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社会開発

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第Ⅲ章  希望開発としての平和構築学[児玉克哉]

3.  希望開発への条件

3.3  社会開発

3.3.1  民主主義と選挙 

  社会開発という概念は、平和構築において幾重にも重要である。まず第一に、民主的な 政治決定能力を高めることが、平和において極めて重要であるということである。戦争や 紛争は、本質的には、武力による権力闘争のことである。武力を使うことなく、民主的に

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決定がなされるシステムの構築は平和構築の重要な核である。民主主義のチャンネルを通 じての改革がなされない社会においては、権力を握っていない人々は武力による社会改革 を模索する。こうした社会においては、権力者の側も武力によって支配するシステムを確 立しており、まさに武力対武力の構図が簡単にできあがるのである。民族間の権力争いが 顕在化している現代においては、武力を用いずに「公平」で「公正」な社会を実現するシ ステムを構築することはますます重要となっている。 

  もちろん、民主主義の定義は簡単ではない。民主主義を 20 世紀に導入した国は多い。し かし選挙で多数決制度が導入されている国でも、少数派の意見が踏みにじられていること が多いというのも現実である。選挙そのものが、金力や不正によってあやしいケースもあ るし、また選挙の結果によって勝者がすべてを得るような歪んだシステムもある。民主主 義の形骸化である。民族間、エスニシティ間の武力による対立を回避するには、より良い 選挙制度の導入とともに、選挙における不正の排除、そしてなによりも意見が異なる者へ の寛容さに裏打ちされた民主主義文化の確立が必要なのである。 

  戦争や紛争の後の平和構築においては、こうした民主主義制度の確立は困難な作業であ る。戦争・紛争では民主主義という概念が軽んじられ、勝者が敗者を支配するという原則 が打ち立てられる。その文化を経験した後に、民主主義の制度づくりをすることはかなり 難しい作業である。 

  公平で公正な選挙制度の導入は、なによりも優先される社会開発の課題といえる。もち ろん 100%公平で公正な選挙制度は定義からしても難しいが、できるだけそれに向けて努 力することは社会がどのレベルにあっても重要なことである。デモクラティックピース論 によるまでもなく、民主主義の成熟度は武力によらない問題の解決の決定的に重要な要素 である。東ティモール、カンボジア、南アフリカなど様々な地域で、国際的な選挙監視支 援活動が行われてきた。民主選挙は、紛争地や途上国の将来を決めるうえで重要な意味を 持つわけであり、民主選挙が成功しないならまた武力による権力闘争の芽が芽生えること になる。 

  私たちは、民主選挙と非民主選挙というように二分法で理解しがちであるが、非民主選 挙から民主選挙への相違はグラデーションである。アメリカや日本など、いわゆる「民主 国家」における選挙もどれほど民主的といえるのかどうか、分析する必要がある。日本の 選挙で当選するためには、「ジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)」の 3 つのバンが必 要だとされており、地盤は後援組織、看板は知名度、鞄は選挙資金を意味する。政策論争 などほとんどなく、3つのバンで行われる選挙は、社会を希望へと導くものではなく、様々 な暴力の温床となる。 

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3.3.2  富の公平な配分 

  発展途上国における開発は、これまで経済開発を中心として取り組まれてきたといえる。

構造的暴力の一つといえる貧困をあらわす指標としては、国別の国民所得の平均値が使わ れ、「南」の国は、いかに「北」の国に比べて貧しいかということが主張されてきた。現在 のおいても「北」と「南」のギャップは決して縮まっているとはいえないばかりか、さら に拡大している部分もあり、国家間の貧富の差の問題が解決されているわけではない。し かし、貧困の問題を国の単位で考えることの問題も明らかになってきた。1970 年代に入る と、経済成長により富が増加しても、途上国の国民全てが平等にうるおっているわけでは ないということが次第にわかってきたのである。発展途上国に投資された巨大な援助は、

