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包括紛争処理:固有の非公式伝統法を折衷させる可能性

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第Ⅳ章  紛争管理のためのガバナンス論

1.  移行期正義と包括紛争処理李[佐藤安信]

1.7  包括紛争処理:固有の非公式伝統法を折衷させる可能性

処罰が先か和解が先かは、議論の余地があるところであるものの、応報的正義と修復的 正義は車の両輪のように互いに必要である。反発するのではなく、双方が連動し、相互補 完関係になるような契機を有しているともいえる。紛争処理における強制と合意の契機と 同様に、その組み合わせによるバリエーションを、現地の歴史伝統文化などの人々の価値 観を探りながらタイミングを得て、オーダーメードで作っていかなければならないであろ う。あらゆる紛争に共通する処方箋はない。また、処罰か和解かのような二分法的な明快 なアプローチはかえって危険である。むしろ試行錯誤のなかで手探りによるバランスで中 庸を取る方法論が重要であろう。 

特に国連などの国際機関や先進国は、グローバリゼーションの渦中で、価値中立な対抗 的な手法を原則とすることに慣れており、ともするとその価値観を先入観として持ち込み、

法の支配という文脈で近代法制度の押し付けに帰するような支援をすることも多い。日本 を含む先進国では、近時、対抗主義的な手法に対し、和解を調達するメディエーションや 調停を ADR という言い方で取り入れる動きをしている。しかし、日本も近代法制度を移入 する前はそうであったように、閉鎖された社会にあってはむしろ価値を共有する者同士の 権威者による調停が原則であったように思われる。したがって、調停などを裁判の補助的 な手段、いわば、次善の策のごとく考える ADR という発想ではなく、むしろ、近代法制度 や裁判制度で解決すべきことはもともと限られた部分的なものに過ぎなかったという視点 に立ち返る必要がある。裁判を合意である和解に至る手段としての第三者の介入というよ うに発想の転換が必要なのではなかろうか。筆者はこのような和解を原則とした全体的な 紛争処理のシステムを包括的紛争処理と呼ぶ。紛争予防や紛争回避も含めて広く紛争管理 のガバナンスを構想する必要がある。 

その際重要なのは、価値規範が相違する者同士の紛争にゲーム的な論理で手続きのみの 正義を議論して後は力の論理で対応することは、際限のない暴力の循環をもたらす危険の あることをまず再認識することである。その上で、相手の価値規範を理解し、尊重して、

共通の土俵である価値規範を模索しその中で少しずつ合意を調達していく。第三者による 関与や強制の契機も必要ではあるが、あくまでそれは当事者の対話を促す枠組みとして支 援していく。これはメディエーションの手法である。あるいは共通の権威を見出せばその 者による説得という調停的手法ということもありえよう。さらに、中立の第三者への信頼 が厚ければ、その判断に拘束されるとする仲裁という手法も有効であるはずである。これ らは現地の文化、伝統、価値観や生活習慣に則ったものでなければ容易に機能はしない。

したがって現地の法律家あるいは宗教者など紛争を非暴力的に処理するプロと外部者であ る者との協働作業である。他方、単なる価値規範だけでなく、ともに助け合って豊かな生

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活を作るような経済社会構造アプローチや政治的動機づけも重要である。つまり、紛争の 種になっている原因に対し、これをゼロサム的なアプローチで考えるのではなく、いわゆ る win−win となるような建設的な提案を双方当事者が考慮できるような条件を作るので ある。 

この場合重要なことは外部の基準を安易に持ち込むことではなく、むしろ地域に根ざし ている固有の伝統的手法を見直し、自発的に発展させる手法である。その意味で東チモー ルでのアダットの利用や、ルワンダでのガチャチャの利用が注目される。しかし、これら 伝統の手法は国連はじめ援助機関が外部基準を持ち込むための単なる緩衝材ではないとい うことに留意すべきである。もちろん伝統的手法には、現地の権力関係が反映され、基本 的人権を侵害すると思われる手続きもあろう。その意味で、近代的な法の支配の理念に照 らして、伝統法とその慣習的紛争処理を修正、改良することは重要である。しかし他方、

先進国では通用しても現地の現実に通用しないこともまた多い。これを無視すると結局制 度自身が形骸化し、本質的なことが潜ってしまい、法の支配への信頼を帰って損なう事態 にもなる危険がある。むしろ、先進国の技術から現地での適正技術を見出して応用し、現 地において持続可能にするように、現地にあるものを利用するある種のブラコラージュ的 なアプローチで、換骨奪胎する作業が不可欠なのである。 

さらに、最終的には人間の心理を考慮に入れた双方の許しあいをもたらす条件を模索す ることが重要であろう。報復の欲望はその感情的な反応であることからすれば、それをコ ントロールするような気づきや発想の転換も必要なのである。その意味で教育を通じた息 の長い関わりの中で徐々に紛争を非暴力的に処理する自律的能力が自発的に育まれる環境 を醸成していくことが迂遠ではあるが肝要であろう。 

主要参考文献 

長谷川公一(1997)『社会学入門:紛争理解を通して学ぶ社会学』放送大学教育振興会  レビン小林久子訳・編(2003)、モートン・ドイッチ=ピーター・T・コールマン編『紛争管 理論:新たな視点と方向性』日本加除出版株式会社 

上杉勇司(2004)『変わりゆく国連 PKO と紛争解決』明石書店  Ruti G. Teitel (2000) Transitional Justice, Oxford University Press 

メアリー・カルドー著、山本武彦=渡部正樹訳(2003)『新戦争論:グローバル時代の組織的 暴力』岩波書店 

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多谷千香子(2005)『「民族浄化」を裁く:旧ユーゴ戦犯法廷の現場から』岩波新書  同(2006)『戦争犯罪と法』岩波書店 

プリシラ・B/ヘイナー著、阿部利洋訳(2006)『語りえぬ真実:真実委員会の挑戦、平凡社  Tim  Kesall  (2005) “Truth,  Lies,  Ritual:  Preliminary  Reflections  on  the  Truth  and  Reconciliations  on  the  Truce  and  Reconciliation  Commission  in  Sierra  Leone,”  27  Human Rights Quarterly, 361-391.   

William  A.  Scabas  (2003)  “The  Relationship  Between  Truth  Commissions  and  International  Courts:  The  Case  of  Sierra  Leone 、 25  Human  Rights  Quarterly,  1035-1066. 

山田満他編著(2005)『新しい平和構築論:紛争予防から復興支援まで』明石書店 

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