第 8 章 フィードバックと作文推敲
8.4 結果
8.4.2 回想プロトコルの結果よりみる作文推敲過程
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た」、「自分自身の考え方に自信がない」などが、具体的なフィードバックを与えなかった 理由を述べた。書き手は、「相手からのフィードバックの理由がわからない」「相手からの フィードバックが誤っている」などが、フィードバックを採用しなかった理由であった。
すなわち、学習者は L2 を使用すると、書き手は自分の考えを述べるのに困難となり、ま た読み手は、相手からのフィードバックを効率的に理解したり咀嚼したりすることに支障 が出ることを示している。
以上の結果を推敲レベルの観点から以下のように考察を行う。表層レベル的変更に関し てはL1群とL2群に大きな差がつかなかった。言い換えれば、テキストの内容に影響を及 ぼさない変更はL1使用かL2使用かによる変化をあまり受けないようである。そして意味 レベルでの推敲は L1 群の学習者は意識が向けられるように見られた。フィードバックの 採用率から、L1使用のほうが、より多くの書き直しを伴ってことがわかった。これは、テ キストの内容に影響を及ぼす変更には、L1使用のほうがより効果的であること示している。
このように、より意味レベルでの推敲を促しているのは、ピア・レスポンス活動における L1使用であるといえる。
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【事例2】(L2群2回目 書き手Jp-F/読み手Jp-I)
【推敲前】前年の「日本のものを抵制」という言い方に比べて、確かに、変換が大きい。この現象について、い ろいろな意見があります。何の意見はともかく、理性的に問題の本質を見通すのはいいじゃないか。
【フィードバック】「だ、である」で書きましたが、「ます、です」も現します。用語はちょっと不自然なので、
もっと日本語らしい日本語を書いたら、効果が出られます。
【推敲後】前年の日本製造を抵制するという言い方に比べて、確かに、変換が大きい。この現象について、みん ないろいろな意見を出しそうだ。意見そのものはともかく、理性的に問題を見るのはいいじゃないか。
【プロトコル】
Jp-F:我在把简体转换为敬体的时候、想到了老师讲过的语法、表达推量的状态的词可以 用“そうだ”。
【相手の意見にしたがって、簡体を敬体に書き直していたところ、学んだ推量を表す「そ うだ」という助動詞が頭に浮かんだ。ここで使うと適当だと思ったので「出しそうだ」と 修正した。】
上述の【事例2】からわかるように、Jp-Fは、作文推敲で「あります」を「ある」とし、
文体を「だ・である」体の敬体に統一しているが、さらに様態助動詞にするところまで気 付いている。プロトコルから、単にフィードバックを書き写すのではなく、文法の誤用の 気づきがあり、「そうだ」という様態助動詞を想起することにより、学習者の作文推敲を 促していることが推測される。
次に、妥当ではないフィードバックを採用した例を見る。表層レベル変更に関して学習 者のフィードバックが不足していたり、錯誤が多かったりする様子も見受けられた。書き 手はその妥当ではないフィードバックをどのように処理しているのだろうか。その過程を
【事例3】【事例4】のプロトコルから見る。
【事例3】(L1群1回目 書き手Cn-E/読み手Cn-H)
【推敲前】中国にも伝統的な料理を伝承している人がいます。「全聚徳」という北京ダックの店は全国で非常に 人気があります。
【フィードバック】「全聚徳」の書き方を直してください。
【推敲後】(推敲前の文を削除した。)
【プロトコル】
Cn-E:我觉得我应该把“全聚德”的日语名称写对了、可是对方这样指出来了、反而让我没 有了信心、只好把涉及到全聚德的例子都删除了。
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【私は「全聚徳」を正しく書いたと思ったが、書き方を指摘され、自信がなかったために 推敲後の作文でこの全聚徳の例を削除した。】
【事例4】(L2群2回目 書き手Jp-J/読み手Jp-C)
【推敲前】どんな商品にかかわらず、使い道があるかどうかにかかわらず、商品であれば、全部を買う。本当 に金持ちだ。
【フィードバック】「全部買う」?
【推敲後】どんな商品にかかわらず、自分に必要があるかどうかにかかわらず、商品であれば、大部分のを買 う。本当にお金持ちだな。
【プロトコル】
Jp-J:我不懂对方为什么要把“全部を買う”给标出来。但是我不改又不好、所以改成了“大 部分のを買う”。可能改得不太对吧!
