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結論及び今後に向けての課題

第 7 章 考察及び結論

7.3 結論及び今後に向けての課題

本研究では、ブロードバンド・アンバンドル規制の導入及び同規制下におけるNTTのブロード バンド網投資計画発表に対して、NTT持株会社の株価がどのように反応したかについて分析を行 った。その結果、株価は有意な負の反応は見せていなかったことから、同社の非政府株主は、同 規制の導入やNTTの投資計画によって同社の期待収益が減少する、というシグナルを発していな かったことが明らかになった。これは、米国の事例や、多くの先行研究から想定される内容とは 逆の結果であった。

次に、シグナルが発出されなかった理由として、(1)期待収益は減少すると考えられていたが、

持株会社方式によって他の事業の期待収益の変化と相殺された、(2)期待収益の変化を検討した結 果、影響がないと判断された、(3)政府一部所有という特殊性により、最低限の収益が確保される と想定し、期待収益の変化を検討しなかった、(4)私有企業も含め、日本の投資家は一般に期待収 益の変化を検討しない、という4つの可能性を設定し、それぞれについて検証を行った。ブロー ドバンド・アンバンドル規制については、(2)の可能性が高いと考えられるものの、事例を更に広 げて(3)の可能性についても引き続き検証する必要がある、という結論が得られた。また、同規制 下における NTT のブロードバンド網投資計画発表に関しては、(3)の可能性が高いが、やはり事 例を拡大して検証結果の頑健性を確認する必要があることが明らかになった。

以上により、NTTの非政府株主は、ブロードバンド・アンバンドル規制によって期待収益は変

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化しないと判断し、同規制下におけるNTTのブロードバンド網投資計画については期待収益の変 化判断を行っていなかったと考えられることから、NTTの所有形態や組織形態によって非政府株 主の利益確保が妨げられたわけではなかった、と考えられる。また、ブロードバンド・アンバン ドル規制の導入や同規制下におけるブロードバンド網投資に対して、株価の変動を通じた株主か らのプレッシャーがなかったことが、規制の施行やブロードバンド網投資が他国に比べスムーズ に進み、ブロードバンド網の整備が早期に実現した要因の一つであった可能性が考えられる。

ただし、これをもって、非政府株主の行動にコーポレート・ガバナンスが全く影響を与えなか ったと断言することはできない。ブロードバンド・アンバンドル規制について期待収益の変化が ないと判断した理由、及び同規制下におけるNTTのブロードバンド網投資計画について期待収益 変化の判断を行わなかった理由に、政府と非政府株主との間における情報法の非対称性や、NTT 持株会社・地域会社に対する研究開発義務・研究成果普及の義務の影響が関係している可能性が ある。したがって、日本におけるブロードバンド網整備とコーポレート・ガバナンスの関係に関 して、今後も検証を続ける必要があると考えられる。

この他、今後に向けた課題として、本研究に適用したイベント・スタディ法の方法としての限 界にいかに対応するか、という点が挙げられる。1985 年の民営化以来、NTT の経営形態・事業 範囲の見直しは断続的に政治的な議論の対象となってきた。1990 年に FTTH 網整備計画として 世界に先駆けて発表された「VI&P構想」は、NTT分割論議をけん制するためにNTTが講じた 打ち手であった、と指摘されている(依田 2007)。この他にも、日米接続料交渉を初めとして、

規制に関する問題がNTTの経営形態・事業範囲の見直しと組み合わせて議論されることが多かっ たため、そういった議論の影響が株価に織り込まれていた可能性を否定することはできない。し かし、イベント・スタディ法ではそのような影響を切り分けて因果関係を直接的に検証すること はできない。したがって、NTTの非政府株主が、ブロードバンド・アンバンドル規制についてど のように期待収益の変化を判断したのか、同規制下におけるNTTのブロードバンド網投資計画に ついてなぜ期待収益変化の判断を行わなかったのか、という点について、イベント・スタディ法 以外の方法で分析を行い、検証の頑健性を高めるべきであると考えられる。例えば、株主総会に おける質疑応答の記録は、非政府株主の意向を直接的に把握できる手段であるが、NTTのIR部 門に問い合わせたところ、株主総会の議事録は株主以外には非公開であるとの回答を受け、本研 究に取り入れることはできなかった。直接的な情報の把握の手段として、株主や証券アナリスト などへのヒアリングも有効であると想定されることから、今後、研究を更に精緻化することが可 能であると考えられる。

更に、事例数が限定的である点にも留意が必要である。ブロードバンド・アンバンドル規制の 事例として、ADSL規制導入、FTTH規制導入、FTTH規制撤廃に関する政治論議、FTTH規制 撤廃論議、NGN規制導入の5件についてNTT持株会社の株価の反応を分析したほか、ADSL規 制導入及びFTTH規制導入に対するKDD、(K)DDI、日本テレコム、ソフトバンクの合計4社の 株価の反応を検証した。また、OCN 事業関連ニュースについてNTT1社、MNPについてNTT ドコモ、KDDI、ボーダフォン、ソフトバンクの4社、日米接続料交渉についてNTT1社、NTT のブロードバンド網整備計画発表について NTT、富士通、ニフティ、NEC、ソネットの 5 社、

