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第 4 章 分析枠組み、仮説、方法、及びデータ

4.3 方法

4.3.1. イベント・スタディ法の概要

非政府株主がFTTHアンバンドル規制やNTTのFTTH網投資継続によって東西地域会社の期 待収益にどのような影響があると考えたかを検証するために、株価の変動を対象としてイベン ト・スタディ法による分析を行う。

イベント・スタディ法は、企業の合併や買収、収益の公表、増資など、経済上のイベントが企 業の価値に与える影響を測定する方法として、学術・実務の両分野において広く利用されている。

具体的な方法については 4.3.2 で詳しく触れるが、あるイベントが当該企業の期待収益にプラス の影響を与えると投資家が判断した場合、株価が有意に上昇する、という前提に基づき、イベン ト発生日の株価が期待値から有意にかい離しているかどうかによってイベントの影響を測定する、

というのが、イベント・スタディ法の基本的な考え方である。企業価値に影響があると想定され る情報は、正確に判断され速やかに株価に反映される、という効率的市場仮説を前提とするため、

期待収益に影響を与えるイベントに対して株価は短期間で反応すると仮定するが、規制変更のよ うに、時間をかけて議論された上で実現するため期待収益への影響も議論の方向性が定まるにつ れて徐々に株価に反映される可能性があるイベントについても分析が可能となるよう、様々な方 法が開発されている。

規制変更に対してイベント・スタディ法を適用した先行研究には、金融政策を対象としたもの が数多く見られる。情報通信を初めとするネットワーク産業における規制の分析にも適用されて おり、2.1で確認した先行研究はすべて、イベント・スタディ法を適用したものである。また、そ れほど数は多くないが、イノベーション(R&D)や設備投資関連の発表に対する株価の反応を分 析した例もあり、2.3.2で取り上げた先行研究はすべて、イベント・スタディ法を適用している。

このように、情報通信産業における規制や、イノベーションや設備投資に関するニュースが企 業価値に与える影響の分析において、数多くの成果が得られていることから、本研究においてイ ベント・スタディ法を適用することは妥当であると考えられる。

ただし、この方法では、当該イベントと同じ時期に、期待収益に影響を与えるような他のイベ ントが発生していないことを前提として、当該イベントの発生のタイミングと株価の変動のタイ ミングとの関係から、当該イベントを株価変動の要因であると推定する。したがって、当該イベ ントと株価の変動の因果関係を厳密に検証するものではないことに留意が必要である。

4.3.2. イベント・スタディ法の基本的な考え方

4.3.1で述べた通り、イベント発生日の株価が期待値から有意にかい離しているかどうかによっ

てイベントの影響を測定する、というのが、イベント・スタディ法の基本的な考え方である。算 定方法は何種類かのバリエーションがあるが、近年の研究では、分析対象企業の株価の対前日収

益率を TOPIX などの市場インデックスの対前日変化率と線形に関連付けて考える、市場モデル

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と呼ばれる方法が広く用いられている40。この方法では、企業iの株価のt日における対前日収益 率 は以下の式によって表される。

= + + (式4-1)

ただし、

=(Pit-Pit-1)/Pit-1:企業iの株価Pitの対前日収益率

=(Pmt-Pmt-1)/Pmt-1:市場インデックスPmtの対前日変化率

、 :パラメータ

:誤差項

は期待値ゼロ、分散 の誤差項であり、企業特有要因を表す。つまり、この方法では、分析 対象企業の対前日収益率の変化を、株式市場全体に関わる要因( )と企業特有要因( )に 分解して考える(Mitchell & Netter 1994)。

分析対象のイベントが発生した当日(イベント日:t=0)の企業iの株価の期待収益率 ( | )) は、以下の式によって計算される。

( | ) = + (式4-2)

企業iの株価のイベント日の超過収益率( )は、実際に観察された対前日収益率( )か ら期待収益率( ( | ))を減じることによって求められる。

= − ( | ) = − − (式4-3)

