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第 4 章 分析枠組み、仮説、方法、及びデータ

4.1 分析枠組み

本研究では、NTTの所有・組織形態がブロードバンド網整備進展に与えた影響を考察するため に、(1)ブロードバンドに対するアンバンドル規制の導入、及び(2)ブロードバンド・アンバンドル 規制の下でのNTTのブロードバンド網投資計画に対するNTT(持株会社)株価の反応を検証す る。

多くの先行研究や米国の事例に見られるように、ブロードバンド・アンバンドル規制や同規制 下におけるブロードバンド網投資によって期待収益が減少すると考えたのであれば、非政府株主 は株式を売却し、その結果株価が下落したと想定される。更に、コーポレート・ガバナンス論が 論じる通り市場によるモニタリングが作動していれば、株価の下落は経営者にとってシグナルと なり、米国の ADSL アンバンドル規制撤廃の経緯と同様、NTT がブロードバンドに対するアン バンドル規制の導入に徹底的に抵抗するとともに、ブロードバンド網投資を見合わせたと想定さ れる。しかし、実際には、NTTは抵抗したものの、政府の意向通りブロードバンドに対するアン バンドル規制は導入され、同規制の下でNTTによるブロードバンド網に対する投資は継続された。

したがって、NTT持株会社の株価が下落していたのであれば、シグナルは発出されていたにもか かわらず功を奏さず、非政府株主の利益は確保されなかった、と解釈することが可能である。こ の可能性を検討するために、ブロードバンド・アンバンドル規制の導入及び同規制下における NTT によるブロードバンド網投資計画に対して、NTT 持株会社の株価が有意に反応していたか どうかを検証する。ただし、ここで、NTTが持株会社という組織形態を採っていることに留意す る必要がある。NTT持株会社の株価は、ブロードバンド網事業を担当する東西地域会社だけでな く、他の連結子会社の事業も含め、NTTグループ全体の期待収益の変化を反映すると考えられる。

そのため、地域会社以外の連結子会社の影響を除去した後のNTT持株会社の株価の変動を併せて 分析する必要がある。影響除去前と除去後の株価がともに下落していたのであれば、株主から期 待収益悪化のシグナルが発出されていたが利益は確保されなかった、と解釈される(図表 4-1ケ

ース番号 1-①、図表 4-2 ケース番号2-①)。また、影響除去前の株価は下落していたが除去後の

株価は下落していなかったのであれば、持株会社の株価は他の連結子会社の期待収益の悪化を反 映して変動していたと考えられ、ブロードバンド・アンバンドル規制や同規制下におけるブロー ドバンド網投資計画によって期待収益は悪化しないと株主に判断されていたと想定される(図表 4-1ケース番号1-②、図表4-2ケース番号2-②)。この場合、株主はそもそも期待収益の悪化を想 定していなかったことから、ブロードバンド・アンバンドル規制の施行や同規制下におけるNTT のブロードバンド網投資が実行されたことによって株主の利益は確保されたと見なすことができ る。

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連結子会社の影響除去前のNTT持株会社の株価が有意に負に反応していなかった場合、その理 由として4つの可能性が考えられる。第一に、アンバンドル規制や同規制下におけるブロードバ ンド網投資計画によってNTTの地域事業の期待収益が悪化すると株主が考えていたが、持株会社 という組織形態を採っているため、他の連結子会社の事業の期待収益の拡大と相殺され、NTT持 株会社の株価の変動として表出しなかったという可能性である。この可能性を検証するために、

東西地域会社以外の連結子会社の影響を除去した後の NTT 持株会社の株価がどのように反応し ているかを確認する。影響除去後の株価が有意に負に反応していれば、非政府株主は地域事業の 期待収益が減少すると考えていたが、持株会社方式によってシグナルが適正に発出されず、株主 の利益は確保されなかった、と解釈される(図表4-1ケース番号1-③、図表4-2ケース番号2-③)。

