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作業仮説 1-3②の検証:携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)に対する

第 5 章 実証分析:ブロードバンドに対するアンバンドル規制に対する

5.5 作業仮説 1-3②の検証:携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)に対する

価の反応

5.5.1. MNPの背景と概要

番号ポータビリティとは、電話サービスの利用者が、契約先の事業者を変更した場合に、変更 前に利用していた電話番号を変更先の事業者でも利用し続けることを可能とする制度である。電 話番号の継続使用を可能とすることで、利用者がより気軽に契約先事業者をNTTから競争事業者 に変更することが可能となり、ひいては競争が活発化することが期待されることから、日本では、

1996 年12月 19日に公表された郵政省電気通信審議会答申「接続の基本的ルールの在り方につ いて」において、一般加入電話番号、ISDN 番号、着信課金サービス用番号について、番号ポー タビリティを確保すべきであるとされた。この答申を受け、2001年3月に、一般加入電話番号に ついてはNTT東西の固定電話から他社への片方向について、着信課金サービス用番号については 両方向について、それぞれ番号ポータビリティが導入されている。

番号ポータビリティの携帯電話分野への導入は、2001年に総務省に設置された「情報通信新時 代のビジネスモデルと競争環境整備の在り方に関する研究会」で議論が開始され、2003年11月 に同省に設置された「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」において議論が 本格化した。携帯電話分野では、競争を活発化する上で、番号ポータビリティのほか、携帯電話 サービスと端末が一体的に販売されている(垂直統合)という問題や、SIM(UIM)カードがロ ックされていることによって契約先事業者を変更した場合に変更前に利用していた端末を引き続 き利用することができなくなる、といった問題も存在することから、これらについても併せて議 論が行われた。また、当時すでに携帯メールが広く利用されていたため、メール・アドレスも継 続利用を可能としない限り、電話番号だけ継続利用が可能でも不十分である、といった指摘もな された。議論の末、垂直統合と SIM(UIM)カードロック解除の問題は継続議論の対象とされ、

携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)については2006年度のなるべく早い時期を目途に、全 携帯電話事業者の全方式において同時に導入すべきである、との結論に達した。この報告書を受 けて導入準備が進められ、2006年10月24日にMNPの提供が開始された。MNP提供開始前日 に、ソフトバンクが自社の契約者同士の通話について定額料金制を導入する発表を行い、提供開 始直後の週末に同社への転入手続きが集中した。その結果、同社は 10月28日と29日にMNP の受付を中止した。また、同社の広告に対して公正取引委員会が調査を行ったり、システム障害 によりKDDIも一時MNPの受付を中止したりするなど、制度運用当初から同年末まで混乱が続 いた。

5.5.2. 具体的な方法と対象イベント

ADSL・FTTH・NGNアンバンドル規制及び日米接続料交渉に関するイベント・スタディ分析

と同様に、式4-6に基づく以下の回帰式によって分析を行う。ただし、被説明変数は、NTT持株 会社ではなく、NTTドコモの株価の対前日収益率とする。

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= + + +

:NTTドコモの株価の対前日収益率

:TOPIXの対前日変化率

:(1)イベント期間ダミー変数、(2)イベント日全体ダミー変数、(3)個別イベント日ダミー変数

:誤差項

、 、 :パラメータ

帰無仮説は、 : =0と設定する。

イベント期間は、2001年8月10日(総務省「情報通信新時代のビジネスモデルと競争環境整 備の在り方に関する研究会」の第1回会合)から、2006年12月18日(KDDIがシステム障害 のため停止していた MNP の受付を再開)までとする。また、推定期間は、イベント期間の 250 日前から前日までの 250 日間とする。イベントに関するダミー変数は、以下の 3 種類を設定し、

それぞれについて回帰分析を行う。

(1) イベント期間ダミー変数:①イベント期間中の全営業日についてダミー変数=1、②初回イベ ント前日から最終イベント翌日までについてダミー変数=1

(2) イベント日全体ダミー変数:①イベント当日のみダミー変数=1、②イベント当日及び前後の 日についてダミー変数=1

(3) 個別イベント日ダミー変数:①イベント当日のみダミー変数=1、②イベント当日及び前後の 日についてダミー変数=1、ただし、隣接する営業日に他のイベントがある場合は、連続する 1つのイベント期間として扱う。

具体的な分析対象イベントは、巻末の付表1-9の通りである。

5.5.3. 分析結果

5.5.3.1. イベント期間ダミー変数による分析

イベント期間ダミー変数による回帰分析の結果は、巻末の付表 2-33の通りである。「情報通信 新時代のビジネスモデルと競争環境市日の在り方に関する研究会」第1回会合(2001年8月10 日)からKDDIのMNP受付再開(2006年12月18日)までをイベント期間とした場合(列(1))、 及び同研究会第1回会合の前日からKDDIのMNP受付再開の翌日までをイベント期間とした場 合(列(2))のいずれについても、イベント期間ダミー変数の係数はマイナスとなっている。ただ し、いずれの場合も有意ではなく、帰無仮説を棄却することはできない。

