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第 9 章 ピア ・ レスポンスのプロセスへの学習者の意識

11.1 全体のまとめ

本研究は、中国の四年制大学での日本語作文教育において、L1/L2によるピア・レスポ ンスを活用する可能性を探求することを目的とし、学習指導要領と学習者の事例分析とい う2つの観点から中国の日本語作文教育の現状と問題点を指摘したうえで、協働学習・社 会文化理論などの理論に基づき、量的・質的研究の手法によって、L1によるピア・レスポ ンスの有効性と特徴や、作文学習にどのような影響を及ぼすか、またその影響を及ぼす要 因を明らかにし、意識調査によるピア・レスポンスの改善点を見つけ、日本語教育への提 言を試みるものである。

第1章から第3章にかけて、本研究の目的と研究課題を紹介し、ピア・レスポンスの理 論的背景と先行研究を概観し、本研究の研究方法を述べた。

1章では、中国での日本語作文教育の背景と実情を紹介し、日本語作文教育における ピア・レスポンスの必要性を検討し、中国にピア・レスポンスの導入と実践上の明らかに したうえで、本研究の目的と課題、構成について記述した。近年、『要綱』と『若干意見』

は教育方法の革新を図ろうとするものだが、JFL 環境の中国の日本語教育におけるピア・

レスポンスの実践は長い間推進されていなかった。実践においては使用する言語がピア・

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レスポンス実践の推進に影響を及ぼす可能性があるため、本研究では、中国の四年制大学 での日本語作文教育で、どちらの言語によるピア・レスポンスがよりよい効果をもたらす かを明らかにすることを目的とした。本研究の研究課題を以下のようにまとめた。

課題 1 中国の四年制大学の日本語専攻の教育では、作文教育について問題があるか。

あるとすれば、具体的にどのような問題か。

課題 2 中国の四年制大学の日本語専攻者対象の作文教育では、ピア・レスポンスにお ける使用言語は、L1とL2のどちらがより効果的なのか、それぞれどのような 効果があるか。

課題 3 中国の四年制大学の日本語専攻者対象の作文教育では、ピア・レスポンスにお ける使用言語としてのL1とL2による効果の要因は何か。

2章では、ピア・レスポンスの理論的背景を紹介したうえで、日本語作文教育にピア・

レスポンスを用いた実践研究を整理した。現在までの日本語教育においてピア・レスポン スはどのような展開が見られるのか、どのような問題が残されているかを整理した。

3章においては、実験の手順と各章で使用されている分析手順について説明した。具 体的には、本調査は、2015年3月中国の山東師範大学において実施した。対象者は日本語 学科の3年生(日本語中上級レベル)28人とした。対象者をL1でのピア・レスポンスの グループとL2 でのピア・レスポンスのグループの 2つに分けた。実験前に聞き取り調査 を行い、学習者の性格や人間関係を考慮した上で、各グループの学習者をさらに7つのペ アに分けた。28名は同じ教室で授業を受けており、学習レベルは同等と見なすことができ る。学習者を2つのグループに分けるという実践活動が教学計画通りに正常な授業で行わ れるのは教育倫理に違反すると考え、本実験は授業外の時間で行った。4 回のクラス活動

(週に1回、60分)をする。第1回の活動はピア・レスポンスの導入であった。第2~4 回の活動は作文テーマに関する説明と作文(30分)+ピア・レスポンス活動(30分)を設 ける。その後、学習者へのインタビューを3回行ったことを説明した。また、得られたデ ータについて、各章での分析方法を明示した。次の第5章から第10章までは、同じ実験に 基づいた分析し、考察を行う。次の第5章から第10章までは、同じ実験に基づいた分析し、

考察を行う。

4章では、授業における問題点を探り、中国の大学の日本語専攻教育におけるピア・

レスポンス実践の必要性を見つける試みを行った。まず、2001年の『基礎段階教育要綱』

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改訂版2000年に刊行した『高学年段階教育要綱』の作文教育に関する記述を整理した。そ れから、教育現場では教師が教育要綱の規定通りに実践しているかを理解するために、実 験3年後の2018年に実験に参加した学習者にインタビューを行った。その結果として、中 国の日本語専攻作文教育に存在する問題点は、以下の5点である。