各社のR&D成果や革新的サービスの発表についてNTT、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの

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4社、特許価値銘柄について被選定企業10社の株価の反応を、それぞれ分析した。検証結果の頑 健性を高めるためには、他の規制分野やイノベーション関連イベントに対象を広げて検証を続け るべきであると考えられる。また、イベント・スタディ法の手法としての限界により、分析対象 のイベント期間中及び前後に競合イベントが発生している場合、対象イベントの株価への影響を 切り分けることが困難である。事例を増やすことに加えて、競合イベントが発生していないイベ ントを量的に確保することにも留意する必要がある。更に、本研究はブロードバンド網整備に焦 点を絞っているが、分析対象を他の被規制産業に広げて、規制変更やイノベーションに対する政 府一部所有企業・私有企業の株主の反応を検証し、ブロードバンド網整備や情報通信産業におけ る結果が特殊なのか或いは普遍性を持つのかについて、議論を深めることが望まれる。

本研究では、ブロードバンド・アンバンドル規制と同規制下における既存事業者によるブロー ドバンド網投資という問題に、株主という新しい視点を取り入れ、日本の事例について検証した。

株主、或いは所有形態という視点を取り入れることの一般的な有効性については、他の国の事例 についても検証して検討する必要がある。クロスナショナル分析は一つの手段であると考えられ るが、Cho(1998)が指摘するように、所有形態とイノベーションなどの企業戦略には内生性が 存在すると考えられ、有効な操作変数(Instrumental Variable)もこれまでのところ提案されて いない。したがって、本研究のような国単位の詳細な分析を並行して行うことで、所有形態とい う考え方の一般的な有効性を考えていくべきであろう。

このように、本研究は、これだけで完結するという性格のものではない。しかし、ブロードバ ンド・アンバンドル規制と同規制下における既存事業者によるブロードバンド網投資という問題 を新たな視点から捉える試みの第一段階として、大きな意味を持つ研究であると位置づけること が可能である。今後、以上に挙げたような追加的な分析によって本研究の結論が補完・修正され、

ブロードバンド網投資、ひいてはブロードバンドの普及に関する研究が発展することが望まれる。

144 謝 辞

本論文の指導教員である早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の三友仁志教授には、研究の構 想段階から論文完成に至るまで、研究のあらゆる面に関してご指導いただいた。副指導教員であ る早稲田大学大学院政治学研究科の縣公一郎教授、論文指導委員会委員である駒澤大学グローバ ル・メディア・スタディーズ学部の福家秀紀教授及び早稲田大学の北村歳治名誉教授には、本論 文の作成に当たって数々の有益なご助言をいただいた。また、早稲田大学大学院アジア太平洋研 究科博士後期課程で三友仁志教授の指導を受ける院生諸氏からも、数々のコメントをいただいた。

このほか、ここではお名前を挙げることができない多数の方々より、仕事と研究の両立の面で多 大なるご協力・ご支援を賜った。本論文の完成に際しお世話になった方々に、ここに深く感謝の 意を表したい。

145 略語一覧

ADSL: Asymmetric Digital Subscriber Line 非対称デジタル加入者回線 CATV:Community Antenna Television ケーブルテレビ

DSL:Digital Subscriber Line デジタル加入者回線 EU: European Union 欧州連合

FCC: Federal Communications Commission 連邦通信委員会 FTTH: Fiber To The Home

FWA : Fixed Wireless Access

ILEC:Incumbent Local Exchange Carrier 地域系既存通信事業者 ISDN: Integrated Services Digital Network 総合デジタル通信網 ISP: Internet Service Provider

ITU: International Telecommunication Union 国際電気通信連合 LLU: Local Loop Unbundling アンバンドル規制

MDF: Main Distribution Frame

MDGs: Millennium Development Goals ミレニアム開発目標 NGN: Next Generation Network 次世代ネットワーク

NTT: Nippon Telegraph and Telephone Corporation 日本電信電話株式会社

OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development 経済協力開発機構 OCN: Open Computer Network

PSTN: Public Switched Telephone Network 公衆交換電話網 R&D: Research and Development 研究開発

SDSL:Symmetric Digital Subscriber Line 対称デジタル加入者回線 SNS: Social Network Service

TELRIC: Total Element Long Run Incremental Cost 全要素長期増分コスト USTR:The United State Trade Representative 米国通商代表部

VDSL:Very high-bit-rate Digital Subscriber Line

VI&P: Visual, Intelligent and Personal communication service xDSL:Digital Subscriber Line デジタル加入者回線技術の総称