【相手はどうして「全部を買う」に下線を引いたのかわからなかった。でも、直さずにそ のまま置いてもよくないと思ったから、「大部分のを買う」と修正した。間違って修正し たのかもしれない。】
上記の【事例3】【事例4】は、L1群とL2群の学習者は、修正ができずに原文を単純に 削除したり、原文のそのままにしてしまったりする事例である。
しかし、非訂正箇所については、L1群とL2群の学習者はその部分の逸脱に気づかずに 原文そのままの例もあった(【事例5】)。
【事例5】
①中国政府は提唱するのはメードインチャイナがクリエーテーブインチャイナに変われるということ、それは疑い ないです。(L2群2回目 書き手Jp-I/読み手Jp-F)
②これは中国の作家の路遥が書く本である。(L2群1回目 書き手Jp-C/読み手Jp-J)
③主人公たちは困難に対して、直面して努力する精神は今も現代の人たちに影響られると考えている。(L2 群 1
回目 書き手Jp-C/読み手Jp-J)
上述の例では、L1群とL2群の学習者がよく犯しがちな翻訳ミス(助詞の誤用、活用形 の誤用、時制の誤用、簡体字の使用)が見逃され、そのまま使用してしまった。これは、
フィードバックを見ながら書き直す際に、L1群とL2群の学習者はその逸脱部分に気づき にくいことを表している。このことは、作文に対する表層レベルの訂正が、学習者間の協 働だけではなく、教師の介入が必要であることを示唆している。
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(2)意味レベルの加筆訂正
L1 とL2 使用の、作文推敲過程の違いに関しては、まずL1 群はより多くの加筆訂正が 起こる点が特徴的であった。たとえば、【事例6】の場合、L1群の学習者Cn-Fはフィー ドバックを受け取ってから、読み手を意識して自分の作文を多く読み返すうちに、自己推 敲が触発された。その結果、当該箇所の訂正および指摘範囲を超えた加筆訂正が起こった。
そして、回想プロトコルの中で学習者 Cn-F はどのようなフィードバックをもらい、作文 推敲過程でどのようにそれを推敲に生かしているのかを、以下の【事例6】に示している。
【事例6】(L1群1回目 書き手Cn-F/読み手Cn-I)
【推敲前の作文一部】(下線は筆者による、以下同様)
チンタオは長い歴史を持って、6000年以前に人々の生存と生活が確認されているそうだ。秦の時代に徐福が船 隊を引率した。チンタオには、大学が多い。例えば、青島大学、中国海洋大学、中国石油大学など。教育レベル は高い。私は海が大好きなので、青島へ見に行った。優秀な観光都市として、壮大な海岸線や奇抜な山――崂山、
豊かな緑と赤い煉瓦の屋根、青い海と空、典型的なヨーロッパ式建築や名を残る名人たちの故郷などが一体とな る美しいチンタオである。
【フィードバック】
①顺序调整、时间、空间顺序。【時間・空間の叙述順序を調整してください。】【マクロ構造変更に関するフィ ードバック:記述順変更】
②相同的意思换句表达、更有吸引力。【ミクロ構造変更に関するもフィードバック:(文レベルの)書き換え】
【推敲後の作文一部】
私はチンタオをすすめる理由は2つある。1つは優秀な観光地として、「赤い煉瓦の屋根と豊かな緑、青い海 とグランドブルー」ということばがある。温暖で湿潤な気候なので、一番住み心地よいところである。私は海が 大好きなので、旅行していたあの一週間、世界一番長い海岸線を持つ金砂浜と近い友達の家に住んでいた。(中 略)もう1つは、長い歴史はともかく、青島は国際大都市である。2008年第29回北京オリンピックのヨット競 技の開催都市として、青島は中国の「帆船の都」となった。
【プロトコル】
Cn-F:“顺序调整,时间,空间顺序。”对方给了我这个评论、并解释说是让我先按照时间 空间的顺序来介绍青岛。我在重新读了我的作文之后 、认为确实存在叙述顺序上的混乱、但 是单单按照时间空间的顺序调整并不能彻底解决问题、读起来仍然不通顺。我开始思考应该 如何修改。我从对方的意见中得到启发、我把要写的东西直接分成两类不就好了吗、一类是 空间上、也就是作为观光地的青岛、一类是时间上、也就是青岛的历史。
【「時間・空間の叙述順序を調整してください」、相手は私にこのようなフィードバック
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をくれて、時間と空間の順序でチンタオを紹介してくださいと説明した。私は自分の作文 を読み返したところ、たしかに叙述の順序に混乱があることを確認した。しかし、単に時 間・空間の順序で調整すれば作文の筋が通っていない。どのように書き直せばよいかと考 え、相手からのフィードバックから示唆を得て、この部分を2つに分類して、空間として の観光地のチンタオと、時間としてのチンタオの歴史、と書き直した。】
上述の【事例 6】からわかるように、記述の順序を調整したほうがよいというマクロ構 造変更(①)、文レベルの書き換えというミクロ構造変更(②)に関わるフィードバック ともに、学習者Cn-Fの推敲後の作文に反映されている。
ここで学習者 Cn-F は、それらのフィードバックに限定して作文を訂正しているわけで はない。たとえばフィードバック①のように、推敲前の作文は叙述の順序が混乱していた と思われ、変更したほうがよいと読み手が指摘している。このように具体性のあるフィー ドバックを明示した場合、学習者Cn-Fはその指摘にしたがって作文の修正を試みながら、
その推敲後の文脈が通っているかを検討しなおしている。その結果、読み手の明示した「時 間・空間」という展開を、並列的な関係としてとらえなおした(1つは…、もう一つは…)。
このように、L1群の学習者Cn-Fは作文推敲過程において、読み手からのフィードバッ クに触発され、より広い範囲の自己推敲が行われた。このことは、「読み返し」という作 文推敲過程でのプロセスだけではなく、フィードバックの具体性があることに関連してい ると考えられる。
一方、L2群の作文推敲においても読み返しは起こるが、当該箇所の訂正に限定されてい た。そして、フィードバックでの指摘箇所をいかに削除するか、ということに結果的に意 識が向かうことがあった。【事例7】では、L2群のJp-Cの「私のすすめる本」という推敲 前と推敲後の作文の例、回想プロトコルで示されている作文推敲過程である。これは、L2 群において、ワークシートに記入されたフィードバックの数が比較的多く、高く評価され たものであるので、代表例として挙げた。
【事例 7】では、小説のあらすじの簡潔さ(①)、段落の分割(②)というマクロ構造
変更に関わるフィードバックが、L2群の学習者Jp-Cの推敲後の作文に反映されている。