①言語の正確さに焦点を当てる作文授業では、学習者が新しい表現を試みる可能性が低 くなる。②学習者の作文学習の動機と学習指導要領に規定されている目的が違う。大学院 受験を動機とする学習者は積極的に作文授業に参加しているが、単に単位を取得すること を動機とする学習者は作文学習への関心がない可能性がある。③日本語作文授業は、学校 や学習者から十分に重視されていないのではないか。作文授業は選択科目であり、「読む・

聞く」の授業のように履修しなければならないものではない。④日本語作文授業は日本人 教師が担当することが多いので、学習者間でのコミュニケーションが円滑でないなどの問 題もある。そして、学習者は教師に強く依存していることもわかった。それにより、教師 からの支援を失った場合、学習者は学習者間の相互作用による協働学習を不安に思うだろ うと推測できる。

第5・6章は、どちらの言語によるピア・レスポンスが作文の質に有効であるか、またそ れぞれどういう効果があるかを検討したものである。

5章では、作文プロダクトの観点から、L1/L2によるピア・レスポンスの効果を検証 した。量的(作文評価)分析および質的(作文例)分析の結果、ピア・レスポンスにおけ る話し合いでは、L1使用は作文の内容的側面(中では<叙述の詳細性>と<他者の視点>)

に有効で、言語形式に対してもマイナスの効果が見られなかったのに対し、L2使用は内容 的側面に対する効果が比較的低く、1 回目の<文法の正確さ>のみにおいてよりプラスの 効果が示された。このことは、L2 との比較において、L1 使用のピア・レスポンスがより 作文評価に有効に働くこと意味している。また、L2使用のピア・レスポンスは1回目のみ の<文法の正確さ>に対して有効に働いたことは、L2使用は学習者の言語化能力を促進す ると推測できる。

6章では、ピア・レスポンスにおける使用言語としてL1とL2のどちらの言語のほう が「論理的表現力」によい効果を与えるかを検証した。調査では、中国の四年制大学の日 本語専攻学習者を対象にピア・レスポンス活動を行い、その後、再生刺激法を取り入れた インタビューを行った。作文の論理構造の分析には、トゥールミンモデルを用いた。結果

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としては、L2 使用は論理的構造要素の増加に役立つのに対し、L1 使用のほうは論理的構 造要素の数だけではなく、論理的構造の種類の増加に良い影響を与えることがわかった。

その結果を最近接発達領域と抑制仮説を援用して考察し、L1は批判的思考力を用い、学習 者間の協働を活かしているが、L2は緻密な思考を抑制する一方、メタ言語的能力を養う機 会となる。このように、中国の大学における日本語の作文教育のピア・レスポンスは、L1 使用のほうが「論理的表現力」によい影響を及ぼすかことが示唆された。

7 章では、活動プロセスの観点から、推敲活動における学習者の相互作用を分析し、

L1/L2によるピア・レスポンスの発話機能の特徴を明らかにすることを目的とした。分析

方法としてまず、L1とL2によるピア・レスポンスにおいて学習者の使った発話機能の違 いを比較した。次に、活動の回数の積み重ねによる変化を分析した。結果は、次のとおり である。

①L1群は【作文に関する発話機能】の割合が最も高いが、「L2でのピア・レスポンス」

は【活動の管理に関する発話機能】の割合が最も高い。

②L1でピア・レスポンスを行った時、初期のピア・レスポンスであっても、学習者が 教師にあまり助言を求めなかったことで、ピア・レスポンス活動に早く慣れたこと がわかる。一方、初期の活動では、L2使用のピア・レスポンスのほうが、<関係づ くり>など流れの管理に関する発話機能の割合がより高いことがわかった。実験後 期のピア・レスポンスにおいては、両群ともに、使用した発話機能の種類や数量が 増加しているが、大きな変化は見られなかった。ただし、L2使用の学習者は初期と 比較し、感謝表現やほめ言葉が明らかに減少した。

以上の研究結果について「活動プロセス」という視点から考察を行い、L1使用のピア・

レスポンスのほうが学習者の満足感や達成感につながり、L2学習の原動力になるだろうこ とがわかった。また、L1使用によるピア・レスポンスの学習者はどのように協力し合って 問題を解決するかを重んじるが、L2使用の学習者は、相手からの意見を受け入れないとし ても、L2で反論することが難しいので相手と妥協し、そのままにしてしまいがちだという ことが判明した。

8章では、これまであまり注目されてこなかったフィードバックと作文推敲の観点か らピア・レスポンス活動における使用言語としてL1とL2の比較をすることを目的とした。

収集された推敲前後の作文、ワークシート、およびプロトコルなどのデータを分析した。