と は、イベントに先行する一定の期間(推定期間)における対象企業iの株価の対前日収益 率を、市場インデックスの対前日変化率で最小二乗法によって回帰分析することによって求めら れる。推定期間の設定は様々であるが、典型的には、暦年で約1年間に相当する250営業日が採 られる。イベントの種類によっては、イベント日より前に情報が流れて株価が変動する可能性が ある。この可能性を排除するため、推定期間をイベント日の数日前に終了するよう設定する。例 えば、イベント前 10 日間を除外期間と想定する場合、推定期間は、イベント日260 営業日前か ら11営業日前までの250営業日と設定される。

イベントが企業 i の株価に影響を与えたかどうかは、超過収益率がゼロから有意にかい離して いるかどうかによって判断される。その際には、イベント日の超過収益率を標準化した値を検定 に用いる。

= (式4-4)

ここでは、 として推定期間における の標準偏差を用いる。推定期間が250営業日のように 十分長い場合、 は標準正規分布に従うと想定することができる。 がゼロから有意にか

40 イベント・スタディ法の様々なバリエーションについてはCampbell et al.(1997)、Corrado

(2011)に詳しい。

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い離している場合、分析対象のイベントが企業iの株価に影響を与えた、と解釈される。

イベントが報道発表を伴う場合は、その時間帯や意図的な事前の記者のリークなどによって、

イベントの影響がイベント日前日や翌日にも表出する可能性がある。そのため、イベント期間を イベント一両日に設定して検証することがある。その場合は、イベント期間中の を合算する ことによって得られる累積標準化超過収益率(SCARit)を検定量として用いる。

= ∑ (式4-5)

以上は、ある単一の企業の株価に対する単一のイベントの影響を検定するための手順である。

実際の研究では、複数の企業、複数のイベントが分析の対象になるため、単一企業・単一イベン トの検定量を合算して平均値を求めるなどの手順を経て、検定が行われる。規制変更は、長期間 にわたって規制の内容や実施日が検討されるなど、イベントの効果の現れ方が特殊であるため、

特別な方法が採られる。

4.3.3. 規制変更を分析対象とするイベント・スタディの方法

イベントとしての規制変更には、大きく3点の特徴があると考えられる。第一に、実質的なイ ベント日を特定することが困難である場合が多いという点である。通常、規制の変更は時間をか けて議論される。規制変更に関する議論の途中経過が報道される、或いは政府によって中間見解 が発表されるなど、名目上のイベントの特定は可能であるが、特定の名目上のイベントが株価に 決定的な影響を与えるのではなく、規制変更議論期間中に徐々に影響が株価に反映される可能性 がある(Campbell et al. 1997)。

第二に、同じ業種の企業が同じ日にイベントの影響を受けるという点である。

一般的なイベント・スタディ法では、既に述べたように、①単一のイベントの株価への影響を企 業ごとに算定、②①の結果を集計して検定、という2段階が踏まれる。この手法では、各企業に おける超過収益率の間に相関関係(共分散)がないことが前提とされる(Campbell et al. 1997)。 例えば、事故や食品偽装などの不正、買収・合併など、企業によってイベントの発生日が異なる 場合は、各企業の超過収益率に共分散はないと考えられるため、一般的なイベント・スタディ法 をそのまま適用することが可能である。一方、規制変更のように複数の企業にとってイベント日 が同一である場合、イベント日における超過収益率の変動が、イベントの影響なのか、その他の 産業特有の要因によるものなのかを特定する必要がある(Binder 1985:168)。

第三に、規制の内容によっては、企業によって逆の影響を受ける可能性があるという点である。

例えば、情報通信産業などにおける非対称規制の場合、被規制企業と競争事業者とで効果が全く 逆に働く可能性が考えられる。このような場合、一般的な方法に基づいて集計すると、個々の企 業に対する影響が相殺されてしまう可能性がある。

このような問題を解決して規制の変更の株価に与える影響を正確に検証するために、様々な工 夫が行われてきている。それらの改善方法は、前述の市場モデルを基本としてダミー変数を導入 し、①企業特有効果( )の検証方法を工夫するもの、②市場インデックス( )のパラメー