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人間の安全保障による人間の安全保障のための「平和構築」

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第一部  平和構築学総論:その理念と方法[佐藤安信]

4.  人間の安全保障による人間の安全保障のための「平和構築」

  上記国連首脳会議での国連平和構築委員会設置の決議に基づき同年 12 月には同委員会が 設置されて既に活動を開始している10。日本の ODA 大綱が主要課題の1つとして取り上げ たこの「平和構築」は、以下に述べるようにもともと国連平和維持活動(PKO)の試行錯 誤による発展の中から生まれた。つまり国連の平和活動における新たな課題として主張さ れたものである。前国連事務総長のガリ氏が、1992 年に「平和への課題」という小冊子に おいて、冷戦後の国連強化のための提言として、予防外交、平和創造、平和維持、紛争後 の平和構築、地域機関との協力などを挙げた。ここでは、平和構築は停戦を実現する平和 創造、停戦を維持する平和維持に対して、紛争後(あるいは平和維持活動の後)の復興か ら平和への定着に至る段階のことを意味した。しかし、紛争後の平和構築は、紛争の再発 防止という紛争予防を行うことであり、紛争が再燃すればこれを調停して武力衝突を収め、

停戦を維持するということまで実質上含むことになる。このいわば紛争の循環を図示した のが下の図1である。 

9  UN 

(A/RES/60/1)<http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/GEN/N05/487/60/PDF/N0548760.pd f?OpenElement> 

10  UN 

(A/RES/60/180)<http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/GEN/N05/498/40/PDF/N0549840.

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第 I 章  人間の安全保障のための平和構築学をめざして(佐藤)  31     

   

                     

                 

           

 

図 1 

以下、国連平和維持活動の経験から平和構築に至る過程を簡単に振り返ってみよう。 

1992−93 年の国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)は第二世代の PKO ともいわれ、

これまでにない文民による包括的な活動が注目された。これは、総選挙による正統政府の 樹立支援が UNTAC の最終目的(任務)であったからである。そのために、難民の帰還と 再定住、人権擁護、政治的自由の促進、自由かつ公正な選挙実施を確保するためのインフ ラの復旧・復興の任務を与えられ、また実際行った。92−95 年に旧ユーゴの紛争に派遣さ れた国連保護隊(UNPROFOR)は、停戦合意自身の有効性が問われた中で派遣され、紛争 の拡大を国連の存在によって抑止しようとした。その任務は国連 PKO が現実には十分な武 力を行使できないという限界によって達成できず、NATO の軍事力によって取って代わら れることになった。これと対照的な PKO が 93−95 年にソマリア紛争に派遣された第二次 国連ソマリア活動(UNOSOMS )であった。これは、ガリ事務総長が前出の「平和への課 題」の中で触れた peace-enforcement  (平和執行)のために武力行使にまで踏み入ったがた めに、紛争の当事者となって失敗してしまった。99−02 年の国連東チモール行政機構

(UNTAET)は、東チモールの選挙後の混乱と多国籍軍の治安維持を受けて、復興支援と いう狭義の平和構築を主要任務とする PKO と位置付けられる。そこには紛争の再発防止の ための開発援助の応用が見られる。国連 PKO の任務は復興支援、紛争予防、紛争の調停と いう紛争を非暴力的に処理するあらゆる局面に拡大し、これら一連の活動を包括する広義 の平和構築に取り組むことになってきたのである。 

このような国連平和維持活動の試行錯誤を受けて、OECD(経済協力開発機構)の DAC

(開発援助委員会)は、これら一連の活動を包括する平和構築概念を採用し、97 年に「紛

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争、平和と開発協力に関するガイドライン」において、紛争前、紛争中および紛争直後、

紛争後の各段階における開発援助の果たす役割の重要性を確認した。その上で、「暴力なし に紛争を管理する能力を強化することは持続可能な開発の基礎」であるとして、さらに開 発援助の目的は、「法の支配の強化」と「民主化プロセスへの一般市民の参加」の促進であ るとして、段階ごとに具体的な提言を行っている。DAC は 2001 年に同ガイドラインの追 補を出し、2003 年にはこれらを総括した、Helping Prevent Violent Conflict  というガイ ドラインに纏めている。これには、紛争予防を中心的な課題として、ジェンダーやビジネ スなどの新たな観点を盛り込まれている。国連も 2000 年 8 月に発表されたいわゆる Brahimi Report により、平和維持活動の役割強化のため、紛争予防の強化、平和維持と平 和構築の不可分性の認識、「法の支配」の強化などを提唱し、平和構築を包括的に捉えてい る。このように現在では、平和構築の概念は、開発援助との連携を一層図って武力紛争の 予防を射程に入れた包括的なものとして主張されているのである。このように平和構築を 包括的なものとして広義に定義すると、とりあえず「武力紛争の(再発)予防をして平和 を定着させる一連の活動」ということができるが、DAC は上記 97 年のガイドラインにお いて、平和構築を「人間の安全保障のための持続可能な環境を作る手段である」と定義し ていることが注目される。 