その国における貧富の差を拡大させることにつながり、経済発展のプロセスから取残され、

経済成長の恩恵に浴さない貧困層が存在するのである。経済開発は、社会開発を伴って、

富の公平な配分を行わなければ、構造的暴力を弱めることに繋がらない。 

  内発的発展論とも重なるが、巨額の投資による開発はその利益に群がる一部の特権階級 だけを潤わせることになりがちである。国が富んでも人々は貧しさに苦しむことも可能性 としてある。いや、これはむしろ一般的に起こりつつある現象といえる。特に発展途上国 の「開発」によくある資源開発では、この傾向は顕著である。石油や天然ガス、鉱物の採 掘は巨大な額のお金を発展途上国にもたらすが、ほとんどの場合、その利益は一部の特権 階級に独占され、貧困の解決に結びつかない。イラクは世界有数の産油国であり、アンゴ ラは石油だけでなくダイヤモンドの産出国である。スーダンとコロンビアも産油国であり、

カンボジアもサファイア、ルビーの産出国である。こうした豊かであるはずの国に強い構 造的暴力が存在し、直接的暴力へと結びついていくプロセスを理解しなくてはならない。 

グローバリゼーションの巨大な波の中で、平均としての国力は向上していても、この経 済発展のプロセスから取り残され、切り捨てられる弱者は増加している。現代における開 発の課題は、経済開発の視点に加え、社会開発の視点からの取り組みが重要となっている。 

3.3.3  社会的弱者の社会保障と政治参加 

  国際的開発機関は、巨大プロジェクトによる外発的発展の弊害に実践の中から認識する ようになった。富の集中が行われ、取り残された貧困を少なくするように意識されるよう になってきた。最近は、取り残された貧困というコンセプトだけでなく、取り残された社 会的弱者(マイノリティ)の社会保障と政治参加への配慮が重要な課題としてクローズア ップされてきた。漠然とした貧困というだけでなく、貧困の連鎖の中から抜け出せない社

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会的弱者に対する配慮をすべきだというのである。 

  この社会的弱者には、スラム居住者、少数民族、先住民、女性、子ども、高齢者などが 含まれる。すべての人に希望を保障するという姿勢が問われる時代となったのである。貧 困だけが問題ではない。より大きな問題は、その貧困から抜け出す方法と過程(シナリオ)

を持つことができない人が多くいるということである。社会的弱者にも政治参画と社会参 加がどれだけ保障されていて、「声なき声」が社会改革に意味を持つ環境を創れるかどうか は大きなポイントなる。少数民族は、往々にして政治参画と社会参加から遠ざけられ、貧 困の連鎖の中に置かれる。彼らのアイデンティティ意識が目覚めた時、この状況を変える のに武力に訴える以外の方法論を見出せないとすると、現実的なシナリオは武力による抵 抗とそれをさらに強い武力で押さえつけようとする権力者の反発である。 

開発における女性の役割の重要性も強く認識されるようになった。女性は、途上国社会 の貧困層のなかでも最も抑圧、搾取されている層に属することが多い。発展途上国での経 済開発が国際機関のもとに行われてきても、女性の状況は必ずしも改善されなかった。「開 発」が自然と共に生きてきた女性たちの経済的基盤を崩し、女性を貧困に追いやる場合す らあった。女性の厳しい状況に対して、女性により積極的な雇用や市場へのアクセスを促 す WID(「開発と女性」)路線3やジェンダー関係の改革を目標に据えた GAD(「ジェンダー と開発」)戦略4がとられてきた。女性が社会開発の担い手として認識されてきたのである。 

社会的弱者も政治参画と社会参画のできる社会は、すべての人が希望と誇りを持てると いう視点からも重要である。人権の基本的なコンセプトは、希望と誇りが持てることであ ると思う。それのできる社会開発を行うことが、平和構築においても重要なポイントであ る。 

3.3.4  ガバナンス 

  社会開発の問題は、ガバナンス(統治)のあり方ということができる。ガバナンスとは、

3  WIDとは Women in Development の略。途上国の開発援助にあたって、地域における女性 の社会的・経済的役割や状況を十分に把握し、考慮して進めていくべきであるという理念を表す。

ナイロビ将来計画にも明記され、女性が開発の受益者としてだけでなく、開発の主体としても積 極的に参画する必要性が叫ばれている。 

 

4  GADとは Gender and Development の略。1980 年代にジェンダーの概念が広まると、女 性の状況の改善のためには、女性自身の能力開発だけでなく、男性との関係を総合的に問いなお していく方向が必要と考えられるようになった。総合的な社会システムの改革を求める発想であ る。 

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