識が変わったかを見る ため、被験者内1要因分散分析を行った結果、L1群の主効果が有意であった(F(1, 28)=0.011,

p<.05)。このことから、L1 群の学習者はピア・レスポンス前後の作文学習への意識が変

わったことがわかった。言い換えれば、L1を使用することは学習者の作文学習観の変化に 影響を及ぼしている。

次に、インタビューデータへの質的分析を行い、L1群とL2群の学習者はそれぞれ、ピ ア・レスポンス前とピア・レスポンス後においてどのような作文学習観を持っているかを 見ていく。本研究では、L1グループとL2グループの両方の学習者が、同一大学の日本語 専攻に所属している学習者であり、そして実験前は彼らの作文学習観は同様のものであっ たと見なされる。事前のインタビューで見られたピア・レスポンスを経験する前の学習者 の作文学習意識について、SCATとKJ法の併用で浮かび上がったコードは表1のとおりで ある。

10.1ピア・レスポンス前の作文学習観

コード 叙述

〈作文の質が上がりにくい〉 作文の質を上げることが困難である。

〈作文学習の性質への認識〉

文法や語彙の基礎知識を持っていれば、よい作文を書ける。

積み上げ学習が大事である。作文は静態の作業だ

〈教師への信頼感〉 教師の知識の信頼

〈教師との交流が困難〉

日本人教師が作文授業を担当することが多いので、教師との 交流に困難がある。

〈学習者間の協働が少ない〉

学習目標や知識が学習者それぞれで異なるので、学習者間の 話し合いが少ない。

〈作文学習に対する他律的な姿勢〉

教師から出された課題以外には、興味を持って作文を書くこ とが少ない。

〈作文学習に対する不安〉 作文を勉強する時に、不安を感じる。

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表10.1で示した結果についてコードごとに考察を述べる。

〈作文の質が上がりにくい〉から、学習者は「作文の質を上げることが困難である」と 考えていることが窺われる。このことに関しては、学習者は次のように語っている。

Cn-A:我的作文的逻辑不太好,还经常犯同样的错误。我对我的作文成绩不太满意,但是 无论怎么练习都很难看到进步。我自己的作文水平都不行,不太容易给别人的作文 提出意见。

【私の作文は論理がよくないし、再三同じミスをしている。作文の成績に不満があり、作 文をたくさん練習しても、進歩がない。他人の作文を批評できるが、実際にそれをこなす 能力はない。】

〈作文学習の性質への認識〉に関しては、学習者は「文法や語彙の基礎知識を持ってい れば、よい作文を書ける」、「積み上げ学習が大事である」という考え方を持っていること が窺われる。以下の学習者の語りからその認識が窺える。

Jp-A:由于我个人的原因喜欢写随笔,作文的逻辑就不太好。我感觉单词、语法的基础知 识掌握好了就能写出好作文,但其实是眼高手低。

【私は個人的に随筆を書くことが好きだったせいで、作文の論理があまりよくないことに 気づけた。単語や文法の基礎知識をしっかり習得していればよい作文が書けると思ってい たけれど、実際は望みが高いだけで能力が伴っていなかった。】

〈教師への信頼感〉から、学習者は教師からの知識の伝達を信頼することが窺われる。

学習者は、「日本語の面の指導は、教師を絶対的に信頼する」と考えており、「教師は文法 を直してくれる。教師が直すのを待っている習慣がある」と考えている。学習者は仲間も 自分と同じようにミスをするので、仲間に意見を聞くより、教師の添削に安心感を得ると いう考え方を持っている。

一方、〈教師との交流が困難〉からは、学習者の持つ教師への信頼感が強くて教師の役割 を大きく捉えているが、教師との交流が困難ということにより不安の意識が生じることが

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窺われる。学習者の立場から見れば、「学生たちは表現しようとするものを互いに分かち合 うが、日本人の教師はそれをわかってくれない」、「教師は日本語らしい日本語の使い方を 教えてくれない」、しかし、教師の立場から、「日本人の教師は焦りを感じているそうだ。

教師は学生たちを助けようとするが、役に立たない」と学習者は話している。この背景と して、近年中国国内で日本語作文授業を担当する日本人教師が急増し、雇用されている日 本人教師は定年を迎える人や大学新卒者が多く、数年で交代する29ことが挙げられる。こ のように、教師が頻繁に変動することや教師の日本語教育歴が浅いことで、教師との交流 が難しいことが推し量られる。

〈学習者間の協働が少ない〉から、学習者間であまり討論をしないことが窺われる。学 習者は「文法・文型について討論しない」、「作文を自分で黙々と書いた」と話している。

〈作文学習に対する不安〉からは、学習者は日本語で作文を書くことに不安を感じるこ とが窺われる。学習者は「作文の内容について何を書けばよいか自信がない」と考えてい るので、「事前活動が必要」という作文学習の望ましいあり方が窺える。