持株会社の株価が無反応である第二の理由として、NTTの非政府株主は、アンバンドル規制や 同規制下におけるブロードバンド網投資計画による期待収益の変化の可能性を検討した結果、変 化しないと判断したため株価が変動しなかった、という可能性が考えられる。

第三の可能性として、米国のILECは私有企業であるのに対してNTTは政府一部所有企業であ り、私有企業と政府一部所有企業とでは株主の行動原理が異なる、という点が考えられる。Vaaler

& Schrage(2009)によれば、政府による株式の少数保有は、一部政府所有企業の戦略への支持、

経済的な運命を共にするという意志、企業の将来的な成功へのある程度のコミットメントなどを 表すものとして、非政府株主にプラスに評価される。また、Bortolotti et al.(2013)は、独立規 制機関が存在するが被規制企業において政府が大きな支配力を有している場合、政府が規制によ って間接的に「救いの手」を差し伸べるだろうとの期待によって、市場価値が高く評価される、

としている。こういった先行研究による指摘と同じように、NTTの非政府株主が、株式所有やそ の他のモニタリング制度を通じた政府の積極的な関与は、政府がNTTグループの収益を保証して いることを表していると捉え、政府は、収益が極端に悪化するようなことは規制は行わないだろ うし、NTTが収益を悪化するような戦略を選択しようとした場合は阻止するだろう、と予想した 可能性が考えられる。

第四に、従来日本では債権者である銀行による経営参加を通じたモニタリング(メイン・バン ク制)が主流であり、米国型ガバナンス形態とのハイブリッド化が進んだのは 2000 年代に入っ てからであったため(Aoki et al. 2007、Aoki 2010など)、ブロードバンド・アンバンドル規制の 検討・導入期(2000年代)には株価の変動を通じた株主によるモニタリングという制度が十分に 機能していなかった、という可能性が考えられる。

第二から第四の三つの可能性について検討するために、二つの検証を行う。まず、政府一部所 有企業が関わるアンバンドル規制以外の規制変更及びブロードバンド網投資以外のイノベーショ ンについて、当該企業の株価が有意に反応しているかどうかを分析する。次に、一般的な私有企 業が関係する規制変更やイノベーションについて、当該企業の株価が有意に反応しているかどう かを検証する。第一の検証において政府一部所有企業の株価が有意に負に変動している場合、非 政府株主は、一般論として規制やイノベーションに関する個別の案件について期待収益の変化の 可能性を精査していると考えられ、アンバンドル規制やブロードバンド網投資計画に対して株価 が有意に反応しなかったのは、精査の上それらがNTT東西地域会社の期待収益に大きな影響を与 えないと判断したからである、と想定される(図4-1ケース番号1-④、図4-2ケース番号2-④)。

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また、第一の検証において政府一部所有企業の株価が有意に反応しておらず、かつ、第二の検証 において私有企業の株価が有意に反応している場合は、私有企業の株主は期待収益の変化の可能 性を精査しているが、政府一部所有企業の非政府株主は精査しておらず、私有企業の株主と政府 一部所有企業の株主とでは行動原理が異なる、と解釈することができる(図4-1ケース番号1-⑤、

図4-2ケース番号2-⑤)。更に、いずれの検証においても株価が有意に反応していない場合は、日 本の投資家は一般的に規制変更やイノベーションに関して期待収益の変更を検証していない、と 考えられる(図4-1ケース番号1-⑥、図4-2ケース番号2-⑥)。なお、第二~第四の可能性におい ては、NTTの非政府株主は何らかの理由によって期待収益が変化しないと判断した、或いは期待 収益の変化について検証を行わなかったと考えられるため、ブロードバンド・アンバンドル規制 や同規制下におけるブロードバンド網投資によってその利益が損なわれてはいなかった、と見な すことができる。

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図表4-1 ブロードバンド・アンバンドル規制に対するNTT持株会社の株価の反応

筆者作成

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図表4-2 NTTのブロードバンド網投資計画に対するNTT持株会社の株価の反応

筆者作成

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