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第 6 章 ピア・レスポンスが「論理的表現力」に与える効果

6.5 考察

本章では、L1/L2 によるピア・レスポンスが作文の「論理的表現力」にどのような影 響を及ぼすかを探ることを研究課題とした。作文の質的分析を通じてL2 使用は論理的構 造要素の数量の変化が多いのに対し、L1使用は論理的構造要素の数だけではなく、論理的 構造の種類の変化にも良い影響を与えることがわかった。L1使用のほうが学習者の作文の

「論理的表現力」の向上に比較的寄与していると考えられる。すなわち、学習者の作文の

「論理的表現力」はL1使用によって促進されたことを意味し、学習者にとってL2使用の ピア・レスポンスが内化18されにくいことを示唆している。

18 内化の定義は、本論文p.21を参照

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ここまでの研究の結果を、最近接発達理論とStevenson & Gloper(2006:202)が提唱し たthe inhibitory hypothesis(抑制仮説)19を援用して解釈してみる。ピア・レスポンスによ る作文推敲過程において、学習者が話し合いにおいて L1 を使用することは効率的な相互 作用を促し、緻密に思考させることを可能にしたといえる。学習者はL1 を使用すること で、言語面の問題を解決し、言語より高いレベルに注意を払った。書き手は、読み手から のフィードバックを効率的に理解したり咀嚼したりでき、読み手は、L1でフィードバック を考えたり、発したりすることがフィードバックの範囲を広げることにつながったのでは ないか。すなわち、L1使用のピア・レスポンスは、学習者の潜在的発達の水準と実際の発 達の水準との間の領域、いわゆる最近接発達領域を大きく形成させ、新しい知識を共に構 築した。それが、学習者の作文推敲過程においての批判的思考を深化させることに影響し たのではないだろうか。

作文例で示しているように、「L1でのピア・レスポンス」の学習者Cn-Fは、2回目の 推敲作文では、「もちろん、高齢社会は理由の1つだが、日本文化の中での勤勉も重要的 な理由ではないかと思う」と、論駁を1つ増やした。その作文推敲の過程について、学習 者は「当時、私は次郎が生涯にわたって寿司を握る理由を話している時、たまたま次郎が お年寄りなのに毎日こつこつと働いている」ことを話した。相手はこれを論駁として付け 加えたほうがいよいとアドバイスをした。それで、私たちは話し合い、『もちろん、高齢 社会は理由の1つだが、日本文化の中での勤勉も重要的な理由ではないかと思う』という 修正案を一緒に考え出した」と述べている。この語りからわかるように、L1使用の学習者 は仲間と意見をぶつけ合わせている中で批判的思考が深くなり,そのことによって、最近 接発達領域を拡大化させたと考えられる。

これに対して、L2使用のピア・レスポンスは、より高いレベルのフィードバックへの注 意を抑制するため、作文推敲過程においての批判的思考を深めにくかったといえる。書き 手は、読み手によるフィードバックが理解しづらくて正解がわからないままになってしま うので、内化を促しにくかった。読み手は、書き手に自分の意図を感じ取ってもらうのに 自分の日本語の会話表現に多く注意を払うのに精一杯で、書き手の作文を批判的に思考す るまでには至らなかった。ピア・レスポンス活動後のインタビューではフィードバックの 過程に対して、「L2でのピア・レスポンス」のJp-Fは「日本語能力がまだ熟達していな

19 Stevenson & Gloper(2006:202)は、L2学習者が言語の訂正に注意を払うことは、より高いレベル

の訂正への注意を抑制するとしている。

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いと感じ、日本語母語話者ほど得意ではないと感じていたことも原因としている。それで、

仲間の作文を直すことを恐れる」「仲間からここがよくない、理解できないと言われただ けで、具体的なアドバイスを得られなかった」と話している。この語りからは、L2使用は 緻密な思考やディスカッションをすることが困難であることが示されている。言い換える なら、L1使用のピア・レスポンスでは、言語のより高いレベルに注意を払うことが学習者 同士の最近接発達領域を拡大化し、内化を促したのに対し、L2使用のピア・レスポンスで はそのような効果がないということである。このように、学習者同士の効率的な相互作用 や作文への思考の深さが異なっており、L1使用のほうが作文の「論理的表現力」の向上に より役立つと結論づけることができる。

一方、L2使用の利点もある。L2でのディスカッションでは、学習者は語彙の説明や文 の分析をする際に概念を述べるメタ言語表現を意識的に使用しなければならないし、その 活動のプロセスを説明する流れの管理などのメタ言語20表現もより多かった。例えば、「L2 でのピア・レスポンス」の Jp-F は、作文推敲過程において、「まずは、よかったところ をいいます。あなたの文章構成はなめらかだと思います。これはとてもよいです。そして、

生活に密接しています。よくなかったところは1つあります。文章は長すぎます」という フィードバックがあった。この語りから、学習者は「まずは」「そして」などの表現を駆 使することで、メタ言語表現を練習できるようになることが示されている。すなわち、L2 使用はこのメタ言語表現を練習する機会を与えられ、メタ言語表現を使用する意識を促進 することができるだろう。

それに対し、「L1 でのピア・レスポンス」の Cn-F は活動では最も慣れ親しんでいる L1を使っているため、言語の制限が取り払われ、コミュニケーションの円滑化に有利では あるが、一方でL2のメタ言語表現の発達には役立たなかったと見られる。Lapkin & Swain

(2000)、Yu & Lee(2014:34)などは、L2はある程度交流の障害となるが、学習者に 新たな言語知識の発見と習得の機会をも与えると言っている。本章でも、ピア・レスポン スでのL2 使用は、学習者がメタ言語表現を駆使することで、メタ言語能力の発達やコミ ュニケーションの展開にも役立つことも明らかになった。

20 『新・初めての日本語教育基本用語辞典』(高見監修, 高見・ハント・池田・伊藤ほか共著2004:153)

によれば、メタ言語は、「言語を分析、記述するために用いられる言葉。例えば、『犬は名詞である』と か『犬は2音節の語である』といった表現はメタ言語的である。文法用語や倫理学の用語を使って言語を 記述することもできるし、『ロチューってどういう意味?』『路上駐車のことよ』というような日常的な やり取りの中でもメタ言語的表現を使っている」と述べている。

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