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予防文化の共有

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第Ⅴ章  予防開発のための紛争要因分析論[大平剛]

1.  紛争予防と開発援助

1.2  予防文化の浸透

1.2.2  予防文化の共有

1.2.2.1  国連における議論 

上述したように、1990 年代に多発化した内戦や破綻国家という新たな問題の打開に向け て、国連はそれまでの伝統的な PKO の形態から一歩踏み出し、平和執行型 PKO による介 入を試みた。これは、ガリ前事務総長がその報告書である『平和への課題』10で明らかにし た概念を実現させた野心的な試みであったが、ソマリアにおける失敗に見られるように、

その導入は国連 PKO 部隊自身が紛争の当事者と化してしまうことから、紛争解決の手段と しては誤った政策であったと言わざるを得ない。その一方で、国連エルサルバドル監視団

(ONUSAL)や国連モザンビーク活動(ONUMOZ)に見られるように、従来の停戦監視 のような PKO よりも、より包括的な活動である PKO が成功を収めた。この二つの国連平 和ミッションにおいて、「開発」が果たす役割の重要性が認識されたと言われており11、こ のことが、以下で詳細に論じる「紛争と開発」議論に大きく影響を与えたと言える。すな わち、紛争を解決するには直接的な要因の除去だけでは不十分で、根本的な原因の除去が 必要であり、開発がそのための一つの手段となり得ると考えられたのである。これらの事 例を契機として、このような認識が国際的な援助機関間で共有されるに至ったのである。 

また、先述したように、紛争が勃発して事後的に対処するよりも、紛争に至る前に行動 を起こす方が、人的および物理的な資源だけでなく費用的にも損害が少なくて済む、とい うことが強調されるようになり、「予防」に重点を置く戦略が採用されるようになった。こ れには、旧ユーゴスラビア・マケドニア共和国(以下、マケドニア)における予防展開

(preventive deployment)の成功による影響も大きい。マケドニアは、旧ユーゴ地域で次々 に起こる戦争がいつかは同国へと飛び火し、国内のアルバニア人とマケドニア人の対立を 激化させるのではないかとの懸念から、国連に対して PKO の予防展開を要請した12。その

10  Boutros-Ghali, B., An Agenda for Peace. 2nd ed. New York: United Nations, 1995. 

11  Ginifer, Jeremy, “Development and the UN Peace Mission: A New Interface Required?” 

in Jeremy Ginifer (ed.), Beyond the Emergency -Development within UN Peace Missions,  London: Frank Cass, 1997, p. 4. 

12  このような決断を下したのは、マケドニア大統領であったキーロ・グリゴロフであり、彼の 指導力を評価し直すべきだとの主張がある(千田善(2002)『なぜ戦争は終わらないか』みすず

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結果、マケドニアでは、国連 PKO(UNPREDEP)が展開している間は、民族間の対立が表 面化することはなかったのである13。このような成功事例を受けて、「予防」がキーワード として脚光を浴びるようになったものと考えられる。国連では様々な予防的活動を総称す る「予防行動」(preventive action)が唱えられることとなり、「予防の文化」(culture of  prevention)を構築することが推進され、それまでの「反応の文化」(culture of reaction)

からの脱却を図ることが目指されるようになったのである。このような動きは、『国連の再 生:改革に向けたイニシアティブ』14というアナン事務総長の報告書で提示された改革案が 実行に移されることで加速した。 

1.2.2.2  世界銀行における議論 

  紛争問題に世界銀行が関わるということは、国連が関わる以上に大きな意味がある。そ れは世界銀行という国際金融機関が持つ特有の原則に由来している。すなわち、ブレトン・

ウッズ機関には政経分離という前提による非政治性の原則があり15、元来は経済的な活動に のみ従事するという性格を有してきたからである。世界銀行協定では非政治性に関する五 原則が謳われており16、あくまでも経済的な領域に限定して活動を行うとされている。この ような原則は、例えばガヴァナンスの問題に対しても適用されており、民主主義体制とグ ッド・ガヴァナンスとが必ずしも一致するものではないと前置きした上でガヴァナンスの 改善に取り組んでおり、政治的な要素を極力排除しようとするその姿勢に如実に表れてい る。 

  非政治性原則は紛争予防についても同様に適用されるものであり、紛争と開発とを視野 書房、73-80 頁)。 

13  しかしながら、マケドニアに展開していた PKO の駐留延長をめぐって安保理で中国が拒否権 を行使し、PKO が撤退した後に、懸念されていたアルバニア人との衝突が生じた。中国が拒否 権を行使した背景には、マケドニアが台湾と国交を結び、台湾による技術協力を受け入れること を決定したことが影響していると言われている(千田、同上書)。 

14  UN Document, A/51/950, 1997 (“Renewing the United Nations: A Programme for  Reform”). 

15  世界銀行の非政治性については、次の文献を参照。横田洋三「世界銀行の『非政治性』に関 する一考察(一)(二)」『国際法外交雑誌』76 巻 2 号, 3 号。 

16  World Bank, Governance and Development (Washington D.C.: The World Bank, 1992), p. 

58.  ①世界銀行は、加盟国の政治的性格に影響されてはならない。②世界銀行は、加盟国の党派 に偏った政治に干渉してはならない。③世界銀行は、先進工業加盟国のために行動して、借入国 の政治的方向性あるいはその行動に影響を及ぼしてはならない。④世界銀行は、重大な経済効果 を持たない政治的要因によって、その決定を影響されてはならない。⑤世界銀行職員は、特定加 盟国の反応を基に判断を行ってはならない。 

