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実施における留意点

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第Ⅴ章  予防開発のための紛争要因分析論[大平剛]

1.  紛争予防と開発援助

1.3  紛争要因の分析

1.3.3  実施における留意点

  国際協力機構(JICA)をはじめ、多くの援助機関による紛争分析手法はいまだ開発の途 上にあり、プロジェクトを実施する際にいくつかの国において実験的に用いられているの が実状である。 

多くの機関が作成している紛争分析手法に共通している点として、プロジェクト自体が 状況を悪化させない、つまり  “Do  No  Harm”の原則を打ち出している点である33。しかし ながら、いくつかのケースにおいては「可能であれば複合的に紛争予防の視点を積極的に 組み込む」という姿勢が貫かれているものの、現行のプロジェクトが状況を悪化させない ことに主眼が置かれているだけで、プロジェクトそのものを通して積極的に平和の芽を育 むというプロジェクト形成過程にはなっていないのが実状である。紛争状況それ自体を所 与のものとして捉え、その中で状況を悪化させない範囲でプロジェクトを策定し実施する ものであると捉えられる。つまり、マイナスの影響を最小限に留めることに主眼がおかれ た消極的な取り組み、あるいは紛争状況を所与と見なす受け身の取り組みであると言える のではないだろうか。 

    このような二国間援助機関による紛争分析手法に比べて、NGO による取り組みはもっと

30  同上論文。 

31  UNDP ボスニア事務所で早期警報報告書の編集責任者を務める Mr. Tarik Zaimovic 氏に対す る筆者のインタビューによる。 

32  国連政務局の担当官である Mr.Oleksandar Matsouka に対する筆者のインタビュー。 

33  Do No Harm の原則については、以下の文献を参照。Mary B. Anderson, Do No Harm: How  Aid Can Support Peace -or War, Boulder: Lynne Rienner Publisher, 1999(邦訳  大平剛訳

『諸刃の援助  紛争地での援助の二面性』明石書店、2006 年). 

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積極的である。たとえば、FEWER(Forum on Early Warning and Early Response)と呼 ばれる早期警報と早期反応に関する NGO と政府機関さらには学術機関の連合体による紛 争分析では、紛争を促す要因だけでなく平和を持続させる要因についても分析することに している。そこには、メアリー・アンダーソン(Mary B. Anderson)を中心とするグルー プによって提唱されてきた「平和へと向かう現地の力」を探し求め、「人々をつなぎとめる モノ」に基づいてプロジェクトを実施するという取り組みが認められる34。そのような NGO の取り組みには、二国間援助機関による紛争分析手法とそれに基づく援助の実施とは異な り、積極的に平和を創り出していこうとする発想が認められるのである。 

おわりに 

  開発援助は諸刃の剣である。社会に発展をもたらし、その果実が人々に届くことで人々 の暮らし向きが良くなることもあれば、その実施方法を誤れば社会に格差や不平等の種を 蒔き、ひいては社会に混乱を招くばかりか暴力的な紛争を生み出す要因にもなりかねない。

開発援助の歴史を振り返れば、そのような事態に至った例を数多く見つけることが出来る。

にもかかわらず、開発援助を用いて紛争の発生を予防しようとする試みがなされている。

それには、本稿で考察したように、1980 年代末頃から生じた開発援助哲学におけるパラダ イムシフトが影響し、個々の人間の潜在能力を重視するなかで正義の概念が援助哲学に盛 り込まれたことが大きく関係している。公正を追求する中でもっとも不遇な状態にある人 たちに焦点が合わせられ、彼らの状況の改善をめざす上で民主主義や人権といった政治課 題と開発援助とがリンクすることになったのである。かくして 1990 年代以降の開発援助は 従来以上に政治的な様相を纏うことになり、直接的に政治的な要求を掲げるようになった。