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5.5.3.2. イベント日全体ダミー変数による分析

巻末の付表2-34は、MNP関連イベントに関して、イベント当日(イベント日:0)、前日(イ ベント日:-1)、翌日(イベント日:+1)、前日から当日の2日間(イベント日:-1, 0)、当日から 翌日の2日間(イベント日:0, +1)、翌日から当日の3日間(イベント日:-1, 0, +1)の6種類に ついて、回帰分析を行った結果である。6 パターンのうち、当日(列(1))以外について符号はマ イナス、当日はプラスとなっているが、いずれについても統計上有意にはならず、帰無仮説を棄 却することはできない。

5.5.3.3. 個別イベント日ダミー変数による分析

巻末の付表2-35は、MNP関連イベントについて個別イベント日ダミー変数で回帰分析した結 果をまとめたものである。単日(列(1)~(3))及び連続日(列(4)~(6))のいずれについても個別 イベント日ダミー変数の係数が有意であったのは、M2、M4、M15、M25、M31である。

M2(2001年8月29日)は、総務省「情報通信新時代のビジネスモデルと競争環境整備の在り 方に関する研究会」の第2回会合が開催された日であり、翌30日に会合の内容が新聞で報道され ている(日経産業新聞)。イベント日ダミー変数の係数は、前日(列(2))及び前日から当日の 2 日間(列(4))において有意にマイナスとなっている。この時期に、NTTドコモの期待収益に影響 を与えると想定される競合イベントは発生していない。

M4(2001年12月13日)は、同研究会が中間報告書草案を公表し、意見募集を開始した日で

ある。草案では、次世代携帯電話(3G)の登場に伴い、MNPの実現を視野に入れ、SIMロック などの他の携帯電話分野の問題と一体的に検討する場を設けることが適当である、と提言されて いる。イベント日ダミー変数の係数の符号はすべてマイナスであり、中でも前日(列(2))、前日 から当日の2日間(列(4))及び前日から翌日の3日間(列(6))において有意となっている。なお、

前々日に当たる11日に、10月の国内における携帯電話機出荷台数が前年比28.0%減であったこ とが電子情報技術産業協会から発表され、前日に当たる翌12日に新聞で報道されている(日経産 業新聞)。このニュースが株価の有意な負の反応に影響を与えている可能性も考えられる。

M15(2003年9月18日)には、総務省の平成14 年度電気通信番号に関する研究会の報告書

に、「携帯電話の番号ポータビリティに関する勉強会」による報告書が添付され、公表されている。

同勉強会報告書では、MNP導入には設備投資が必要であり、そのコストが最終的に利用者に転嫁 されることから、ユーザー・ニーズを十分把握した上で導入を決定すべきであること、また、導 入が決定した場合は、昨日提供や費用負担の在り方、顧客サービス体制などについて十分議論し た上で、関係事業者間での運用ルールを確立すべきであることなどが提言されている。イベント 日ダミー変数の係数は、翌日(列(3))及び当日から翌日の2日間(列(5))において有意にマイナ スとなっている。イベント当日に当たる18日に、不具合につき端末約2万4000台を無償交換し たことをNTTドコモが発表し、イベント翌日に当たる翌19日にその旨新聞で報道されている(日 本経済新聞朝刊)。このニュースが、株価の有意な負の反応に影響を与えた可能性を否定すること はできない。

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M25(2004年8月12日)には、NTTドコモ及びKDDIが、契約会社を切り替えた顧客向け

に、9月 1日に番号案内サービスを開始する旨発表を行っている。イベント日ダミー変数の係数 の符号はすべてプラスであり、翌日(列(3))、当日から翌日(列(5))及び前日から翌日(列(6))

において有意となっている。この時期に、NTTドコモの期待収益に影響を与えることが想定され るイベントは発生していない。

M31(2006年5月17日)は、各事業者より、MNP手続き方法や導入時期が発表された日で

ある。イベント日ダミー変数の係数の符号はすべてプラスであり、翌日(列(3))、当日から翌日 の2日間(列(5))及び前日から翌日の3日間(列(6))において有意となっている。この時期に、

NTTドコモの期待収益に影響を与えることが想定されるイベントは発生していない。

5.5.4. 考察

競合イベントの影響を排除することができないM4及びM15を除くと、イベント期間の前半で 係数が有意となった M2において、イベント日ダミー変数の符号はマイナスとなっており、制度 の内容の不確定性や競争激化への懸念などが影響していたことが考えられる。また、MNP導入決 定後、方法や導入時期がある程度明確になったイベント(M31)では係数が有意にプラスとなっ ており、制度の内容がほぼ確定したことが好感された可能性が考えられる。なお、M25は、高額 な設備投資を必要とせずに顧客の満足度を上昇させる効果があるサービスであることが、投資家 にプラスに評価されたことが考えられる。

2006年4月からMNPが導入される10月にかけて、NTTドコモの株価パフォーマンスはKDDI

を20%以上下回ったが、これはMNP導入に伴う警戒感によるものであり、MNPによるマイナ

スの影響はこの時期に大方織り込まれた、との見方がされている(日経マネー2006年10月号)。 これは、規制の影響が徐々に株価に反映されたことを示唆するものである。

また、イベント期間が約5年間と非常に長く、イベント期間中にNTTドコモの株価とTOPIX の相関関係の程度が変化した可能性も考えられる。更に、契約者の減少が続いていたボーダフォ ンを買収することで、ソフトバンクが固定網と携帯電話の両方に対応する総合的な電気通信事業 者として本格的に携帯電話事業に参入し、MNPの有無にかかわらず競争状況が大きく変化した可 能性があったことにも留意が必要である。