以上が、学習者がピア・レスポンス前の作文学習への意識を叙述化した内容である。次に、

ピア・レスポンスを経験した後の学習者の意識を質的に分析した結果(表10.2)、L1群は

〈作文の質の向上〉〈作文学習に対する不安の軽減〉〈作文学習に対する自律的な姿勢〉〈作 文学習の性質への認識の変化〉という4つの意識の変化が生まれた。一方、L2群は〈作文 の質の向上〉〈作文学習の性質への認識の変化〉という、2つの同じような意識の変化があ るが、〈不安の軽減〉〈作文学習の性質への認識の変化〉の2つの意識の変化が生じること において、L1 群と異なっている。言い換えれば、ピア・レスポンス後では、L2 群と比較 し、L1群の学習者は作文学習への認識がより積極的になった。

29 出典:国際交流基金2015年度の調査 国際交流基金 日本語教育国・地域別情報

〈https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2017/china.html〉(2019.10.1閲覧)

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10.2 ピア・レスポンス後の両群の学習者の作文への意識

L1 L2

コード 叙述 コード 叙述

作文の質の向上

より質の高い作文を書けるよう になる。

作文の質の向上

より質の高い作文を書けるよう になる。

作文学習の性質 への認識が変化

作文学習は初期で間違いを許し て、後になって繰り返して修正す ればよいことだ。学習方法が大事

だ。

作文学習の性質 への認識が変化

作文学習は初期で間違いを許し て、後になって繰り返して修正す ればよいことだ。学習方法が大事

だ。

作文学習に対す る自律的な姿勢

作文学習には教師が不可欠だと 認めているが、学習者自分で学習

活動を制御するようになる。

作文学習に対す る他律的な姿勢

仲間同士より教師のほうが学習 活動を制御すべきだ。

作文学習に対す る不安の軽減

作文を楽しめる。作文が書きやす くなった気がする。

作文学習に対す る不安

――

〈作文の質の向上〉、〈作文学習の性質への認識が変化〉という2つのコードは、L1群と L2 群の学習者は共通していることから、ピア・レスポンス後の作文学習に関しては、「よ り質の高い作文が書けるようになる」、「作文学習は初期で間違いをしても、後になって繰 り返して修正することだ」、「学習方法が大事だ」と両群の学習者がともに考えていること で、ピア・レスポンスに対しては肯定的な態度を持っていることが窺われる。

〈作文学習に対する他律的な姿勢〉というコードから、L2群の学習者は「仲間同士より 教師のほうが学習活動を制御すべきだ」という考えを持って、作文学習に対してはやや受 け身的な態度を持っていることが窺われる。一方、〈作文学習に対する自律的な姿勢〉から は、L1群の学習者は「作文学習には教師が不可欠だと認めているが、学習者自分で学習活 動を制御するようになる」と考えていて、作文学習に対して能動的であることが窺われる。

以下の学習者Cn-Bの語りからその自律的な姿勢が窺える。

Cn-

B

我会每个周自己主动写作文(不是作业),请高年级的同学和外教提出修改意见,也 会和我的同学一起讨论。通过这种练习的积累我真切的感受到我的写作能力的提高。

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【私は毎週作文を書いて、先輩や日本人の教師に見てもらったり、友達とペアとなってピ ア・レスポンスを行ったり練習している。練習の積み重ねによって書く力の伸びが実感で きる。】

上述の語りから、ピア・レスポンス後は、L1群の学習者は「日本語は日本人の教師のほ うが正確だ」と教師を信頼しているが、「毎週作文を書いて先輩や日本人の教師に見てもら ったり、友達とペアとなってピア・レスポンスを行ったり練習している」、「かしこまって 座りながらするわけではなく、食堂に行く途中なんかで討論している」と語ったように、

学習者は作文学習に対しては協働的、能動的だといえる。一方、L2群の学習者にインタビ ューしたところ、調査後自律的に作文の練習をし続けている学習者はほとんどいないとい う結果であった。

〈作文学習に対する不安の軽減〉というコードから、L1群の学習者は「作文を楽しめる、

作文が書きやすくなった気がする」と考えて、作文学習に対しては肯定的な意識を持って いることが窺われる。それに対し、〈作文学習に対する不安〉から、L2 群の学習者は作文 学習に対してはやや消極的だといえる。このことに関しては、学習者の持つ教師への信頼 感が強いながら、教師との交流困難ということだけではなく、協働学習の性質への理解が 異なることにも起因すると考えられる。臼杵(2002:9)では、L1 群の学習者は作文学習 を仲間同士で責任を持って進めるべきだと考えているのに対し、L2群の学習者はやはり教 師の役割を大きく捉えている。L1 群の Cn-B は、「仲間との討論が好きになった」という 意識の変化が生まれた。

以上の各コードに対する考察から、本章の対象者のピア・レスポンス前後における作文 学習観の変容は図10.1のように示される。