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民主化と紛争の再発・助長

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第Ⅳ章  紛争管理のためのガバナンス論

2.  平和構築と民主主義:理論と経験[水田慎一]

2.2  理論的考察

2.2.2  民主化と紛争の再発・助長

民主化が国内平和を促進するという民主的国内平和論の主張に対し、民主化はむしろ国 内情勢を不安定化し、最悪の場合には紛争を再発させる場合があると結論付ける先行研究 がある。 

Snyder は、民族主義(nationalism)が果たす役割に焦点をあて、民族的な分断軸が顕 在化していたり、または潜在的であっても存在したりする国・社会においては、民主化=

政治的自由化の促進が、民族的差異を軸とした紛争を発生させる危険性があることを、具 体的な事例をもとに検証した12。彼の主張によれば、民主主義という価値が根付いた社会に おいては、言語、宗教、伝統といった文化的・民族的価値のみならず、政治的思想・信条 や経済・社会的利益などの多様な価値軸によって政治グループが構成され、それらが相互 に牽制しあって安定的な政治プロセスが実現するが、そのような民主主義的文化が根付か ないところに多数決原理といった形式的な民主制度を導入すると、言語、宗教、伝統とい った相違を克服することが困難な対立軸に沿ってグループが構成され、これらのグループ 間の紛争の発生可能性を高めるというのである。 

また、ポストコンフリクト国における民主化がその国の平和と安定に与える影響に直接 焦点をあてた研究としては、Paris による研究がある13。彼は、1989 年から 1999 年にかけ て大規模な国際ミッション14が展開したポストコンフリクト国を対象として、11 カ国の事

12  Jack Snyder, 2000, From Voting to Violence: Democratization and Nationalist Conflict,  New York: W. W. Norton & Company, Inc. 

13  Roland Paris, 2004, At War’s End: Building Peace After Civil Conflict, New York: 

Cambridge University Press 

14  Paris(2004)は、“大規模”であることの基準として、最低 200 名以上の国際軍事要員が展開し たという基準を用いている。また、“国際”ミッションであることの要件として、国連安全保障理 事会決議に基づいて展開しているミッションであることを挙げている。 

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例に関する研究を行い、これらの国々の多くにおいて、急速な政治的自由化が国内情勢の 不安定化につながり、最悪の場合には紛争再発に至らしめたケースがあることを具体的に 示した。そして、これらの事例を踏まえ、民主化が不安定化をもたらす国に共通して見ら れる症状として、“悪しき”市民社会の存在、政治リーダーによる“民族主義”の乱用、権威主 義政権による選挙を通じた自己正当化といった現象が見られることを指摘している15。 

これらの研究はケース・スタディ・アプローチによる研究であるが、民主的国内平和論 に対する統計分析を用いた批判研究としては、Hegre et al による研究が良く知られている16。 彼らは、政治体制と国内紛争の発生との相関関係を統計データによって分析し、権威主義 的国家と成熟民主主義国家では国内紛争の発生率が低く、両者の中間にある準民主主義国

(semi-democracy  または anocracy と呼ばれる)では国内紛争の発生率が高いことを示し た17。また、過去数年間の間に政治体制の変化を経験した国は、そうでない国に比べて国内 紛争の発生率が高いことを示した18。そして、これらの結果を元に、民主化への移行期にあ る国では国内紛争が発生する確率が高いとして、民主的国内平和論に対する疑問を投げか けた。 

このように民主化が国内不安定をもたらすと主張する論者たちは、民主化に伴う危険性 に警笛を鳴らしつつも、民主的国内平和の実現可能性そのものについては肯定的であるか、

少なくとも実現可能性そのものを否定する議論はしていない。むしろ、これらの論者は、

制度整備等の一定程度の条件整備を行った上で民主化を進めることによって、ポストコン フリクト国にも民主的平和を実現することが可能であるという主張を行っている。 

例えば、Paris は、ポストコンフリクト国に民主主義を実現するための戦略として、自由 化(liberalization)を進める前に制度化(institutionalization)を実現すべきであるという

15  Ibid. 

16  Havard Hegre, Tanja Ellingsen, Scott Gates, and Nils Petter Gleditsch, 2001, “Toward a  Democratic Civil Peace? Democracy, Political Change, and Civil War, 1816-1992”,  American Political Science Review 95:1 

17  このほか、同様の結論を導き出した研究として、Edward N. Muller and Erich Weede, 1990, 

“Cross-National Variations in Political Violence: A Rational Action Approace”, Journal of  Conflict Resolution 34:4, 624-51.Muller and Weede(1990); Ronald A Francisco, 1995, “The  Relationship between Coercion and Protest: An Empirical Evaluation in Three Coercive  States”, Journal of Conflict Resolution 39:2, 263-82.がある。   

18  このほか、政体変化が起こることが国内情勢を不安定化させ、国内紛争の発生可能性を高め るとした研究成果としては Michael Bratton and Nicholas van de Walle, 1996, Democratic  Experiments in Africa: Regime Transitions in Comparative Perspective, Cambridge: 

Cambridge University; Gretchen Casper and Michelle M. Taylor, 1996, Negotiating  Democracy: Transitions from Authoritarian Rule, Pittsburgh, PA: University of Pittsburgh  Press がある。 

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IBL(Institutionalization Before Liberalization)戦略を提唱している19。また、Snyder は、

一定程度の経済発展、知識市民層の存在、権力エリートによる支持、法の支配・市民権を 確保するための一連の制度の存在といった条件を挙げ、これらの条件が整えば政治的自由 化によって生ずる紛争再発の危険性がコントロールされうると指摘している20。言い換えれ ば、彼らは、制度整備等の一定の条件を整えれば民主化を通じた平和を実現することがで きるといういわば「条件付」民主的国内平和論を展開しているということができるが、こ れらの論者が主張する制度整備といった条件をポストコンフリクトという状況において果 たして本当に満たしうるのかについては大きな疑問が残る。 

例えば、Paris  は IBL 戦略の重要要素として次の 6 項目を挙げている21。   

① 節度ある(moderate)政治政党が形成されるまで、選挙の実施を延期する。 

② 過激主義(extremism)ではなく、中道主義(moderation)に報いるような選挙 ルールをデザインする。 

③ 社会的な紛争ライン(lines of societal conflicts)を横断するような市民社会組織 の発展を奨励し、暴力を先導する組織を排斥する。 

④ 扇動的なヘイト・スピーチ(hate speech)を規制する。 

⑤ 社会的緊張を悪化させるのではなく緩和させる経済改革を促進する。 

⑥ 効果的な(effective)治安部門諸機関と専門的・中立的な官僚機構を設立する。 

 

すなわち、これらの要素が Paris の主張する制度化(institutionalization)の中核をなす と考えられるが、彼はこれらの提言を、民主化が失敗したポストコンフリクト国の事例に 依拠して展開しており、実際にポストコンフリクト国でこれらの条件を満たすことが可能 であり、これらの条件を満たした上で民主化を進めることで民主的国内平和が実現すると いう具体的な論拠は示していない。この例をはじめとして、「条件付」民主的国内平和を主 張する疑問は往々にして失敗事例に基づく「べき論」の域にとどまってしまっており、具 体的な裏づけをもって「条件付」民主的国内平和を立証している先行研究は今のところ存 在しない。 

 

19  Paris 2004 

20  Snyder 2000 

21  Paris 2004 

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