第 3 章 研究方法
3.2 調査方法
3.2.2 ピア・レスポンス活動の手順
筆者が事前に作成した「研究協力についての同意書」(参考資料①を参照)を読んでもら い、同意の署名と捺印をもらった後、調査を開始した。正規の授業時間内に調査を行うこ とは、通常の授業スケジュールを乱し、調査に参加しない学習者にとっても不公平である という教育倫理上の問題がある。その点を考慮し、授業時間外にクラス活動という名目で 実施した。両グループは同じ教室でクラス活動を受けており、調査者からの指示は同様で ある。教室は十分な広さがあるため、両グループの学習者は一定の距離を保つことができ、
話し合う際の相互干渉を避けることができる状態であった。調査者は2名である。その中
10 中国の山東師範大学を選んだ理由の1つは、筆者の出身校であるためである。この学校の学習者は筆 者にとって、最も接近可能かつ協力を得ることができる対象であった。もう1つの理由としては、山東師 範大学が1950年創設の山東省における重点大学であり、人文社会科学分野の研究拠点としての役割を担 っているからである。
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の 1 名は筆者11であり、学習者に作文を書くための表現の教授、ピア・レスポンス活動の やり方の説明、作文テーマの提示、活動中の教室内の巡回など主要な仕事を分担した。筆 者は、「教師資格証明書」(高校・外国語)を取得しており、中国の学校外の日本語教育機 関での教育経験を持ち、日本の大学でピア・レスポンスを活用した授業を受けたことがあ る。今回の活動では、文章表現の指導方法、授業のデザインを日本語教育専門家の指導を 受けた。もう1名の調査者は中国で日本語教育経験がある京都大学大学院生で、原稿用紙 の配分と回収、名簿記入など、活動のサポートを担当した。
実験は計4回行った。1回目の教室活動としてはピア・レスポンスの導入12を行った。そ れは、Berg(1999: 224)が示したように、事前にピア・レスポンスの練習をすることが ESL学習者のフィードバックの種類と作文の質によい影響を与えるからだ。池田(2001)
もピア・レスポンスが学習経験や練習の有無、あるいは導入の仕方などの影響を受けやす いと述べている。ピア・レスポンスの導入では、調査者(筆者)がピア・レスポンスの概 念と意義を説明し、例として1名の学習者とペアになりピア・レスポンス活動を模擬的に 行いながら、そのやり方を説明した。導入の時間は60分であった。2・3・4回目の教室活 動(60 分)はピア・レスポンス活動(活動の風景は資料②を参照)を実際に行うもので、
最初の30分を表現と作文テーマの説明と作文を書く時間にあて、それからピア・レスポン スを行わせた(図 3.1)。教育部の要綱では授業外で作文を書くと規定している13が、今回 の調査は実験であるので、作文の質を確保するために、学習者の活動時間内に作文を書か せた。具体的な実験のスケジュールは表3.2のとおりである。
11 筆者はピア・レスポンス活動での教師の役割を引き受けているが、全面的に活動に没頭することをせ ずに、対象者と離れた位置にいた。それにより、筆者は調査者である参加者として、非干渉的に対象者を 観察することを可能にした。そして、筆者は教師として講義を行ったときに、筆者のある特定のバイアス を持ち込まないように、実験の客観性を保証するようにあらゆる努力を怠まらなかった。
12 Berg(1999:224)は、事前にピア・レスポンスの練習をすることがESL学習者のフィードバックの
種類と作文の質によい影響を与えると指摘した。Rollinson(2005:25)も、ピア・レスポンス活動が始 まる前に何らかの形の練習が重要であることを主張し、練習には、学習者が合意・討論・質問・主張・防 御・評価ロジック・一貫性などのさまざまな基本的手順と社会的および対話的なスキルを習得する必要が あるため、時間の投資が重要だと述べている。これらから、よい事前活動の重要性がうかがえる。よい事 前活動は学習者の活動全体の理解に資するものであり、学習者の活動のリズムを制御できるようにするこ とは学習者が自分の学習過程へのメタ認識を持つことに役立ち、学習者の前向きな態度と協働性を促すと 考えられる。
13 『高学年段階教育要綱』では、「写作课的具体做法以课后写作、课堂讲评为宜」(p.3)(筆者訳:書 く授業の方法は、授業後に書いて授業で評価する形で行うべきである)と述べている。
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表3.2 実験のスケジュール