  なるほど、平和構築は最終的にはすべての人間の安全保障を確保するための手段かもし れない。しかしながら、人間の安全保障の視点は、平和構築という一連のプロセスの中で 常に意識しなければならないという意味で、人間の安全保障も平和構築の手段と位置づけ るべきであろう。冷戦後の紛争は、国家間の紛争よりは、内戦や地域紛争であることが多 く、構築すべき平和は、国家間の安全というよりは、国家を超えた人間の安全にシフトし てきているからである。つまりこのような武力紛争から逃れる難民、避難民などの安全を 確保することによって平和を構築することがめざされなければならない。そうでなければ 平和構築のために邪魔になる人間の安全を脅かすことを正当化しかねず、その行き着く先 の平和は、「墓場の平和」という逆説に立ち至るかもしれない。しかし紛争に苦しむ人間の 安全保障のために行われる一時的な保護や人道支援では依存関係を招来しかねない。また ルワンダ紛争における難民保護が武力紛争当事者への支援になってしまったともいわれる ように、人間の安全保障の追求がかえって紛争を長期化・拡大するなどして平和構築と矛 盾し、ひいては難民の安全も最終的には保障されないというジレンマに苛まれることにも なる11。ここに、緊急人道支援による難民、避難民などの保護から始まって、復興支援・開 発援助による自立をめざす一連の継続した活動をどのような優先順位でいかなる方法で行 うべきかという研究が求められるのである。このように、これら広義の「難民」12の安全を

11  篠田英朗「人間の安全保障の観点からみたアフリカの平和構築」望月克哉編 2006『人間の安 全保障の射程』アジア経済研究所、26−31. 

12  難民概念については、注 11 で述べるとおり、条約上の定義における狭義の概念があるが、こ

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保障するために開発援助をどのように応用するかが、人間の安全保障の観点からする平和 構築の課題の核心となる。開発において人間に焦点を当て直そうする人間の安全保障論は、

平和構築において誰のための平和かを問い、開発の権力性を暴く視座を提供するという意 味で極めて重要である。 

  このような人間の安全保障による人間の安全保障のための平和構築支援を論ずるには、

これまでの開発研究を土台に、当面以下の 4 つの研究分野が想定できよう。つまり、①社 会には当然存在すべき紛争を暴力によらずに処理するための民主的政治プロセスと、正義 の実現のための法の支配としての紛争管理ガバナンス、②貧富の格差や社会的差別などの 紛争の要因を探求しこれを緩和するための経済・社会開発、③紛争中の避難民へ医療、食 料、テントなど救命および紛争直後の復旧・復興のための人道・復興援助、さらに④長期 的な視点から平和の定着、永続化のための和解や相互理解を醸成し、暴力的紛争を予防す る人文・教育分野に焦点を当てた予防開発である人間開発。これら 4 分野は、現実には連 続し、相互に重なりあい、絡み合っているので総合して研究する必要がある(下図 2 参照)。 

  たとえば、「民主主義」と「法の支配」は紛争を非暴力で処理する制度だが、同時に紛争 の要因である差別や抑圧という人権侵害を是正し、人権を伸長するための制度的保障でも ある。暴力的紛争でこれらの制度が破綻している場合、正義は復讐に読み替えられ、復讐 の応酬という「暴力の悪循環」を生む。これを断ち切って「平和の好循環」に転じるため には、許し合うことを通じた紛争の非暴力的処理制度復興ための展望、いわゆるトランジ ッショナル・ジャスティスの課題がある。これは暴力的で抑圧的な紛争社会の構造を非暴 力的に解体し、新たな制度構築と抑圧された人々の自律と協力を促進するという人間開発 に連なる総合的な課題である。 

         

                       

   

         

     

      図 2 [筆者作成] 

こでは紛争被害者をさす。 

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