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序論

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第Ⅳ章  紛争管理のためのガバナンス論

2.  平和構築と民主主義:理論と経験[水田慎一]

2.1  序論

    第Ⅳ章  紛争管理のためのガバナンス論(平和構築と民主主義・水田)  91     

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社会的安定は人これらの人々が自由な意思を表明できる状況により促進されると述べてい る3。 

平和構築において民主主義の実現が重要であるとの立場は、その後の国連文書において も一貫している。例えば、2000 年 8 月に発表された『国連平和活動に関する委員会報告

(Report of the Panel on United Nations Peace Operations)』(いわゆる『ブラヒミ・レ ポート』)は、平和構築概念の再整理・定義を行っているが、そこでも平和構築における民 主主義の実現の重要性が指摘されている。『ブラヒミ・レポート』は、平和構築を「平和の 基礎を再構築し、この基礎の上に単なる戦争の不在以上のものを作り上げること」と定義 した上で、平和構築活動の具体的内容として、法の支配強化、人権尊重促進、選挙支援、

メディア支援等の民主的発展のための支援等を例示している4。 

開発援助の世界においても、紛争国に平和をもたらすためには民主化の促進が必要であ り、最終的に民主主義を実現することがその国に平和をもたらすことにつながると理解さ れている。経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)が発表した「暴力紛争予防 支援のための DAC ガイドライン(DAC Guideline on Helping Prevent Violent Conflict)」

は、「民主主義構築を通じた平和構築(Peacebuilding through Democracy-building)」と いう項目を掲げ、平和構築のためには民主主義の促進が不可欠であることを謳っている5。 とりわけ、同ガイドラインは、中長期的な紛争の再発を防ぎ、持続可能な平和を実現する ために民主主義を構築することの重要性を指摘する。すなわち、「民主主義の特質を備え、

民主主義を支える制度能力を有する政府システムにおいては、暴力無しに持続的に紛争を 管理できる可能性が最も高い」という。 

このように平和構築の到達点として自由民主主義国家の建設を目標とすることは、今日、

自由民主主義国家と言われる国のあり様を観察すると妥当な目標であるようにも思える。

今日、自由民主主義国家と言われる国々においては、人々に政治参加の自由、表現の自由 等の基本的人権が保障され、当事者間の争議は武力的な手段によらず裁判や話し合いなど 平和的な手段によって解決されるメカニズムが構築されており、持続的平和が築かれてい るように見られる。したがって、持続可能な平和を実現することを目標とする平和構築と いう取り組みにおいて、自由民主主義国家の建設を最終目標として掲げることはそれ自体 妥当性があるように思われる。 

3  Butros-Ghali, 1992, para 81 

4  United Nations. 2000, Report of the Panel on United Nations Peace Operations, para 13 

5  Organization for Economic Co-operation and Development/ Development Assistance  Committee (OECD/DAC), 2001, DAC Guideline on Helping Prevent Violent Conflict: 

Orientations for External Partners 

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しかしながら、自由民主主義国家を建設するという最終目標と、そのために必要な手段と しての自由民主主義原理の導入・促進や、自由民主主義国家の短期的な実現可能性は区別 して考える必要がある。自由民主主義国家をつくり上げるために最もシンプルで広く実践 されているアプローチは、自由民主主義の原理と手続きを導入するというアプローチであ る。その基本となるのが、自由民主主義の理念に基づく憲法を制定し、選挙を通じて行政 のリーダーや議員を選出するという手続きを進めることである。 

このようなアプローチは、決して歴史の浅いアプローチではないが、1990 年代以降、国 連や主要先進国が主体的に関与し、平和構築活動が行われている紛争経験国に対しては特 に典型的なアプローチとして広く適用されているものである。しかし、その実践結果は必 ずしも芳しくない。確かに、ナミビアやエルサルバドルといった国々のように、国際社会 による支援の下で紛争終結直後から民主化プロセスを進め、今日に至って自由民主主義国 家としての資格要件を備えたと評価される国もある6。しかし一方で、選挙に向けた準備を 進める過程で紛争当事者間の争いが再燃したり、選挙が行われた場合であっても選挙結果 を不服として紛争が再発したりするようなケースは後を絶たない。また、民主化を進める 中で、紛争再発の難は免れ、安定への軌道に載り始めた国を見ても、その多くでは国際社 会が理想とするような自由民主主義は達成されない(=「非民主的」)形で安定している(=

紛争が再発していない)国家が多いのが現実である。 

このような現実を見た場合に、自然と沸いてくる疑問は、そもそもポストコンフリクト国 に平和的な自由民主主義国家を建設することは可能なのであろうか、仮に可能であるとし ても国際社会で一般に考えられているように外部からの支援がありさえすれば予見可能な 短期間の間にそのようなことを実現すると考えることが妥当なのであろうか、という問い であろう。仮に、中長期的に自由民主主義国家建設を目指すことが正しいとしても、それ まで武力による戦いが行われていたポストコンフリクトという状況においては、少なくと も短期的には、紛争の再発を予防することが最優先であり、あえて自由民主主義の進展を 遅らせることが正しいアプローチかもしれない。 

この問いに対する答えは、ポストコンフリクト国に対する国際社会の取り組みに対する評 価のあり方を大きく左右する。実際、ポストコンフリクト国の中には、「非民主的」な形で 安定している国が多くある。自由民主主義国家の建設が短期的にも実現できると固く信じ る論者たちは、このような非民主的安定国家を平和構築の失敗と見なす。また、これらの 論者にとっては、ポストコンフリクト国に平和を実現するために最も重要なのは、民主化

6  今日、これら 2 つの国は、Freedom House の基準で「自由国家(free country)」とランクさ れている(Freedom House, 2005, Freedom in the World 2005: The Annual Survey of  Political Rights and Civil Liberties, Lanham, MD: Rowman & Littlefield Publishers, Inc)。 

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を進めることであり、その国の状況にかかわらず民主化を推進することが政策プライオリ ティの上位に位置することになる。 

これに対して、ポストコンフリクト国において、少なくとも短期的には平和的な形で自由 民主主義国家を実現することが困難な場合があるという前提に立てば、非民主的安定を実 現している国に対する評価は異なってくる。すなわち、ポストコンフリクト国において特 定の条件が満たされる場合にそもそも自由民主主義国家の実現が不可能であるのならば、

非民主的な形で国内平和が実現されている国を平和構築の「失敗」例と見なすべきではな く、むしろ、少なくとも短期的には妥当な到達点にたどり着いた国、より積極的に評価す れば平和構築に「成功」した国と見なされるべきであろう。もちろん、このような国につ いては、それで平和構築という取り組みが終了するとみなされるべきではなく、紛争再発 を防ぎながら民主国家に移行させていくための中長期的な戦略を検討する必要があろう。 

このように平和構築と民主主義の間には正負双方の関係が存在すると考えられるが、本論 では、平和構築と民主主義が持つ相互関係について理論的及び経験的側面から検討を加え ることとする。本論は以下の構成を取る。第一に、自由民主主義の促進が国内平和の実現 につながるという主張の理論的根拠について検討する。第二に、第一の主張に対する反証 として、自由民主主義の促進がかえって国内を不安定化させ、紛争の再発・発生を助長す るという主張について検討する。第三に、平和構築の一環として民主化に向けた取り組み がなされてきている具体的事例としてカンボジアとエルサルバドルを取り上げて、これら の国々における民主化の経験について検討する。最後に、以上から得られるインプリケー ションを示す。 

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