日付 活動 時間 授業内容 宿題
3 月
13日
ピア・
レスポ ンスの 導入
60分
・ピア・レスポンスの概念と意義の説明
・調査者と1名の学習者は模擬練習をしながら、そのやり方と 実施の注意点を説明した。
 ̄
3 月
13日
講義 10分
・「意見述べ」に関する意見文の書き方(参考資料③を参照)
・作文1の「私の勧める本/映画/旅行先」というテーマの提示
・ピア・レスポンス活動実施の注意点とワークシートの使い方
宿題1:
作文1(書き直し)
ワークシートとと もに提出すること 20分 作文1を書く(800字)
作文を 書く
30分
作文1について、ピア・レスポンス活動を行う。活動では、L1 群はL1で話し合い、L2群はL2で話し合うようにさせた。
3 月
14日
活動 10分
・理由や目的を述べる作文技術(参考資料④を参照)
・作文2の「日中の文化の違いについて」の提示
宿題2:
作文2(書き直し)
ワークシートとと もに提出すること 講義 20分 作文2を書く(800字)
30分
作文2について、ピア・レスポンス活動を行う。活動では、L1 群はL1で話し合い、L2群はL2で話し合うようにさせた。
3 月
15日
作文を 書く
10分
・論理的表現を書くための作文技術(参考資料⑤を参照)
・作文3の『「爆買い現象」について』の提示
宿題3:
作文3(書き直し)
ワークシートとと もに提出すること 活動 20分 作文3を書く(800字)
講義 30分
作文3について、ピア・レスポンス活動を行う。活動では、L1 群はL1で話し合い、L2群はL2で話し合うようにさせた。
ピア・レスポンスの具体的な手順は池田(1999b:32)の実践モデルを参考にし、以下の 通り規定した。
①指定したテーマの作文を書くのに必要な文型・表現の導入および練習を行う。
②作文を書いて提出させる。
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③ペア活動:書き手が自分の作文を朗読し、その後、その作文について議論する。読み 手は、書き手の作文について、ワークシートに従いよかったところ、直した方がよい ところの順にフィードバックする14。話し合いが終わったら交代する。話し合いの時 間は30分とする。ワークシートは池田(1999b:32)をもとに、広瀬(2004:70)が 作成したワークシートを参考にした。ピア・レスポンスの内容は全て作文原稿用紙や ワークシートに記入するように指示した。
④推敲作文を宿題として、ワークシートとともに提出させる。
Rollinson(2005:25)は、ピア・レスポンス活動で教師は適度に介入する必要があると した。教師はペアの話し合いを優先し、その際、作文の誤りを正すだけのやりとりになら ないよう促し、またL2でのピア・レスポンスには、L1にならないように注意を与える。
各ペアの活動は録音・録画した。
PR の説 明と 練習
作文テーマの提示 作文を書く
L2群
L1群
推敲作文 を書く
インタ ビュー 2-4回目の教室活動(PR活動)
1回目の教
室活動 討論 実験後
図3.1実践活動の流れ
(PR=ピア・レスポンス)
作文のテーマは筆者によって、「学生の日常生活と緊密に関わりのあること」、「既存の言 語知識や経験だけで討論が可能なこと」(佐藤ほか 2002)を基準に設定した。作文のテー マの設定は、特定の教科書を用いることはせず、筆者が身近なものから社会的問題へと難 易度を調節し、すべて意見文にした(表3.3)。また、各作文の文字数は800字以上とし、
特に上限は設けなかった。
14 Rollinson(2005:27)は、学習者同士が有効なフィードバックを行うために、調査者である教師はま
ず様々な方法(電子辞書やインターネットの利用など)を許可し、課題に関する知識を得る手段を遮らな いことだと指摘している。本実験はRollinson(2005:27)の提示に沿って行われた。
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表3.3 作文課題と手続
題目 指示内容
作文1
「私の勧める本/映 画/旅行先」
今まで読んだ本、見た映画、旅行したところなどを人に勧 める文章を書きなさい。
作文2
日中の文化の違い について
「次郎は鮨の夢を見る」という映画を見て、日中文化の違 いを書きなさい。
作文3
「爆買い現象」につ いて
旧正月の春節に合わせて中国から来日する多くの中国人 観光客の爆買いと呼ばれる衝動的な消費行動が目立って います。これについてあなたの自身の考えを書きなさい。