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に入れる場合に避けては通れない問題である。そこで、世界銀行が紛争予防活動に関与す るに際して、改めてその取り組みを示す必要性から、次のような五項目が示されたのであ る17。 

 

① 世界銀行は、加盟国内における復興と開発への融資に関してその協定に規定さ れた権限を持つ国際機関である。債務国のための世界政府ではなく、無制限の 権限を有してはいない。 

② 世界銀行は平和創造や平和維持を担う機関ではない。これらは国連やいくつか の地域機構の役割である。しかしながら、世界銀行は開発における権限を通じ て、間接的に平和への努力を支援する。 

③ 協定の明確な条項の下、世界銀行は加盟国の政治的性格を問題にしない。また 加盟国の国内政治問題に干渉しない。 

④ 加盟国の承諾なしにその国の領域で活動は行わない(協定に拠れば、世界銀行 の資金と設備は加盟国の利益のためにのみ使用できる)。 

⑤ 世界銀行は救済機関ではない。協定にはローンや保証を通じて、生産的な目的 および国際貿易促進のための投資を助長あるいは融資することで、加盟国の復 興と開発を支援するという目的が定められている。 

 

  極めて政治的かつ内政問題でもある内戦という状況に関わるに当たって、世界銀行は上 記の原則に抵触しないことを示す必要性から、その本来の業務活動である経済的問題と紛 争問題とがどのように関連性を持っているのかを強調している。世界銀行によれば、紛争 とは貧困緩和に対する圧迫であり、国の進歩を止めるばかりか後退させる事態なのである18。 また、紛争とは貧困化の原因であると同時に結果でもあるという19。紛争後復興については、

単に物理的なインフラを整備することだけでもなければ、紛争前の社会経済インフラの再 建でもないとされる。つまり、紛争を引き起こす原因となった不公平な社会システムや弱 いガヴァナンスを改善して、平和の持続する社会づくりが「復興」の意味するところだと されている20。この意味で、紛争予防とりわけ再発予防に取り組んでいると捉えることが出 来る。 

17  World Bank, Post-Conflict Reconstruction: The Role of the World Bank (Washington  D.C.: The World Bank, 1998), p. 23. 

18  Ibid., p. 15. 

19  Ibid., p. 16.  なお、1980 年代以来、世界の最貧国 20 カ国のうち 15 カ国が長期にわたる紛 争を経験している。 

20  Ibid., p. 14. 

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  世界銀行は紛争状況を四つの段階に分け、それぞれの段階において関与する主体と活動 を分けて考えている21。まず、政治外交段階においては、主要国による紛争解決に向けた交 渉などが国連、NATO、EU、OSCE を通じて行われる。次に、平和維持活動を含む安全保 障の段階では、国連や NATO が行動し、救済および緊急援助の段階では、UNHCR や UNICEF、WFP、NGOs を通じての物資の供給が行われる。最後に復興開発援助の段階に おいて、EU、UNDP、NGOs や世界銀行、IMF といったブレトン・ウッズ機関が関わると される。 

  すでに述べたように、その元来の機関の性格上、世銀はもともと「紛争後の復興」のみ に関わるとされてきたが、現在では紛争分析手法を開発して、開発プロジェクト策定段階 にそれを組み込むとともに、紛争下でも活動を行い、早い段階から復興計画に携わってい こうとしている。このような方針変更の理由として、早期関与の成功例と早期段階での救 済機関との連携の必要性を示している。特に後者については、救済機関による援助が人々 の間に依存心を生じさせ、復興時の援助活動に悪影響をもたらすとの理由を述べ、早期段 階で UNHCR や国際赤十字社(ICRC)と対話を行うために現地に赴き、復興計画における 援助協調を主導していくとしている22。 

1.2.2.3 OECD/DAC における議論 

国連や世界銀行といった多国間援助組織による取り組みとともに重要なのが、先進諸国に よる二国間援助における紛争予防である。二国間援助の指針を方向付ける OECD の開発援 助委員会(DAC)で紛争と開発の議論が始まったのは、1995 年にこの問題に関するタスク・

フォースが組織されてからである。1997 年には最初の指針である Conflict,  Peace  and  Development Co-operation on the Threshold of the 21st Century が発表された。ここで 示された指針は、その年にデンバーで開かれた G8 サミットでも確認された。また、2001 年 に は 、先 の 指 針 を 補 完 す る新 た な 指 針 と し て Helping  Prevent  Violent  Conflict: 

Orientations for External Partners が発表され、これも 2001 年にローマで開かれた G8 外 相会議でその重要性が確認された。このように、OECD/DAC における議論は、先進国首脳 会議で追認される形を取り、主要な援助大国を巻き込む形で援助指針の共有化をもたらし ていったと捉えることが出来る。この項では、DAC によって示された二つの指針が、紛争 と開発に関する議論の中でどのような役割と意義をもったのかを検討する。 

  DAC における議論は、1990 年代初頭の紛争多発状況下において、多くの人々が脆弱な

21  Ibid., p. 20. 

22  Ibid., pp. 29-39. 

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