紛争予防と開発援助の関係もこの文脈の中で捉えることができる。 

  国連や世界銀行といった多国間援助機関においてだけでなく、DAC を中心とする二国間 援助機関においても紛争予防における開発援助の役割が議論され、予防文化の共有が図ら れてきた。現在は、開発援助によって紛争を予防するというコンセプトが共有され、それ を実施に移すための活動が模索されている段階であるといえる。実施のための方法の一つ が紛争要因分析手法の開発であり、いくつかのプロジェクトにおいてはすでに試行段階に ある。しかしながら、本稿で指摘したように、紛争を分析するには情報の収集が必須であ り、二国間援助組織や多国間援助組織の場合には、内政不干渉原則との抵触という問題が 立ちはだかるおそれがある。また、現地コミュニティのなかに溶け込まないかぎり、その 社会のなかの微妙な権力関係や格差の問題を理解することは出来ないであろう。 

34  同上書. 

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  二国間援助組織の手法とは異なり、NGO の中には紛争を促す要因だけでなく平和を促す 要因をも分析するものがある。また、現地社会が持つ平和へと向かう力を探し出し、積極 的に平和を創出しようとする取り組みも見られる。開発援助によって紛争を予防するには、

紛争状況を所与のものとして捉えてその条件の範囲内で消極的に活動を行うのではなく、

紛争状況下ないしは紛争後の社会であっても、平和の芽を探し出し、それを育む積極的な 取り組みが模索されるべきではないだろうか。 

参考文献   

大平剛「UNDP による紛争予防への取り組み――南東欧における早期警報システム構築に 関して――」『北九州市立大学外国語学部紀要』第 110 号、2004 年、117-139 頁。 

国際協力事業団(JICA)『事業戦略調査研究  平和構築報告書』国際協力事業団、2001 年。 

佐藤寛『開発援助の社会学』世界思想社、2006 年。 

下村恭民、斎藤淳、中川淳司『ODA 大綱の政治経済学』有斐閣、1999 年。 

千田善『なぜ戦争は終わらないか』みすず書房、2002 年。 

田中義晧『援助という外交戦略』朝日選書、1995 年。 

横田洋三「世界銀行の『非政治性』に関する一考察(一)(二)」『国際法外交雑誌』76 巻 2 号, 3 号。 

UNDP『人間開発報告書  1994』国際協力出版会、1994 年。 

UNDP『人間開発報告書  1996』国際協力出版会、1996 年。 

 Boutros-Ghali, B., An Agenda for Peace. 2nd ed. New York: United Nations, 1995. 

Carnegie Commission on Preventing Deadly Conflict, Preventing Deadly Conflict, New  York: Carnegie Corporation, 1997. 

Crawford, Gordon, Foreign Aid and Political Reform, Hampshire: Palgrave, 2001. 

Ginifer, Jeremy, “Development and the UN Peace Mission: A New Interface Required?” 

in Jeremy Ginifer (ed.), Beyond the Emergency -Development within UN Peace  Missions, London: Frank Cass, 1997. 

The International Commission on Intervention and Sovereignty, The Responsibility to  Protect, Ottawa: IDRC, 2001. 

Mary B. Anderson, Do No Harm: How Aid Can Support Peace -or War, Boulder: Lynne  Rienner Publisher, 1999(邦訳  大平剛訳『諸刃の援助  紛争地での援助の二面性』

明石書店、2006 年). 

OECD/DAC, The DAC Guidelines Helping Prevent Violent Conflict, Paris: OECD. 

Robert J. Muscat, Investing in Peace How Development Aid Can Prevent or Promote  Conflict, Armonk (New York) : M. E. Sharp, Inc, 2002. 

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UN  Document,  A/51/950,  1997  (“Renewing  the  United  Nations:  A  Programme  for  Reform”). 

World Bank, Governance and Development, Washington D.C.: The World Bank, 1992. 

World Bank, Post-Conflict Reconstruction: The Role of the World Bank, Washington  D.C.: The World Bank, 1998.

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